[7月29日09:30.天候:雨 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター別館2F→地下研究施設B2F]
高橋:「どうぞ、先生。お茶が入りました」
愛原:「ありがとう」
部屋で待っている間、高橋は室内に備え付けられていた電気ケトルで湯を沸かし、これまた室内にあった茶器でお茶を入れてくれた。
絵恋:「雨が降ってきたわ」
リサ:「ゲリラ豪雨?」
絵恋:「うーん……。普通の低気圧じゃない?」
リサ:「血圧が低いと、天気の悪い日は具合が悪くなるって聞いたことある」
絵恋:「気圧が低くなると、血圧の低い人は影響を受けやすいって言うよね。あの小島さんなんかもそうだって」
リサ:「コジマが」
絵恋:「『女の子の日』が来そうな時、低気圧が来るタイミングがきっかけで来るって言うから、その点は分かり易いよね」
リサ:「するとサイトーは高血圧……」
絵恋:「いや、普通だから!」
窓際で外を眺めている少女達。
こちらは山側……というのか。
北東側と言えばいいのか。
窓の外から藤野の町や、遠くに中央高速などが見える。
きっと夜景はきれいだろう。
しかし、あんまり窓の外を覗いてもいいのか?というと、実は大丈夫。
真っ先に気づいたのは高橋だが、これは防弾ガラスだという。
しかも、開口部が換気できる程度に小さく開く程度だ。
これなら外から狙撃されても、ガラスが割れることはないだろう。
私が湯呑みで緑茶を啜っていると、室内の電話が鳴った。
愛原:「電話だ」
さすがに室内の電話は今風の固定電話で、八王子中央ホテルにあるような黒電話ではなかった。
着信音もジリジリベルではなく、電子音だ。
愛原:「はい、もしもし?」
職員:「愛原さんですか?」
愛原:「はい、そうです」
職員:「私、地下の研究施設の者です。本日はよろしくお願い致します」
愛原:「こちらこそ、よろしくお願い致します」
職員:「準備ができましたら、エレベーターで地下2階までお越しください。愛原リサさんと斉藤絵恋さんにあっては、動き易い服装にされることをお勧めします」
愛原:「あ、そうですか。それでは、着替えるのに少しお時間をください」
職員:「分かりました。10時までに来て頂ければ結構ですので」
愛原:「10時までですね。分かりました。……はい。それじゃ、失礼致します」
私は電話を切った。
愛原:「地下から呼び出しだぞ。リサと絵恋さんは、動き易い服装に着替えた方がいいらしい。多分、色々と検査をするからだろう。持って来てるよな?」
リサ:「もちろん」
絵恋:「はい」
愛原:「じゃ、そっちで着替えて来て」
私は引き戸の向こう側を指さした。
引き戸の向こう側は、2段ベッドが1つある。
そちらがリサと絵恋さんの寝床だ。
この座卓などがあるスペースを挟んで、反対側にも同じ引き戸がある。
それを開けると、今度は私と高橋の寝床である2段ベッドがあるという寸法だ。
ベッドルームは四畳半くらいのスペース、このリビングと言って良いのかどうか分からないが、座卓やテレビのある間は8畳ほどあった。
どうしてこのような造りになっているのか分からないが、男女グループが1つの部屋に泊まろうとする時、男女別で寝起きしたり着替えたりできるので、その為かと思った。
しばらくして、2人の少女は学校のジャージに着替えて来た。
夏なので、上は半袖Tシャツに、下はグリーンのハーフパンツである。
リサ:「お待たせ」
絵恋:「着替えは置いて行っていいんでしょうか?」
愛原:「いいみたいだよ。貴重品だけ持って行けばいいらしい」
リサ:「なるほど」
まあ、財布とスマホってことになるか。
あとは忘れて行けないカードキー。
絵恋さんはポーチを持って来た。
リサは手ぶら。
もっとも、ハーフパンツのポケットが膨らんでいるので、そこに色々と入れているのだろう。
部屋を出て、カードキーでドアを施錠する。
そしてその足でエレベーターに向かった。
このエレベーターは少し変わっていて、L字型になっているのである。
よく駅のエレベーターとか、福祉施設などで見かけるあのタイプだ。
変わっているのは、防犯窓が反対側のドアには付いていないこと。
地下階へ行くボタンが、反対側のドア横にだけ付いているということだ。
そして、そのボタンの下にはカードリーダーがあって、カードキーをそこに当てないとボタンを押しても反応しない。
駅などにあるのは比較的新しいタイプだが、ここにあるのは案外古いタイプだということだ。
表向きには車椅子などのバリアフリーに対応する為であろが、実際は地下へアクセスする為のエレベーターということだ。
その証拠に、地下階のボタンを押すと、音声案内が無くなった。
高橋:「何か、荷物用のエレベーターっぽいですね」
愛原:「確かにな」
八王子中央ホテルのは古めかしい機種でも、一応宿泊客用の為か、床がカーペット敷であったが、こちらは黒い金属製であった。
滑り止めの為に凹凸が付けられている。
リサ:「地下やだな……」
エレベーターのドアが閉まって降下すると、リサはそう呟いた。
1階と2階では開くドア側には防犯窓が付いているが、1階から下に行くとその窓の外はコンクリートの壁しか見えなくなる。
上昇・下降のスピードは比較的ゆっくりである為、油圧式で稼働しているのだろうと推測する。
指定された通り地下2階へ着くと、ビーッというブザー音が鳴った。
八王子中央ホテルでは、ドアが閉まる時にブザーが鳴ったが、こちらでは開く時にブザーが鳴るようだ。
〔ようこそ、お越しくださいました。訪問を歓迎します〕
重々しい金属製のドアが開くと、その先は見覚えのある光景が広がっていた。
見た目はまるで病院。
そしてその受付では、先ほどの電話と同じ声の女性職員がいた。
職員:「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
愛原:「あ、どうも。よろしくお願い致します」
職員:「所内ではリストタグを着けて頂きます」
愛原:「あ、なるほど。カードキー式から、リストタグ式にしたんだってね」
職員:「さようでございます」
職員は事務職員なのか、白衣ではなく、普通の事務服を着ていた。
私達は緑色のタグの付いたリストタグをもらった。
緑色はビジター用だという。
所内でもアクセス権限が一番弱く、開けられるドアの数が1番少ない。
この職員のは一般職員用ということで、青色であった。
この他に管理職が着けられる上級職員用と、所長クラスが着ける『マスター』があるという。
職員:「まずは今回、どのような流れで検査が行われるのか御説明させて頂きますので、会議室までご案内致します」
愛原:「よろしくお願いします」
私は受付の女性職員に付いて行った。
途中あった部屋の入口を見ると、どの色のタグで開けられるのか、色の付いたラベルが貼ってあった。
案内された会議室には緑色のラベルだけが無かったので、一般職員以上の者しか開けられない(入れない)のだと分かる。
まあ、訪問者が単独で会議室に入ることはないか。
もし仮に単独で入ることになったとしても、会議の始まる時間までは扉は開放されるに違いない。
職員:「因みにの皆さんにお渡ししたリストタグは、お手洗いやリフレッシュルームなどの共用エリアくらいしかアクセスできません」
高橋:「なにっ?トイレに行くのにも、鍵を開けないといけないのか?」
職員:「ここはそれだけ機密事項を扱っている所なのです。ですので皆さん、どうかここでのことは御内密にお願いします」
愛原:「ご安心ください。我々探偵業者には守秘義務がありますので」
職員:「よろしくお願いします。それでは、席にお着き頂きまして、本日の検査担当者の御紹介から始めさせて頂きたいと思います」
こりゃ本格的だな。
目的は……リサの体内に宿っているという新種の寄生虫か。
高橋:「どうぞ、先生。お茶が入りました」
愛原:「ありがとう」
部屋で待っている間、高橋は室内に備え付けられていた電気ケトルで湯を沸かし、これまた室内にあった茶器でお茶を入れてくれた。
絵恋:「雨が降ってきたわ」
リサ:「ゲリラ豪雨?」
絵恋:「うーん……。普通の低気圧じゃない?」
リサ:「血圧が低いと、天気の悪い日は具合が悪くなるって聞いたことある」
絵恋:「気圧が低くなると、血圧の低い人は影響を受けやすいって言うよね。あの小島さんなんかもそうだって」
リサ:「コジマが」
絵恋:「『女の子の日』が来そうな時、低気圧が来るタイミングがきっかけで来るって言うから、その点は分かり易いよね」
リサ:「するとサイトーは高血圧……」
絵恋:「いや、普通だから!」
窓際で外を眺めている少女達。
こちらは山側……というのか。
北東側と言えばいいのか。
窓の外から藤野の町や、遠くに中央高速などが見える。
きっと夜景はきれいだろう。
しかし、あんまり窓の外を覗いてもいいのか?というと、実は大丈夫。
真っ先に気づいたのは高橋だが、これは防弾ガラスだという。
しかも、開口部が換気できる程度に小さく開く程度だ。
これなら外から狙撃されても、ガラスが割れることはないだろう。
私が湯呑みで緑茶を啜っていると、室内の電話が鳴った。
愛原:「電話だ」
さすがに室内の電話は今風の固定電話で、八王子中央ホテルにあるような黒電話ではなかった。
着信音もジリジリベルではなく、電子音だ。
愛原:「はい、もしもし?」
職員:「愛原さんですか?」
愛原:「はい、そうです」
職員:「私、地下の研究施設の者です。本日はよろしくお願い致します」
愛原:「こちらこそ、よろしくお願い致します」
職員:「準備ができましたら、エレベーターで地下2階までお越しください。愛原リサさんと斉藤絵恋さんにあっては、動き易い服装にされることをお勧めします」
愛原:「あ、そうですか。それでは、着替えるのに少しお時間をください」
職員:「分かりました。10時までに来て頂ければ結構ですので」
愛原:「10時までですね。分かりました。……はい。それじゃ、失礼致します」
私は電話を切った。
愛原:「地下から呼び出しだぞ。リサと絵恋さんは、動き易い服装に着替えた方がいいらしい。多分、色々と検査をするからだろう。持って来てるよな?」
リサ:「もちろん」
絵恋:「はい」
愛原:「じゃ、そっちで着替えて来て」
私は引き戸の向こう側を指さした。
引き戸の向こう側は、2段ベッドが1つある。
そちらがリサと絵恋さんの寝床だ。
この座卓などがあるスペースを挟んで、反対側にも同じ引き戸がある。
それを開けると、今度は私と高橋の寝床である2段ベッドがあるという寸法だ。
ベッドルームは四畳半くらいのスペース、このリビングと言って良いのかどうか分からないが、座卓やテレビのある間は8畳ほどあった。
どうしてこのような造りになっているのか分からないが、男女グループが1つの部屋に泊まろうとする時、男女別で寝起きしたり着替えたりできるので、その為かと思った。
しばらくして、2人の少女は学校のジャージに着替えて来た。
夏なので、上は半袖Tシャツに、下はグリーンのハーフパンツである。
リサ:「お待たせ」
絵恋:「着替えは置いて行っていいんでしょうか?」
愛原:「いいみたいだよ。貴重品だけ持って行けばいいらしい」
リサ:「なるほど」
まあ、財布とスマホってことになるか。
あとは忘れて行けないカードキー。
絵恋さんはポーチを持って来た。
リサは手ぶら。
もっとも、ハーフパンツのポケットが膨らんでいるので、そこに色々と入れているのだろう。
部屋を出て、カードキーでドアを施錠する。
そしてその足でエレベーターに向かった。
このエレベーターは少し変わっていて、L字型になっているのである。
よく駅のエレベーターとか、福祉施設などで見かけるあのタイプだ。
変わっているのは、防犯窓が反対側のドアには付いていないこと。
地下階へ行くボタンが、反対側のドア横にだけ付いているということだ。
そして、そのボタンの下にはカードリーダーがあって、カードキーをそこに当てないとボタンを押しても反応しない。
駅などにあるのは比較的新しいタイプだが、ここにあるのは案外古いタイプだということだ。
表向きには車椅子などのバリアフリーに対応する為であろが、実際は地下へアクセスする為のエレベーターということだ。
その証拠に、地下階のボタンを押すと、音声案内が無くなった。
高橋:「何か、荷物用のエレベーターっぽいですね」
愛原:「確かにな」
八王子中央ホテルのは古めかしい機種でも、一応宿泊客用の為か、床がカーペット敷であったが、こちらは黒い金属製であった。
滑り止めの為に凹凸が付けられている。
リサ:「地下やだな……」
エレベーターのドアが閉まって降下すると、リサはそう呟いた。
1階と2階では開くドア側には防犯窓が付いているが、1階から下に行くとその窓の外はコンクリートの壁しか見えなくなる。
上昇・下降のスピードは比較的ゆっくりである為、油圧式で稼働しているのだろうと推測する。
指定された通り地下2階へ着くと、ビーッというブザー音が鳴った。
八王子中央ホテルでは、ドアが閉まる時にブザーが鳴ったが、こちらでは開く時にブザーが鳴るようだ。
〔ようこそ、お越しくださいました。訪問を歓迎します〕
重々しい金属製のドアが開くと、その先は見覚えのある光景が広がっていた。
見た目はまるで病院。
そしてその受付では、先ほどの電話と同じ声の女性職員がいた。
職員:「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」
愛原:「あ、どうも。よろしくお願い致します」
職員:「所内ではリストタグを着けて頂きます」
愛原:「あ、なるほど。カードキー式から、リストタグ式にしたんだってね」
職員:「さようでございます」
職員は事務職員なのか、白衣ではなく、普通の事務服を着ていた。
私達は緑色のタグの付いたリストタグをもらった。
緑色はビジター用だという。
所内でもアクセス権限が一番弱く、開けられるドアの数が1番少ない。
この職員のは一般職員用ということで、青色であった。
この他に管理職が着けられる上級職員用と、所長クラスが着ける『マスター』があるという。
職員:「まずは今回、どのような流れで検査が行われるのか御説明させて頂きますので、会議室までご案内致します」
愛原:「よろしくお願いします」
私は受付の女性職員に付いて行った。
途中あった部屋の入口を見ると、どの色のタグで開けられるのか、色の付いたラベルが貼ってあった。
案内された会議室には緑色のラベルだけが無かったので、一般職員以上の者しか開けられない(入れない)のだと分かる。
まあ、訪問者が単独で会議室に入ることはないか。
もし仮に単独で入ることになったとしても、会議の始まる時間までは扉は開放されるに違いない。
職員:「因みにの皆さんにお渡ししたリストタグは、お手洗いやリフレッシュルームなどの共用エリアくらいしかアクセスできません」
高橋:「なにっ?トイレに行くのにも、鍵を開けないといけないのか?」
職員:「ここはそれだけ機密事項を扱っている所なのです。ですので皆さん、どうかここでのことは御内密にお願いします」
愛原:「ご安心ください。我々探偵業者には守秘義務がありますので」
職員:「よろしくお願いします。それでは、席にお着き頂きまして、本日の検査担当者の御紹介から始めさせて頂きたいと思います」
こりゃ本格的だな。
目的は……リサの体内に宿っているという新種の寄生虫か。