この部屋も、幾分か暖かくなってきて、
日が差す南側の窓を開けてやると、
我が家の猫達は、こぞって、日向ぼっこをしにやって来た。
私が勤めている会社の近くにも、
猫が日向ぼっこをするに、格好な場所がある。
昼間は、ほとんど人間の出入りのない駐車場のすぐ脇が、
人の背丈ほど土地が高くなっており、
その続きに、工場が建っている。
その工場の壁際の、ほんの狭い幅の土地には、草や木が生えており、
そこだけを切り取って見てみると、まるで小高い丘のようだ。
寒い冬には、工場の壁が風よけになり、
天気のいい日は、日向ぼっこには最適な場所だ。
その小高い丘は、以前は、白かーさんの棲み処だった。
白かーさんという猫は、用心深く、頭の良い猫で、
そのくせ、甘く可愛い声で鳴く、真っ白で美しい猫だった。
私が初めて、白かーさんを見た時は、白かーさんは人間と暮らしていた。
その家の前を通りかかると、
玄関先で、よく日向ぼっこをする姿を見たものだ。
数年経って、白かーさんを見た時は、白かーさんは家を失い、
棲み処を、あの小高い丘に移していた。
それ以来、白かーさんは、
助けたいと願う人間達から、
食べ物を貰って命を繋いだ。
ある夏の日、白かーさんは、
幼い我が子を、あの丘のふもとに残して、
道路の上で、一瞬にして散った。
私は、涙を流す事さえ出来ず、だた呆然とするだけだった。
それでも、
その時、あの小高い丘には、
まるで弔いのように、真っ白なユリが咲いていた。
寒さが続く中、
ある日の昼下がり、あの丘に眼をやると、
見慣れない猫が2匹やってきた。
どこから来たのだろうと不思議に思い、
双眼鏡で覗いてみると、2匹の首には、色違いの首輪が付いていた。
2匹で転がってじゃれながら、日向ぼっこを楽しんでいる。
それを、しばらく微笑ましく見ていると、
今度はよく見かける野良猫が、やって来た。
楽しそうな2匹の横を通り過ぎ、
少し離れた所で腰を下ろし、じっと佇む。
私は、構えていた双眼鏡を、ただ下ろすだけだった。
それでも、
あの時、太陽は、
この3匹の体を、分け隔てなく温かく包んでいた。