万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

雇用の安定化を誰も言わない自民党総裁選挙

2024年09月27日 09時30分29秒 | 日本政治
 本日9月27日、国民が注視する中、いよいよ自民党総裁選挙の投票日を迎えることとなりました。目下、小泉進次郎候補の予想外の失速により、当初のシナリオから逸脱した波乱含みの展開となっていますが、何れの候補者が総裁に選ばれたとしましても、国民にとりましては‘一難去ってまた一難’の状況が続きそうです。

 小泉候補が逆風に晒される切っ掛けとなったのは、解雇の規制緩和を言い出したところにあります。あまりの強い世論の反発に、企業に対するリスキングと再就職支援の義務化を条件として付け加えたのですが、これらの条件も、グローバリストが導入を進めてきた手法であることに加え、竹中平蔵氏が会長を務めるパソナなど、人材派遣事業者のビジネス・チャンスともなるために、グローバリストの手先とする同候補のイメージをさらに強める逆効果ともなりました。これを機に一気に小泉候補の勢いが萎んでゆき、マスメディアが決選投票に残る可能性をかき立てつつも、河野太郎候補と並んで‘もっとも首相になって欲しくない’候補者の一人となってしまったのです。

 それでは、何故、解雇規制の緩和がこれほどまでに激しい国民の反発を招いたのでしょうか。おそらくその理由は、国民の耳には、小泉候補の発言が「私は、あなたが明日から失業しても構いません」、あるいは、「あなたが失業すれば、日本経済は復活します」と聞えたからなのでしょう。解雇の自由化とは、正規社員でさえ明日の職場の保障がないことを意味しますので、国民にとりましては、自らの生涯における最大の危機、すなわち、死活問題ともなってしまうのです。

 今日の政治家達、とりわけ、マスメディアが持ち上げる有力政治家達がグローバリストに取り込まれたことは、政治の‘経済化’をも意味します。公営事業の民営化のみならず、これまで民間の領域であった企業の組織や雇用形態にまで政治が大きく踏み込むこととなったからです(日本企業の家族的な組織形態は、江戸時代以前からの村落並びに商家の伝統や慣習に遡るのでは・・・)。それもそのはず、世界権力の中核となるグローバリストは金融・経済勢力ですので、自らの利益を最大化するためには、全世界の企業に対して同目的に最も適した組織雇用形態へ変更させる必要があるからです。言い換えますと、政治家達に命じられた主要な‘ミッション’の一つは、‘グローバル・スタンダード’に合わせた経済システムへの改革なのです。

 この点、他の候補者達も小泉候補と五十歩百歩であり、積極的に雇用の安定を訴える候補者は見当たりません。口を揃えるかのように、成長分野への人材の移動を容易にすると述べるのですが、政治家が頭に描いている‘成長分野’がDXやGXといったデジタル・環境関連の分野であるとしますと、企業は、たとえ再教育プログラム等が実施されるとはいえ、余剰人員とされるシニア層よりも、即戦力を有する若手を採用することでしょう。一方、シニア層にとりましては、一からデジタル等を学び直さなければならず、しかも専門性が高いほど、スキルの習得に時間と労力を要します。大多数の人々は、将来的な給与の大幅な低下が容易に予測できますので、リスキングや再就職支援の義務化は安心材料にはならないのです。また、‘成長分野’の就職に有利となる若年層にとりましても、解雇規制の緩和は、テクノロジーの変化が激しい時代にあっては短期間での‘使い捨て’を意味しましょう。

 何れの世代にとりましても解雇の規制緩和は自らの人生に直接に関わる重大な危機ともなりかねないのですが、失業者の増加に対しては、生活保護を含む支援金や給付金の支給によって対処できるとする意見もありましょう。公的なセーフティーネットさえしっかりしていれば失業も怖くはない、という意見です。財政出動積極論はこの立場にあるのかも知れませんが、同対策には予算の増額を伴いますので、今度はさらなる増税に怯えなければならなくなります。タコが自らの足を食べるような対策では、根本的な解決には至らないのです。

 そして、この自民党総裁選挙から見える‘行き詰まりとも言える’選択の閉塞性は、グローバル路線からの離脱こそ、日本国の活路となる可能性を示しています。そしてそれは、国民は、心からデジタル社会の到来を望んでいるのか、という問いかけに繋がってくるのです。何故ならば、国民を不安定で無味乾燥とした世界に向けて駆り立てているのは、デジタル化という社会システム全体の変革構想にあるからです(つづく)。

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