万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

謎に満ちた深圳の日本人男児刺殺事件

2024年09月24日 11時58分37秒 | 日本政治
 今月9月18日、中国の広東省深圳市において日本人学校に通っていた男の子が中国人男性によって刺殺されるという痛ましい事件が発生しました。9月18日が満州事変の発端となった柳条湖事件の起きた日であったことから、犯人の動機は、反日感情にあるとする見方もあるようです。報道に因りますと、殺害の現場は凄惨を極めたとされており、日中両国に衝撃が走ることともなったのです。

 先ずもって、中国人の中年男性が、何らの罪もない無防備な男の子を刃にかけたのですから、日本国内では反中感情が広まります。保守系の論客の中には、日本国政府に対して中国に対する強硬な措置を求める意見も現れるようになります。また、犯行の動機が過去の歴史に由来する中国人の反日感情にあるならば、同事件は、全ての中国人ではないにせよ、反日教育の影響もあって、中国人の中には未だに根強い嫌日感情が残っている現状をまざまざと見せつけたことにもなりました。今日、日本国内には在日中国人並びに中国系日本人が数多く居住していますので(中国当局から送り込まれている工作員も含まれているはず・・・)、同事件は、中国国内に滞在している日本人のみならず、日本国内でも警戒感を高めたとも言えましょう。

 その一方で、中国国内にあっても、SNS等では、中国人犯人を擁護する書き込みも見られたようです(現在は、当局により削除されているとも・・・)。尖閣諸島中国領発言でNHKを解雇された中国人アナウンサーのアカウントにも、同事件の‘元凶’は「安倍晋三政権が推進してきた歴史修正主義路線だ」とするコメントが投稿されたそうです。もちろん、同胞である犯人を批判したり、被害者となった日本人男児を悼む中国の人々の声もあるものの、9月18日という日に日本人憎悪を呼び覚まされた人も少なくないのです。

 以上に簡単に述べたように、同事件は、日中双方の国民感情を悪化させる方向に作用したことは疑い得ません。しかしながら、その一方で、同事件には、腑に落ちない点が見受けられます。最も謎となるのが、被害者となる男児の姓名が一切公表されていないことです。通常、殺人事件が起きた場合には、それが未成年者であっても報道されるものです(1993年にアメリカで起きた銃による日本人留学生殺害事件では、被害者の姓名が事件名ともなった・・・)。今般の事件では、年齢が10歳であったことだけは分かるものの、全ての報道機関が日本人男子児童、あるいは、日本人男児といった表現で報じているのです。

 また、同男児の両親に関する情報も殆ど見られません。母親は同男児と一緒に日本人学校のスクールバスを待っていたとされ、駐在員として中国に赴任している夫とともに同市に滞在していた専業主婦であったものと推測されます。その一方で、父親の務め先は中国に支店や営業所、あるいは、製造拠点等を置くメーカー系の日系企業であると推測されますが、勤務先企業の情報がないのです(パナソニックHDが中国駐在員と家族の一時帰国を支援するとの報道があり、同社の社員である可能性はある・・・)。

 加えて、被害者家族には、日本国内に祖父母といった親族が住んでいるはずです。ところが、今回の事件では、こうした日本国との血縁や地縁的な繋がりや絆が見えてこないのです。殺人事件が起きる度に、常々マスメディアが被害者の親族宅等に押しかけてインタヴューを試みては批判を浴びるのですが、今般の事件では、国内マスメディアは取材に動いた気配がないのです。

 それでは、何故、重大事件でありながらも、かくも情報が隠されているのでしょうか。共産党一党同載体制にあって厳しい世論監視、並びに、情報統制下にある中国ではあり得るものの、日本国内における徹底した情報統制には、何らかの理由があるはずです。そこで、ネットにて調べてみましたところ、ある記事を発見しました。

 実のところ、中国の警察が被害者となった男児の名前を既に公表しており、「沈」という姓なそうなのです。その他、中国のウェブ上で得られたとされる情報に因りますと、フルネームでは「沈航平」であり、父親の小山純平氏で日本人、母親は中国人とのことです。もっとも、父親とされる純平氏の姓は小山ですので、「航平君」は、出生時に母親の戸籍に入ったものと推測されます。自民党総裁選挙にあって選択的夫婦別姓が議論されておりますように、現行の制度では夫婦別姓は認められていませんので、航平君の日本国籍は、純平氏の認知によるものと考えざるを得なくなります。いささか複雑な家族関係にあるのかもしれません。なお、中国では、「鍾」という犯人の名も明らかにされています。

 中国にて収集された情報により、謎は解けたようにも思われるのですが、これで謎は完全に消え去ったのでしょうか。例えば、上記の一般的な推測の他にも、小山純平氏が日本国籍を取得した中国系日本人、あるいは、韓国・朝鮮系日本人であった可能性もありましょう。純平氏が認めたとされる文章は流暢な中国語で書かれていますし(領事館宛に送付の予定?)、日中友好を願うと共に、航平君が日本人であることがとりわけ強調されています。

 被害者の氏名さえ伏せられている現状を見る限り、日本国では、中国以上に厳格な情報統制がなされていることにもなります。日本国政府がこうした厳しい情報統制を実施した理由としては、先ずもって日中関係の悪化回避を挙げることができましょう。しかしながら、上記の情報や推測が事実であるならば(中国当局が流したフェイクニュースの可能性も・・・)、これらを公表した方が事態は自ずと沈静化に向かうはずです。伏せようとしているところに、何らかの思惑の存在が推測されてくるのです。そしてそれは、事件が起きた日かの柳条湖事件の日であるだけに、きな臭さが増している国際情勢とは無縁ではないように思えるのです。

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