大人の女性を演出したくて、
伸ばしていた前髪が、
ようやく顎にまで届き、考えるのです。
おはようございます。
鏡に映る、伸ばした前髪を見て、考えてしまう。
サラッと垂れくる髪をかき上げる様は、
さぞや、いい女風に見えるだろう。
しかし、
出掛ける時は、毎日、金八スタイルだ。
髪が垂れてくるのが、邪魔で仕方がないからだが、
これでは、
前髪を伸ばしたメリットが、一切感じられない。
行き詰った私は、
軽く見積もっても、私より100倍は女子力が高い隣のデスクの熟女に、
前髪を切った方がいいのかと、問うてみた。
「そうねぇ、前髪がある方が、若々しくなるわね。
でも、ちょっと前髪をサラッと垂らしてみて。
うん、そうしていると、お洒落に見えるわね。そうしていればだけどね。」
そうしていられないから、金八なんだよ、熟女さん。
どうしても邪魔になるから、ロバート秋山なんだよ、塾女さん。
そんな事を心で連呼していたら、蘇ってきたんだ。
ショートヘアにしたいという願望が。
私は、昔からベリーショートに憧れがある。
いつか試みたいと思いながらも、勇気がだせないでいる。
なぜならば・・・・
若い頃のことだ。
巷でベリーショートが流行り、
私もやってみたいと友人と話し合った事がある。
そんなある日、電話が鳴った。
それは、その友人からの電話だった。
電話に出るなり、彼女は興奮した様子で話し始める。
黙って聞いてみると、どうもベリーショートを試みて、
それが失敗したという事らしい。
私は呑気に、先陣を切っただけでも、凄い勇気じゃんと称えたが、
彼女は、「おかっぱ、会って見て欲しいの。どうすればいいか、聞きたいの。」
と言う。
髪を短くした自分を、見慣れないだけだと慰めたが、
彼女は、「そんなレベルじゃないの。もう事件なの。助けて。」
と、縋ってきた。
もちろん、すぐ会う事にした。
私は、彼女が大げさなだけだろうと踏んではいたが、
決して、笑ったりからかったりは、しないように、
そう自分に言い聞かせつつ、待ち合わせ場所へと車を走らせた。
約束した喫茶店の駐車場に着くと、
こちらに手を振りながら駆け寄ってくる人がいる。
えっ?誰?
あのスカートを履いてる、赤い角刈りの人、誰?
猛然と駆け寄ってくる、その角刈りは、
ついに、私の車の前へ到着した。
あかん。
見たら、あかん。
私は、うつむいた状態で車を降り、彼女に声を掛けようとした。
何食わぬ様子で「久し振り~」と、声を掛けようとしたが、
久しのひの字も言えぬまま、下を向いて震えるしか、術が無かった。
必死な彼女は、そんな私に構うことなく、詰め寄ってくる。
「ねぇ、見てよ、これ!ねぇ、ちゃんと見てって。」
見たらあかん。
一言でも口を開いたら、笑いしか出て来ない状況で、
それでも私は、うつむいたまま、小声で聞いてみた。
髪・・・赤いの・・・なんで?
「だって、カットとカラーリングというコースで予約したんだもん。
そのコース、キャンペーンでお安くなってたんだもん。」
彼女は、角刈りになった後、そのままカラーリングに挑んだのだ。
すげー、すげーよ。
あんた、すご過ぎるよ。
「おかっぱ!笑ってるでしょ?」
すまん、
察してくれ。
「よし、分かった。一旦、気が済むまで笑え!」
彼女の許しを得た私は、
涙を流しながら、ひたすら笑うこと、約5分。
「もういいわね。さあ、アドバイスをしてちょうだい!」
そう言われて、私は涙を拭きながら、
角刈りを指さし、懸命に言葉を発した。
か・・・どを・・・
「え?何?」
そ・・・そのカドを・・・
角刈りの、そのカドを取ってもらって~~
私は、やっとの思いでそれだけを伝え、
再び腹を抱えて、跪いたのだった。
美容師さんとの意思疎通がうまく行かないと、
時に、こういう事になるんだなって、
肝に銘じた私だった。
よね「直して~」
どうした?
ああ、めくれてるのを直せってか?
よね「直して~」
布は直せるが。
よね「早く直して~」
髪は、切ってしまうと、直すのに時間掛かるしな。
そもそも、髪質が硬いからって、
雨上がりの蛍原さんのようにならショートに切れますって
言われたしな。
はい、直りましたよ。
どうぞ、よねさん。
よね「もう、ここに落ち着きました」
そだよな。
危険な橋、渡っても、
私は、キノコにしかなれないんだよな。