[1月9日14:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]
敷島:「何だか、どこかに潜んでいる気がするなぁ……」
敷島はトイレを済ませた後、洗面台で手を洗いつつ、天井の通気ダクトを見上げた。
格子状のグレーチングの先には闇があるだけで、もちろんそこに都合の良いタイミングで黒いロボットが潜んでいようはずがない。
敷島:「うーん……」
バシュー!
敷島:Σ(゚Д゚)
突然、小便器の1つから水が勝手に流れ出した。
もちろん、これは最近のセンサー内蔵便器には当たり前の標準仕様。
一定時間使用が無いと、排水溝の汚れなどを取る為に勝手に水が流れるシステムになっているのだ。
とはいえ、静まり返ったトイレ内でいきなりのジェット水流だと、例え分かっていてもビックリするものである。
夜中に巡回する警備員泣かせのトイレでもある。
だからなのか、最近は『人がいなくても水が流れます』という表示が見える所にしてあることも多い。
敷島:「何だか、ホラーチックだなぁ……」
ザザザー!
敷島:Σ(゚Д゚)
今度は個室の方だ。
こちらも最新のセンサー式ではあるのだが、これは仕様なのか、あるいはセンサーの不具合によるものなのかは不明。
敷島:「全く。あの黒いロボットと関わってから、ロクなことが無ェ……」
18階をワンフロア借りしている為、例え共用トイレとは言っても、殆ど敷島エージェンシーの関係者しかトイレを使わない。
ましてや、ここに入居した当初、人間は敷島と井辺しかいなかった為に、ほとんど使用は無かったと言える。
敷島:「うおっ!?」
トイレの外に出ると、鏡音リンが待ち構えていた。
敷島:「どうした、リン!?びっくりしたなぁ……」
リン:「ねぇ、社長。リンね、『人間ってのは不便な生き物だねー』って思ってたんだ」
敷島:「ああ。いちいちトイレに行かなきゃいけないからか?まあ、人間も生き物だからな」
リン:「でもね、アルるんもトイレに行くことがあるから、何だかなぁ……って」
敷島:「アルエットか。あいつは燃料電池駆動だもんな。水素を使っているから、廃水が発生するんだ。それを排水するのに、せっかくだからもっと人間に似せるという理由で、トイレに行かせる仕様にしてるんだよ」
リン:「リンもそれに改造できない?」
敷島:「いや、それは無理だな。そもそもマルチタイプとボーカロイドじゃ、体の中の構造が違うし……」
というか、そもそもそのマルチタイプであっても、旧型の7号機までと新型の8号機以降では動力が違う。
敷島:「エミリーとシンディも燃料電池駆動に改造してみるか検討したんだけど、やっぱやめた」
リン:「どーして?」
敷島:「今、リンが言ったセリフさ。いちいちトイレに行くことが、やっぱ面倒だからだよ。そんな不便な所まで再現することは無かろうということでな。バッテリーで動けるお前達は、そこが便利なんだよ」
リン:「でも充電したり、バッテリー自体交換しないといけないYo〜?」
敷島:「それでいいんだよ。人間だって、飯を食わないといけない」
そこへシンディがやってきた。
シンディ:「あ、ここにいたんですか、社長」
敷島:「お、シンディ。どうした?」
シンディ:「平賀博士から電話です。大至急お戻りください」
敷島:「おっ、そうだった。そういうわけだから、じゃな。リン」
リン:「うん!」
敷島は小走りに社長室へ戻って行った。
シンディ:「社長と何を話していたの?」
リン:「シンディの言う『人間の下等で愚かな部分』だYo」
シンディ:「んん?」
リン:「それじゃリン、ボイス調整やってくるね」
シンディ:「あ、ああ。行っといで」
人間のアイドルならボイストレーニング、略称ボイトレだが、ボーカロイドの場合は調整となる。
シンディ:「リンの奴、何て……?」
敷島は社長に戻り、すぐに電話に駆け寄った。
敷島:「もしもし!すいません、お待たせしました」
平賀:「ああ、敷島さん。お忙しいところ、申し訳ありません」
敷島:「いえ。何かありましたか?」
平賀:「はい。エミリーのことなんですが……」
敷島:「エミリーがどうかしましたか?」
平賀:「成田営業所から連絡があって、どうも重要な部品まで交換しないといけないみたいなんです。それが営業所で調達しようとすると時間が掛かるので、仙台に移送しようと思います」
敷島:「また仙台ですか。行ったり来たり、大変ですな。でもまあ、エミリーにはそれくらいの価値がありますからね」
平賀:「ええ。その部品、東北工科大学で作れるので、エミリーはついでにこっちで直します」
敷島:「そっちは雪はどうですか?」
平賀:「何とか除雪が進んできましたね。幸いあれから雪は降っておらず、しかも1月にしては最高気温が高めですから。余計、雪が融けやすいんでしょう」
敷島:「そうですか。雪が融けてくれるのはありがたいですが、あまり急激だと雪崩とか雪解け水による水害もあったりしますからね」
平賀:「ええ。すいませんが、エミリーはもう少し預からせて頂きます」
敷島:「ええ、よろしくお願いしますよ」
平賀:「静岡には行きますか?」
敷島:「そのつもりです。先生とエミリーが行けないのは残念ですが、シンディでも連れて行きますよ。あとは誰か、ロボットに詳しい人物がいれば……」
平賀:「アリスでも連れて行ったらどうですか?」
敷島:「あ、そうか……」
敷島は、あとは吉塚広美の遺族と連絡を取った。
遺族達は別にロボット関係には関わっておらず、しかも吉塚がロボット関係の仕事をしていることは知っていたものの、まさかKR団に所属していたことまでは知らなかったという。
ま、そりゃそうだろう。
『ロボットが人間の代わりに仕事をするのは大いに結構。だがしかし、“万物の霊長”たる地位まで譲る必要は無い』ことの理念の遂行を目的に、テロ活動も辞さなかった組織のことなど、話すわけが無い。
敷島がそんな遺族と連絡を取ったのは、再び吉塚広美が住んでいた家を調査したいが為、その許可を取る必要があったからだった。
当然ながら遺族はそんな連絡に驚きはしたものの、調査に関しては意外とあっさりOKが下った。
何でも今その家は、空き家になっているのだという。
最近日本で問題になりつつある空き家だが、元KR団幹部だった女性科学者の家までもその問題の波に呑まれているということか。
敷島:「何だか、どこかに潜んでいる気がするなぁ……」
敷島はトイレを済ませた後、洗面台で手を洗いつつ、天井の通気ダクトを見上げた。
格子状のグレーチングの先には闇があるだけで、もちろんそこに都合の良いタイミングで黒いロボットが潜んでいようはずがない。
敷島:「うーん……」
バシュー!
敷島:Σ(゚Д゚)
突然、小便器の1つから水が勝手に流れ出した。
もちろん、これは最近のセンサー内蔵便器には当たり前の標準仕様。
一定時間使用が無いと、排水溝の汚れなどを取る為に勝手に水が流れるシステムになっているのだ。
とはいえ、静まり返ったトイレ内でいきなりのジェット水流だと、例え分かっていてもビックリするものである。
だからなのか、最近は『人がいなくても水が流れます』という表示が見える所にしてあることも多い。
敷島:「何だか、ホラーチックだなぁ……」
ザザザー!
敷島:Σ(゚Д゚)
今度は個室の方だ。
こちらも最新のセンサー式ではあるのだが、これは仕様なのか、あるいはセンサーの不具合によるものなのかは不明。
敷島:「全く。あの黒いロボットと関わってから、ロクなことが無ェ……」
18階をワンフロア借りしている為、例え共用トイレとは言っても、殆ど敷島エージェンシーの関係者しかトイレを使わない。
ましてや、ここに入居した当初、人間は敷島と井辺しかいなかった為に、ほとんど使用は無かったと言える。
敷島:「うおっ!?」
トイレの外に出ると、鏡音リンが待ち構えていた。
敷島:「どうした、リン!?びっくりしたなぁ……」
リン:「ねぇ、社長。リンね、『人間ってのは不便な生き物だねー』って思ってたんだ」
敷島:「ああ。いちいちトイレに行かなきゃいけないからか?まあ、人間も生き物だからな」
リン:「でもね、アルるんもトイレに行くことがあるから、何だかなぁ……って」
敷島:「アルエットか。あいつは燃料電池駆動だもんな。水素を使っているから、廃水が発生するんだ。それを排水するのに、せっかくだからもっと人間に似せるという理由で、トイレに行かせる仕様にしてるんだよ」
リン:「リンもそれに改造できない?」
敷島:「いや、それは無理だな。そもそもマルチタイプとボーカロイドじゃ、体の中の構造が違うし……」
というか、そもそもそのマルチタイプであっても、旧型の7号機までと新型の8号機以降では動力が違う。
敷島:「エミリーとシンディも燃料電池駆動に改造してみるか検討したんだけど、やっぱやめた」
リン:「どーして?」
敷島:「今、リンが言ったセリフさ。いちいちトイレに行くことが、やっぱ面倒だからだよ。そんな不便な所まで再現することは無かろうということでな。バッテリーで動けるお前達は、そこが便利なんだよ」
リン:「でも充電したり、バッテリー自体交換しないといけないYo〜?」
敷島:「それでいいんだよ。人間だって、飯を食わないといけない」
そこへシンディがやってきた。
シンディ:「あ、ここにいたんですか、社長」
敷島:「お、シンディ。どうした?」
シンディ:「平賀博士から電話です。大至急お戻りください」
敷島:「おっ、そうだった。そういうわけだから、じゃな。リン」
リン:「うん!」
敷島は小走りに社長室へ戻って行った。
シンディ:「社長と何を話していたの?」
リン:「シンディの言う『人間の下等で愚かな部分』だYo」
シンディ:「んん?」
リン:「それじゃリン、ボイス調整やってくるね」
シンディ:「あ、ああ。行っといで」
人間のアイドルならボイストレーニング、略称ボイトレだが、ボーカロイドの場合は調整となる。
シンディ:「リンの奴、何て……?」
敷島は社長に戻り、すぐに電話に駆け寄った。
敷島:「もしもし!すいません、お待たせしました」
平賀:「ああ、敷島さん。お忙しいところ、申し訳ありません」
敷島:「いえ。何かありましたか?」
平賀:「はい。エミリーのことなんですが……」
敷島:「エミリーがどうかしましたか?」
平賀:「成田営業所から連絡があって、どうも重要な部品まで交換しないといけないみたいなんです。それが営業所で調達しようとすると時間が掛かるので、仙台に移送しようと思います」
敷島:「また仙台ですか。行ったり来たり、大変ですな。でもまあ、エミリーにはそれくらいの価値がありますからね」
平賀:「ええ。その部品、東北工科大学で作れるので、エミリーはついでにこっちで直します」
敷島:「そっちは雪はどうですか?」
平賀:「何とか除雪が進んできましたね。幸いあれから雪は降っておらず、しかも1月にしては最高気温が高めですから。余計、雪が融けやすいんでしょう」
敷島:「そうですか。雪が融けてくれるのはありがたいですが、あまり急激だと雪崩とか雪解け水による水害もあったりしますからね」
平賀:「ええ。すいませんが、エミリーはもう少し預からせて頂きます」
敷島:「ええ、よろしくお願いしますよ」
平賀:「静岡には行きますか?」
敷島:「そのつもりです。先生とエミリーが行けないのは残念ですが、シンディでも連れて行きますよ。あとは誰か、ロボットに詳しい人物がいれば……」
平賀:「アリスでも連れて行ったらどうですか?」
敷島:「あ、そうか……」
敷島は、あとは吉塚広美の遺族と連絡を取った。
遺族達は別にロボット関係には関わっておらず、しかも吉塚がロボット関係の仕事をしていることは知っていたものの、まさかKR団に所属していたことまでは知らなかったという。
ま、そりゃそうだろう。
『ロボットが人間の代わりに仕事をするのは大いに結構。だがしかし、“万物の霊長”たる地位まで譲る必要は無い』ことの理念の遂行を目的に、テロ活動も辞さなかった組織のことなど、話すわけが無い。
敷島がそんな遺族と連絡を取ったのは、再び吉塚広美が住んでいた家を調査したいが為、その許可を取る必要があったからだった。
当然ながら遺族はそんな連絡に驚きはしたものの、調査に関しては意外とあっさりOKが下った。
何でも今その家は、空き家になっているのだという。
最近日本で問題になりつつある空き家だが、元KR団幹部だった女性科学者の家までもその問題の波に呑まれているということか。