おかっぱ、連休3日目。
まだ、辛うじて言葉が話せているが、
あまり声を出していないせいか、
第一声目は、痰が絡みがちだ。
おはようございます。
喉も、使わないと衰えるんだなって、知った今日この頃。
今回は、以前、ちょっと出して引っ込めた記事を加筆して
再投稿したいと思います。
お盆も近いのでね。
今年の梅雨は、長かった。
連日続く雨を含んで重そうな空の、ある日の夕方、
仕事を終えて家に帰ると、玄関に見覚えのない猫が迫ってきた。
白くて大きな猫、白黒のカンガルーみたいな猫、
真っ黒な猫、無駄にフワフワしたオッドアイの白猫、
そして、真ん丸な縞猫。
「1・2・3・・・5匹も?あの、どちら様でしょうか?」
私は慌てた。
慌てた私は、必ず、うめを呼ぶ。
「うめ!うめ?これ、どうなってんの?」
呼べば必ず駆け寄ってくるはずのうめが来ない。
家中、どこにもいない。
うめもよねもきくも居ない。
それなのに、私は見覚えのない5匹の猫のために
種類も量も違う5様の給餌を迷うこと無く出来てしまう。
「一体、どうなっているのだろう?」
帰宅した、おじさんに詰め寄った。
「うめ達が居ないんだけど。」
「へっ?うめさん達は、いないですよ。」
うめ達は・・・いない?
意識を脳内へ集中させて記憶のページをめくった。
「いや、そんなはずない。昨日だって、うめと寝たよ、ここで。」
そうだ、昨夜もリビングで、うめとくっ付いて寝ていたはずだ。
「それは、うんこちゃんだよ。うんこちゃんと寝てたでしょう?」
「ううう・うんこっ?」
まさか、猫の名前ではあるまいな。
なんという酷い命名だ。
飼い主の顔が見てみたい。
「覚えてないの?うんちゃんだよ。貴女が大切に育てた子でしょう?」
名前を呼ばれたと思ったのか、真ん丸な縞猫が私の足元にやってきた。
しゃがんで撫ぜながら、ハッと思い出した。
「ねえ、こしょうは?お乳飲ませなきゃいけないのに居ないの。」
「こしょうは死にましたよ。うめもよねもきくさんも、
みんな、死んだんですよ。」
みんな・・・死んだ?
思い出せない。
思い出せないまま、私はなぜか、泣き崩れた。
私には、記憶障害が残っている。
脳卒中のおかげだ。
ある日突然、記憶が無作為に混乱してしまうことがある。
夜空に浮かぶ、真ん丸い光に気付き、
「あれは、なんだろう?」と、ぼんやり見上げた日、
手を伸ばせば届きそうで遠い光が、月であると教えられた時、
ツキという響きが、懐かしいような気もして、歯がゆい思いをした。
実は、今もまだ、猫達の記憶が遠い。
5匹の猫達が、ずっと居た実感がないまま、
4匹が居ない時間を何年か過ごした実感もない。
消えてはいないが、前世の記憶のように、遠い。
近くにあるのに、遠い。
うめが居ない世界を、私はどうやって生きてきたのか。
どんな気持ちで過ごして来たのかは、思い出せない。
こうして、ブログを書き始めたきっかけの一つは、
私の、この記憶障害にある。
残しておかなければ忘れてしまうかもしれないと思ったからだ。
何日もかけて、自分のブログを読み返してみても、
月は掴めない。記憶は遠い。
しかし、時間は待ってはくれない。
記憶を取り戻すより先に、
夜空に浮かんでいた満月は欠けていく。
それでも、
長い休日に入り、私は毎日、うんことくっ付いて昼寝をしている。
「母さん、はやく寝ましょうよ」と言わんばかりに催促されるからだ。
猫らしくない、こなれた仕草に、思わず笑ってしまう。
あやは、暑さを感じないのか、独りで元気に走り回っては、
飽きると、私の背中に飛び蹴りを喰らわせてくる。
何度も、何度もだ。
相手をすると、もっと面倒な事になる気がして、
飛び蹴りを黙って受け入れている。
おたまは、死んだように動かないから、
安否確認をしようと手を伸ばすと、撫ぜる前なのに撫ぜられているような顔をする。
そして、彼は頭より顎を撫ぜられるのが好きらしい事を知った。
ある日は、
たれ蔵の右耳によねの鼻くそホクロに似たホクロを発見した。
それをおじさんに教えてやると、
「はい、そうですね。
よねさんが亡くなった、すぐ後にも教えてくれたんですよ。貴女が。」
と言った。
そうだったか。だから、ほくろたれ蔵なのか。
のん太は、まるで、うめを想わせる。
被毛の長さや、偉そうな態度。
ブラッシングは大好きだが、お尻の毛にはブラシをかけて欲しくないんだ。
そういうところも、うめによく似ている。
こしょうの記憶は、きっと、うんこを育てた時の私と似ていたのだろう。
どちらも体の弱い子だったから、記憶が混同したままだ。
赤ちゃんだった、うんこの記憶は遠い月にあるが、
今いない、こしょうの体の柔らかさは、この手に鮮明にある。
月は掴めない。
手を伸ばしたって、掴めはしない。
戸惑っている私に、月のような瞳は迫ってくる。
手を伸ばすと、
それぞれ違った頭蓋骨を感じる。
被毛の手触りや、反応も各々で、実に面白い。
突然現れた5匹が、私を現実へ、いざない続ける。
今、私は遠い月を眺めながら、
5匹と共に、もう一度、今を紡いでいる。
何も特別な事など、しなくてもいい。
手を伸ばして掴めるのは、いつだって、今、だけだ。
そもそも、月は、掴めないものなんだ。
うめとあや
よねとうんこ
きくとおたま
こしょうとほくろ
そして、
これ、のん太だってさ~。フフフフ。
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