先日―。
コンビニで小学生と思われる姉妹の仲睦まじい姿を見て、10年以上前のある出来事を思い出した。
数年前に載せたエピソードではあるが、反響も大きかったので、再びそのことを書いてみようと思う。
私服保安員(万引き取締り)をやっていたときのことである。
その日、自分は2人の新人を教育しながら大型スーパーの警備についていた。
訂正、8階建ての「超」大型スーパーである。
地下1階の食料品売り場を含めた9フロア、このすべてが警備対象となる。
大変だが、同じ場所に留まらず、常にウロウロしているので対象者(窃盗犯)にはバレにくい。
8階はパソコン、ゲームソフトなどを販売するエリア。
ここで、不審な40代後半の男を発見した。
新人に小声で、「アイツ見てて。きっと、やるから」。
その10分後―男はシャツの袖に隠し持っていたカッターを取り出し、ソフトの防犯タグを削り始めた。
これを繰り返し、計7本のソフトをバッグのなかに仕舞ったのだった。
じつに慣れた手つきだ。
初めてのわけがない、キャリアはひょっとすると十数年に及ぶかもしれない。
7本のソフトは、どれも同じ。
パソコンのOSであった。
つまり、転売目的。
男が防犯ブザーの鳴るゲートを通る。
当然、ブザーは鳴らない―ここで、自分が声をかけた。
男は「やや」動揺したが、抵抗することなく罪を認めた。
本題は、ここからである。
「警察呼ぶか呼ばないかは、あなたしだい」
(嘘である。すでに新人保安員に頼んで、通報済み)
「そのためには、こっちのいうことをキチンと聞く必要がありますよ」
「…はい」
「今後、ここには出入り禁止。その誓約書を書いてもらいたいんだけど、身柄引受人のサインも必要なんですよ」
「…はい」
「結婚されてますか」
「…はい」
「奥さんでもいいですし、親御さんが健在であれば親御さんでも構いません、あなたがそれでいいのであれば会社の同僚でもいいですし、知人友人でも」
「…はい」
「どなたを呼べますか」
「…では、妻を」
「在宅中ですか」
「……下で、買い物をしています」
へ?
昼食を取っていた、店長の手まで止まったよ。
「―下ですか?」
「はい。食料品売り場です」
さすがに呆れてしまった。
「よくやりますね、あなたも」
「……」
「まぁこっちとしては話が早い、呼んでもらえますか」
5分後―。
男の妻は、恐縮しながら・・・ではなく、泣きながら事務所にやってきた。
ふたりの子ども(姉妹)を連れて。
上はたぶん、小学校4年生くらい。
下は・・・幼稚園に入るか入らないかくらい。
へ?
へへ??
ひとりでやってくるものだとばかり思っていたものだから、仰天してしまった。
店長も新人保安員も呆然としている。
いかんいかん、自分がリードしなければ!!
「―奥さん、つらいでしょうけれど、旦那さんもやったことを認めていますので。認めた以上、店のほうは出入り禁止になるんですね。その誓約書の、身柄引受人のところにサインしてほしいんです」
ボールペンを渡すと、受け取ってくれた。
しかし涙が止まらない、身体もいうことを聞いてくれないようで、固まったまま動かなくなってしまった。
旦那が犯したことへの衝撃よりも、この光景を娘に見られたことの恥ずかしさのほうが上回っている感じがする。
・・・・・。
しょうがない、待つほかないだろう。
・・・・・・・・・・。
3分は経っただろうか、まだ奥さんは固まったままでいた。
「―サイン、してもらえませんか」
ここで子ども、お姉ちゃんのほうがスッと母親に近寄って、こういったのである。
「貸して、お母さん。あたしが書くから」
!!
これには絶句した。
もちろん子どもに書かせたサインが通るわけもない、5分後にやっとのことで奥さんのサインをもらえたが、これは堪えた。
いろんな窃盗犯と対峙した。
元ボクサーには殴られたし、
スプリント系のアンちゃんとは5kmくらいの追っかけっこをした挙句に逃げられたし、
事務所に連行する際に「触られた!」と叫ぶ女子高生も居た。
みんな厄介だが、このケースの比ではない。
その夜は・・・。
父親が逮捕される現場を目撃した姉妹の、これからを考えてしまった。
今晩、あの家庭ではどんな空気が流れているのだろうか。
あの上の女の子はきっと、悪いことを一切拒否する真っ直ぐな子に育つか、徹底的にワルに育つか、どっちかなんじゃないだろうか、、、とか。
こんなエピソードを、コンビニで見た姉妹から思い出したのであった。
そして―。
翌日、会社に行くと、きのうの現場についていた新人と、あすから現場につく予定の新人ふたりが待っていた。
「どうしたの?」
「あの自分、この仕事つづけていく自信がありません」
「きのうのが堪えた?」
「はい、ちょっと、…自分には無理です」
「分かった。こっちも、引き留めないよ」
「あの、ボクもなんですが」
「どうした?」
「彼から、きのうの現場を聞いて、ボクも無理だなって」
「……」
数年やっていた自分だって堪えたんだ、新人にはきつい、きっつ~い事案だったのだろうねぇ。
そして誰も居なくなった―そういうオチである。
※イジメを、万引きと変更して歌いたい
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『血と骨と、肉と。』
コンビニで小学生と思われる姉妹の仲睦まじい姿を見て、10年以上前のある出来事を思い出した。
数年前に載せたエピソードではあるが、反響も大きかったので、再びそのことを書いてみようと思う。
私服保安員(万引き取締り)をやっていたときのことである。
その日、自分は2人の新人を教育しながら大型スーパーの警備についていた。
訂正、8階建ての「超」大型スーパーである。
地下1階の食料品売り場を含めた9フロア、このすべてが警備対象となる。
大変だが、同じ場所に留まらず、常にウロウロしているので対象者(窃盗犯)にはバレにくい。
8階はパソコン、ゲームソフトなどを販売するエリア。
ここで、不審な40代後半の男を発見した。
新人に小声で、「アイツ見てて。きっと、やるから」。
その10分後―男はシャツの袖に隠し持っていたカッターを取り出し、ソフトの防犯タグを削り始めた。
これを繰り返し、計7本のソフトをバッグのなかに仕舞ったのだった。
じつに慣れた手つきだ。
初めてのわけがない、キャリアはひょっとすると十数年に及ぶかもしれない。
7本のソフトは、どれも同じ。
パソコンのOSであった。
つまり、転売目的。
男が防犯ブザーの鳴るゲートを通る。
当然、ブザーは鳴らない―ここで、自分が声をかけた。
男は「やや」動揺したが、抵抗することなく罪を認めた。
本題は、ここからである。
「警察呼ぶか呼ばないかは、あなたしだい」
(嘘である。すでに新人保安員に頼んで、通報済み)
「そのためには、こっちのいうことをキチンと聞く必要がありますよ」
「…はい」
「今後、ここには出入り禁止。その誓約書を書いてもらいたいんだけど、身柄引受人のサインも必要なんですよ」
「…はい」
「結婚されてますか」
「…はい」
「奥さんでもいいですし、親御さんが健在であれば親御さんでも構いません、あなたがそれでいいのであれば会社の同僚でもいいですし、知人友人でも」
「…はい」
「どなたを呼べますか」
「…では、妻を」
「在宅中ですか」
「……下で、買い物をしています」
へ?
昼食を取っていた、店長の手まで止まったよ。
「―下ですか?」
「はい。食料品売り場です」
さすがに呆れてしまった。
「よくやりますね、あなたも」
「……」
「まぁこっちとしては話が早い、呼んでもらえますか」
5分後―。
男の妻は、恐縮しながら・・・ではなく、泣きながら事務所にやってきた。
ふたりの子ども(姉妹)を連れて。
上はたぶん、小学校4年生くらい。
下は・・・幼稚園に入るか入らないかくらい。
へ?
へへ??
ひとりでやってくるものだとばかり思っていたものだから、仰天してしまった。
店長も新人保安員も呆然としている。
いかんいかん、自分がリードしなければ!!
「―奥さん、つらいでしょうけれど、旦那さんもやったことを認めていますので。認めた以上、店のほうは出入り禁止になるんですね。その誓約書の、身柄引受人のところにサインしてほしいんです」
ボールペンを渡すと、受け取ってくれた。
しかし涙が止まらない、身体もいうことを聞いてくれないようで、固まったまま動かなくなってしまった。
旦那が犯したことへの衝撃よりも、この光景を娘に見られたことの恥ずかしさのほうが上回っている感じがする。
・・・・・。
しょうがない、待つほかないだろう。
・・・・・・・・・・。
3分は経っただろうか、まだ奥さんは固まったままでいた。
「―サイン、してもらえませんか」
ここで子ども、お姉ちゃんのほうがスッと母親に近寄って、こういったのである。
「貸して、お母さん。あたしが書くから」
!!
これには絶句した。
もちろん子どもに書かせたサインが通るわけもない、5分後にやっとのことで奥さんのサインをもらえたが、これは堪えた。
いろんな窃盗犯と対峙した。
元ボクサーには殴られたし、
スプリント系のアンちゃんとは5kmくらいの追っかけっこをした挙句に逃げられたし、
事務所に連行する際に「触られた!」と叫ぶ女子高生も居た。
みんな厄介だが、このケースの比ではない。
その夜は・・・。
父親が逮捕される現場を目撃した姉妹の、これからを考えてしまった。
今晩、あの家庭ではどんな空気が流れているのだろうか。
あの上の女の子はきっと、悪いことを一切拒否する真っ直ぐな子に育つか、徹底的にワルに育つか、どっちかなんじゃないだろうか、、、とか。
こんなエピソードを、コンビニで見た姉妹から思い出したのであった。
そして―。
翌日、会社に行くと、きのうの現場についていた新人と、あすから現場につく予定の新人ふたりが待っていた。
「どうしたの?」
「あの自分、この仕事つづけていく自信がありません」
「きのうのが堪えた?」
「はい、ちょっと、…自分には無理です」
「分かった。こっちも、引き留めないよ」
「あの、ボクもなんですが」
「どうした?」
「彼から、きのうの現場を聞いて、ボクも無理だなって」
「……」
数年やっていた自分だって堪えたんだ、新人にはきつい、きっつ~い事案だったのだろうねぇ。
そして誰も居なくなった―そういうオチである。
※イジメを、万引きと変更して歌いたい
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明日のコラムは・・・
『血と骨と、肉と。』