万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

二頭作戦を無力化する方法

2023年06月19日 13時11分52秒 | 国際政治
 1999年に公開されたアメリカのSFアクション映画に『マトリックス』という作品があります。同映画にあって最も有名なシーンは、仮想現実の世界にそれとは知らずに生きてきた主人公であるトーマス・アンダーソンが、赤いカプセルと青いカプセルの二つの内から一つを選ぶように迫られる場面です。青いカプセルを選択すると、このまま仮想現実の中で生き続け、赤いカプセルを選択すると現実の世界で目覚めるというのです。結局、赤いカプセルを選ぶのですが、コンピュータに支配されている現実を目の当たりにしたトーマスは、同支配を打破する人類の救世主となるべく、コンピュータとの闘いに挑んでゆくのです。

 このストーリー、どこか現実とオーバラップしており、アメリカ政治の現状をSF仕立てに描いた現代の風刺映画であるのかもしれません。否、世界権力が推し進めている近未来ヴィジョンを見る限り、現実の方がSF化しているとも言えましょう。仮想現実と現実との融合は既に起きているのですが、共和党が赤いカプセルを、民主党が青いカプセルをそれぞれ象徴しているとしますと、『マトリックス』の世界は絵空事ではなくなります。共和党のトランプ前大統領はディープ・ステートの存在を暴露し、‘救世主’の役割が期待されている一方で、片やマスメディアをも支配するリベラルは、全世界に張り巡らしたマスメディアをも駆使して自らが演出している‘世界’を現実と置き換えようと必死なのですから。

 それでは、『マトリックス』のように、赤のカプセルを選択すれば、人類はコンピュータ支配から救われるのでしょうか。陰謀論がその大筋において事実であることが判明した今日、人類は、偽旗作戦に対しても警戒する必要があります。人類の救世主として出現した人物が、‘偽メシア’である可能性も頭に入れなければならないからです(ユダヤ人の歴史には、しばしば‘偽メシア’が出現している・・・)。赤と青との間の二者択一は、どちらを選択しても行く先が同じ場所、即ち、地獄であるというメビウスの輪的な巧妙や罠であるかもしれないのです。アメリカ、否、世界権力からの強い内政干渉に曝され、与野党共にそのコントロール下にある日本国内に政治状況も、アメリカと然して変わりはないのでしょう。

 もっとも、冷静に考えてみますと、二頭作戦からの脱出方法は、それ程には難しくはないのかもしれません。何故ならば、世界権力の手法とは、基本的には心理作戦であるからです。戦争、災害、革命、テロ、要人暗殺、恐慌等を利用したショックドクトリン、あるいは、マスメディアが人々に浴びせる‘洗脳シャワー’やプロパガンダ等もその一つなのでしょう。人々をパニック状態や陶酔状態に陥れ、健全な知性が働かず、思考停止状況に心理的に追い込むのです。そして、人々の選択肢を自らが仕掛けた二つに絞り込めれば、凡そ逃げ道は塞がれたに等しくなります。
 
 『マトリックス』におきましても、主人公は、青か赤のカプセルの内の一つしか選べません。スクリーンを見ている映画館の観客も、この二者択一のシーンを至極当然のこととして見入っているかもしれません。現実世界にあっても、各国の国民は、これに似た選択を迫られています。しかしながら、そもそも、何故、提示された二つの内の一つしか選べないのか、ということを考えてみることは、二頭作戦から脱出するための第一歩のように思えます。他者から与えられた選択肢から離れ、思考を自由に解き放てば、未来への道は無数に存在するからです。

 選ばせる方からすれば、選ぶという行為には自発性を伴いますので、たとえそれが二者択一に追い詰められた末であったとしても、選択した者の自由意志として言い逃れることができます。‘私たちが強制したのではなく、選んだのはあなた方である’と。如何なる結果を招いたとしても、あくまでも選んだ側の責任にされてしまうのです。こうしたケースでは、‘選択肢が二つしかない、ということはないはずです’、あるいは、‘何故、選択肢は二つのみなのですか’と尋ねてみますと、返答や回答に窮するかもしれません。『マトリックス』であれば、二つのカプセルの何れをも飲むのを拒否し、二頭作戦という相手方が準備した舞台から降りてしまうのです(無力化・・・)。

 そして、既に用意されたものを選ばされるのではなく、自ら新しいものを造るという発想こそ、二頭作戦から逃れる第二のステップともなりましょう。自発的に自らが生きる世界について考えてゆく思考力、構想力、開発力等の知力を磨き、建設的な代替案を具体的に提案すれば、人類支配の計画は大きく狂ってくるはずです。今日、生成AIやロボット等によって人々から職を奪おうとしたところ、人類が独創性に目覚め、二頭作戦から自らを救う道を見出すとすれば、世界権力にとりましては思わぬ‘どんでん返し’となるのかもしれません(メビウスの輪の逆転・・・)。

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