昨日は、
また、かずこさんが家出してきた。
おはようございます。
「ほい、寝とるんか?」という母の声で、昼寝を中断された。
「わし、ジジィに怒れるで、パチンコ行ってくるんや。
お前、わしの車の鍵持ってるやろ?出せ。」と言うので、
「じゃ、私も一緒に行くわ」となり、
私は母かずこを乗せて、パチンコ屋さんへ車を走らせた。
トイレを借りる以外で、パチンコ屋へ入る事のない私が、
このボケ老人を連れて未知の世界へ入るのは、不安でしかない。
どんなシステムなのだろうか?
かずこさんは、もう2年以上パチンコ屋へ行っていないから、
システムなど、とっくに忘れているだろうし。
ドキドキが止まらない私は、助手席の母をちらりと見たが、
かずこは、既に勝負師の顔になっていた。
車を停めると、かずこさんは、すすーっと滑らかに歩き、
入り口さえ分かりづらいメタリック巨塔の城へ、我が物顔で吸い込まれていく。
私など、もはや、かずこの金魚のふんでしか、存在価値が無かった。
かずこは、空いている台に、全集中。
じーっと機械を眺め、次へ次へと、その儀式めいた所作が続き、
ある台の前で、ピタッと止まり、指をさした。
まるで、獲物の気配を察知した猟犬だ。
私は、その隣に、ぽかんとした顔で座った。
かずこは、私の真横のスマートな機械に1万円を滑り込ませ、
台に設置してある謎の赤いボタンを押し、「ほれ、やれ!」という合図をした。
「えっ何が起こっているの?」と戸惑いながら、
かずこに習って、玉を打ち始めた。
金魚のふんが、猿真似を覚えた瞬間だった。
15分ほど経過した頃、
かずこは、私に台を替われというのだ。
大騒音の中、マスクで読唇術も使えず、
何を言っているのか聞こえないまま、台を替わると、
どうやら、フィーバーしているらしい。
延々とフィーバーするのだ。
機械の中の液晶では、ビキニの娘が躍り歌って、てんやわんやだ。
大暴れでフィーバーしている。
私は、囚われた猿のように
「何がどうなってんだ?」と困惑している中、かずこはどこかへ行ってしまう。
追い掛けたいが、ハンドルから手が離せない。
綺麗な金魚から、ふんが切り捨てられた。
それでも、1時間半の間、
機械は、ずーっと凄いテンションでフィーバーしていて、
その前に座らされた私は、ずーっとパニックだった。
微動だに出来ず、ふんはカチカチに乾いて行った。
やっと救出されたのは、一時間半後だった。
かずこが迎えに来た時には、フィーバーも終わっていたようで、
私はようやく、金魚に救われた。
「あの台は、5回はフィーバーするって思ったで、
お前に替わってやって、わしは別の台を狙いに行ったんや。」
と、帰りの助手席のかずこさんは、そう言って、
「ほんでも、良かったなぁ。儲かったやろ?」とほほ笑んだ。
華やかな金魚は、ふんに花を持たせてくれたという訳だ。
「パチンコ屋では、ぜんぜんボケてないんだな」と感心すると、
「わしは、そんなにボケとらんのや!ジジィのほうが、よっぽどボケとる。」
と、かずこさんの怒りが再燃しそうだったから、私は急いで、
「来週はさ、カラオケボックス行ってみようよ」と約束をした。
カラオケも好きな母は、スナック以外のカラオケを知らない。
私は、スナックもカラオケボックスもほとんど行ったことが無いから、
いざ行こうとなると、まずシステムから調べておかなければと、
またドキドキしてくるのだけれど、
どうぜ、かずこさんはそんな約束はすぐ忘れちゃう。
だから私は、かずこさんにだけなら、どんな約束でもできる。
凄く適当に、軽はずみに約束ができるなんて、
なんか素敵だなって、無邪気に約束を喜ぶ母を見て、そう思った。
さて、のん太を探せ!
洗ったカーテンの中に、のん太がいるよ。
これなら、わっかるかな~?
ほれ、ここ!ここ!
おたま「のんは、なにしてるだ?」
戯れてんの。
綺麗に洗ったカーテンに、のん臭を付けてんの。
止めて欲しいの。
止めて欲しいのよ、のんちゃん?