万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

お米の先物取引は即刻廃止すべき

2024年12月23日 11時36分01秒 | 日本政治
 秋の収穫期も過ぎ、年の瀬も押し迫っている今日、凡そ2倍に高騰したお米の価格は一向に下げる様子は見られません。収穫量も十分に確保されているはずなのに、お米の集荷業者間では‘争奪戦’が続いているというのです。この‘異常現象’も、あるいは、大阪堂島商品取引所で始まったお米の先物取引の影響であるのかもしれません。


 商品の先物取引一般には、通常、限月における現物の受渡しを伴います。このことは、先物取引への投資額が増えるほど、消費者とは無関係な次元でのお米の取引量が増加することをも意味します(「受渡決済」)。もっとも、大阪堂島商品取引所におけるお米の先物市場につきましては、現物の受渡しを伴わない形での決済も行なわれているようです。取引参加者の大半は、農家、農協、卸売業者等の当事者ではない「非当事者」即ち、証券会社や内外の投資家といった人々によって占められているからです。これらの「非当事者」が先物取引を行なう場合には、「差金決済」が行なわれています。例えば、SBI証券による顧客向けの説明では、同取引には現物の受渡は伴わず「差金決済」のみとしています。


 現物の受渡しを伴わないならば、お米の需給関係に対する影響は薄いようにも思えますが、これでは、何故、お米の先物取引の再開が許可されたのか、国民に対して合理的な説明を行なうことが難しくなります。現物の受渡を伴わない取引とは、「空売り」や「空買い」ともなりかねず、実体経済を離れた値動きによるバブルが生じかねないからです。証券等での空取引は法的規制の対象になっていますので、何故、政府が、お米の先物市場の開設に際してこれを許したのか、不思議でなりません。消費者や生産者にとりましての先物取引の唯一のメリットは価格や所得の安定化機能にあるのですから、これでは、内外の投資家に対して投機、あるいは、マネーゲームの場を提供したに等しくなります(海外投資家にも開放されている・・・)。農林中金の1兆を越える巨額損失は、先物市場に投機マネーを呼び込んだことでしょう。


 また、上述したように先物取引の契約には、最終決済日となる限月が定められているものですので、一般の顧客に対しては「差金決済」としつつも、実際には、証券会社等で一括管理している先物取引の契約書には、お米の受渡日が明記されているのかも知れません。となりますと、「買いヘッジ」を行なった証券会社や直接に取引を行なった内外の投資家には受渡請求権があり、この売り手側に対する権利の行使が、収穫シーズンを過ぎた時期においてもお米の買取争奪戦が収まらない原因であるとも考えられましょう。そして、それは、さらなる米価の上昇をもたらすとともに、「買いヘッジ」による利益をも一層押し上げていることにもなります。その一方で、先物価格が下落するとすれば、それは、投機マネーが、今度は米価の暴落を見込んで「売りヘッジ」に仕掛けている予兆として警戒すべきなのかも知れません。

 何れにしましても、大阪堂島商品取引所におけるお米の先物取引の再開は、今般の米価高騰と無関係であるとは思えません。先物取引については、変動リスクの回避による物価や所得の安定化をもってその存在意義が説明されていますが、お米の場合には、今日、国レベルでの備蓄米制度もあり、価格の安定は、流通量の調整によって実現することができます。先物取引に安定化機能を求めることが如何に国民に採りまして危険であるのかは、今般の一件によって示されたのですから、政府は、先ずもって、お米の先物取引市場を閉鎖すると共に、米価の正常化に努めるべきではないかと思うのです。


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