うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

目的地を探しに・・・

2022年07月26日 | カズコさんの事

最近、介護日記みたいになってきた。

ここは、猫ブログだというのに、すみません。

でも今回も、かずこの巻です、すみません。

 

おはようございます。

ここ数日、かずこさんは興奮状態だった。

元気というより、興奮状態。

そして、ついに、かずこさんは一人で家から飛び出した。

 

昨日のこと、私は昼休憩を終え、仕事を始めた。

その途端、父から電話が鳴った。

「こんなとこに居りたくないと言って、出てく準備しとるわ。

もう手が付けられん。」

私は、とりあえず、

「すぐ行く」とだけ伝えて、会社を早退した。

運転しながら、かずこをどう止めるか?どう落ち着かせるかを考えていた。

そして、父へ電話を掛けた。

「父さん、機嫌よく出してあげて。私が追跡するから心配しないで。

母さんに、一度、失敗させよう。

独りで出たって、何もできやしないってことを体験させた方がいいわ。」

そう言うと、父は

「うん。俺、ウンチが出そうだて。」

と言って、電話をぷつっと切った。

私は車内で叫んだ。

「なんなんだよ、父さんったら。ほんと、なんなんだよ。

あたしもなんだよぉー」

私も、若干の便意を感じていたのだ。

なんという無慈悲なタイミングだろうか。

親子そろって、この無慈悲だ。

「神も仏もあったもんじゃねー!」

私は、そう吐き捨てた。

 

急いで駐車場へ車を停め、かずこさんを探した。

かずこさんは、駅に向かって歩いていた。

「母さん、どこへ行くの?」

後ろから声を掛けると、かずこさんは

「わぁ、びっくりした!お前か。わしはパチンコ行くんや。」

「歩いて?」

パチンコ屋へは、とても歩いて行ける距離ではない。

「すぐ、そこやもん。歩いて行く。わしは行ける。

お前は戻れ。暑いで倒れるぞ。」

雲さえない晴天の昼下がり、日差しは肌を突き刺す。

私は黙って、かずこさんの後に着いて歩いた。

 

トボトボ歩きながら、かずこさんは独り言のように呟いている。

「あんなとこに居りたない。

わしは、自分の行きたい所へ行くんや。あんなとこは嫌や。」

かずこさんは、いつ頃からか、自分の家を『あんなとこ』と言うようになった。

ピラピラしたレースの付いたベッド。

真っ赤なベルベッドのカーテン。

猫足のチェスト。

かずこ自身で編んだ、ニットの敷物。

全て、かずこさんが選んだ。

かずこさんご自慢の部屋のはずが、

今のかずこさんには『あんなとこ』に見えるのだろうか。

私は、空を見上げた。

憎らしいくらい晴れている。

暑いといより、もはや痛い。そして腹も痛くなってきた。

今頃、父さんはトイレでスッキリしているのだろうか。

この私が、今、無慈悲層の最下位に零れ落ちてしまう寸前であることに、腹が立ってきた。

 

「母さん、まだ歩くかい?」

そろそろ戻らなければ、まずいと思うほど、私達は家から離れていた。

1キロは歩いただろうか。

かずこさんの足がよれてきている。

それでも、かずこさんは

「もうちょっとや。あそこへ行けば友達もおるしな。」

かずこさんは、パチンコ屋へ行けば、友達がいると言う。

確かに、毎日のように通っていた昔は居たかもしれない。

負けていると、缶コーヒーを差し入れてくれる程度の友達だ。

大音量の中で、簡単な言葉を交わす友達だ。

かずこさんは、そんな友達に会うべく、

この炎天下の元、歩き続けているというのか。

私は、切なくなった。

かずこさんに「一度失敗させる」つもりで歩いていた気持ちが、

一瞬吹き去った風と共に飛んで行ってしまった。

「ほぉ、涼しい風やな。」

「そうだね。風は涼しいね。」

こうなったら、どこまでも歩いて行こう。

かずこさんの行きたい所へ、一緒に歩こうと決めた。

どうにも便意が我慢できなかったら、

「あたし、そこらへんで野糞するわ。」と思わず言葉に出していた。

「なんや、お前。うんこしたいんか?」

「う・・・うん」

「ほんなら、あそこまで歩くか?野っぱらのとこまで」

かずこさんの指さす『あそこ』は、目測で300メートル以上だ。

とても間に合うとは思えない。

「大丈夫。垂れ流したっていいもん。」

「ほうやな。間に合わなんだら、ほれでもええわな。」

かずこさんが、そう言って、ふっと笑った。

 

それでも、私達は目的地へとダメもとで歩いて行く。

目的地は、もはやパチンコ屋ではない。

野糞のできる野っぱらだ。

すれ違う人は、一人もいない。

こんな暑い日に、

辺りは野糞する当てしか思い当たらないような、

何もない道を歩いているのは、私達だけだ。

「汗、びっしゃびっしゃや。」

「うん、私も~。」

1列に並んで歩いていたはずが、いつしか2人並んで

笑顔で歩いていた。

暑さで、どうにかなっている人みたいだ。

いや、どうにかなっていたのだろう。

そして、私はもう一度、聞いてみた。

「母さん、どこへ行きたいの?」

すると、かずこさんは立ち止まって、宣言するかのように言った。

「わしは、関(母の実家)に行く。」

 

今、かずこさんは孤独なんだ。

自分の愛する、あの部屋にいたって、心が休まらない。

認知症の自覚なんてない。

それなのに、皆が寄ってたかって、自分から大事なものを取り上げて行く。

かずこさんは、そんな全てと戦っている。

独りで。

 

私は思った。

行ったらあかん。

親に会いたいということは、死ぬという事だ。

まだ、行ったらあかん。

あともう少し、私はかずこさんと歩いていたいと、心底思った。

だから、

「そろそろ、帰ろっか?」

と、かずこさんに伝え、くるりと来た道へ振り返った。

吹く風に背を向けて、私達は溜息を付いた。

「すごく歩いてきちゃったな~」と。

 

そして、私はギリ間に合った。


最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (桜吹雪)
2022-07-26 09:19:24
介護日記みたいなってしまう、今の現状
よくわかります。
我が家のオッサンも毎日、母親の
今をスマホに記しています。
もうこちらの思考が追い付かない早さで、認知症が進行中です。
かずこさんも、そして我が家のオッサンの母親も、今何かと戦っているんでしょうね。自分の中の何かと。

ところで、おかっぱさん
ギリ間に合って良かったです。(笑)
返信する
Unknown (suzu)
2022-07-26 10:45:42
若い!
かずこさんの後ろ姿は、私と同年代に見える!
多分、おかっぱちゃんと私はひと回りしか、しか(2回言う)離れていないと思うので、どう考えても、かずこさんは私より年上だと思うけれど、かずこさんの後ろ姿は、同学年の友達に見える!
父が認知症専門の施設に入所していたとき、お仲間のおばあちゃん方は、自分を娘と思っている節がありました。行くたびに「私の父は税関に努めているのよ」を繰り返す方。父より歳上なのに、「おじいちゃん、大丈夫?」と気遣ってくださる方。
かずこさんはまだこの域まで達していないから、おかっぱちゃんのことも分かるし、うんこに行きたい娘のことを案じられるのよね。
そして、自分の置かれた場所に、不満と不安があるのよね。
おかっぱちゃんは、今のかずこさんを受け入れてあげているから、かずこさんは幸せだよ。
父を早くに施設に預けてしまった私が言えた義理ではないけれどね。
おかっぱちゃんを、色んな角度から尊敬し崇拝する、ひと回り年上のわたしです。
返信する
Unknown (KAZU)
2022-07-26 11:22:25
なんだかちょっぴり切なくなりました。。
私は経験ないけれど近所に住んでた同級生の男の人が
だんだん壊れていく姿を見ていて辛いものがありました。
家族に施設にでも入れられたのか見かけなくなりましたけど。
認知の人の言動や行動を否定したり怒ったりしたらダメらしいけどなかなかねえ。。
でもカズコさんに寄りそうおかっぱさん凄いと思いますよ!
後ろ姿がとってもお若く見えます

興奮したり急いだりの時って〇んちしたくなりますよね
こんな時にってよく私もあります(笑)
間に合って良かったですね~
以前義父母を乗せて根室の結婚式の帰りに義母が「兄ちゃん(旦那)どこかトイレで止めて!」って~
でも山の中だし夜遅いし「どこにもない!」って言ったら「どこでもいいから」って必死な形相で~
仕方ないから小道に入って止めたら義母が小走りでお尻を押さえながら走っていったの思い出しました(笑)
さすがの義父も大笑い
3人でほんと笑っちゃったけど義母は必死だったんでしょうね~
返信する
Unknown (ポンまま)
2022-07-26 18:42:19
でけんわ~。そもそも、炎天下に
1kmも付き合って歩いてあげることなんか
ぜってぇやんねぇわ~(ToT)
どんだけ優しいの?おかっぱさん。
しかもさ、歩きながらもカズコさんの気持ちの
ことばっか、考えてあげてる。
「一度失敗させる」って思ったんだね。
けど冷静に考えてみたら、失敗のことは
きっとまたキレイさっぱり忘れちゃうんだよね。
だからそれは、多分結果オーライだ。
悩ましいよねー、認知症。
自分では自分が可笑しくなっているなんて
全く思っていないんだから、
頭の中は「?」と悲しみだらけなんだと思う。
でもね、だからこそ、おかっぱさんみたいな
娘がいてくれることが
カズコさんをどれだけ救っていることか。
純粋な母は、純粋な娘を持てるって
ことだよね、これ。
うん、あたしもあわやってこと何回かあった。
でも今のところ、ギリセーフです(^^ゞ
それは全部自分のせいだったけど。比較すんな!笑
間に合って、ホントよかったね。
返信する
Unknown (チコ)
2022-07-26 21:06:48
こんばんは

私…娘が県外に行ってから心が埋まらなくなって、一人で車でうろうろしたり買うわけでもなくスーパーを梯子したり もはや徘徊か?と自分で自分が不安になるんです。
これが酷くなって認知症になるのでしょうか?って感じ!

それに付き合ってくれる娘! 良いなぁ~かずこさん!!
返信する
桜吹雪さんへ (おかっぱ)
2022-07-27 06:39:16
桜吹雪さん、おはようございます。
そうなんですよね。
トリッキーにいろいろと巻き起こるものだから、
ちゃんと記録しておかないと、ゴチャゴチャになっちゃうんですよね。
こうして書いておくと、必要な時に、
なにかと説明もしやすいですしね。

はい、ほんと、ぎりっぎり間に合いました。
ありがとうございます。
もう決死の覚悟で、括約筋を閉めて頑張りました~(笑)
返信する
suzuちゃんのかあちゃんへ (おかっぱ)
2022-07-27 06:49:55
かあちゃん、おはようございます。
かずこさん、御年83歳なのですが、
最近、70歳だと申告するようになってきたんですよ~。
これはボケてるからではなく、願望じゃないかしらね~(笑)。
そうそう、私達の年齢になってくると、
見た目年齢と実年齢に開きが出て来ますよね。
きっとね、かあちゃんと私だと、ひと回りどころか、
同い年くらいに見えると思うのです。
そうですよね。今はまだ、私のことが分かる。
娘だって自覚してくれているんです。
これが、それさえ分からなくなっていくんですよね。
だからこそ、今、思う存分、母娘として
それを楽しもうと思います。
いえいえ、崇拝だなんて恐縮です。
結局、歩いている間、ずっと「うんこしたい」ばっかだったかんね。
そんな私だかんね(笑)。
返信する
KAZUさんへ (おかっぱ)
2022-07-27 06:55:15
かずさん、おはようございます。
そうなんですよね。
叱るとか訂正するとかもダメだと分かっていても、
それではどうしても通らないことも社会にはありますもんね。
自由にさせてあげたいと思っても、どうしてもね。
ちゃんと話せているから、壊れている部分もあやふやで、
そういう点が、看る側を苛立たせてしまったり、
とても悩ましいものですね。

かずさんのお義母様の話が、
めちゃくちゃ笑っちゃった~(ごめんなさいお義母様笑)
わかるわ、でもわかる。
お尻を押さえたからって、引っ込むとは思えない。
でもやっぱり、押さえちゃうんですよね~。
私も、お義母様と同じ格好で小走りしました(笑)。
返信する
ポンちゃんままさんへ (おかっぱ)
2022-07-27 07:06:05
ままん、おはようございます。
歩数でいくと、私は3キロ歩いた計算でした。
かずこさんは行きだけで、帰りはね、
日陰で待たせて、私が走って車を取りに行って、
車に乗せて、無事ご帰還でした(笑)。
でも、一緒に歩いてよかったのかもと思いました。
今まで、ちょっと過保護過ぎてたかもなって。
あの時は、かずこが倒れてもよしと覚悟して、
気が済むだけ歩いてもらいました。
そして、その次の日、私が席を離れた間に、
私のタバコケースに一万円札が突っ込まれていたんです。
薄っすらとでも、覚えていたんですよね。
足が筋肉痛になってるからかもですが(笑)。
一万円札は、かずこさんなりの「ごめんね」だったと思うんです。
それを、今朝、私がかずこさんの財布にこっそり返す予定なのですが、
「また、おかっぱが盗んどる」と言われて、
「いいじゃねーか、おいババァ金よこせ」とか言い合うの。
そういう母娘です(爆)
ままん、私はギリアウトを、感度も経験しています!(笑笑)
返信する
チコさんへ (おかっぱ)
2022-07-27 07:09:57
チコさん、おはようございます。
あらら、チコさん、娘さんがいなくなって、
淋しさのあまり、そうなっているんですね。
徘徊と言うより、「娘さんロス」な様相なのでしょうね。
それもきっと、徐々に慣れていくのでしょうね。
それまでは、道中などには気を付けてくださいね。

そして、時々、娘さんも帰ってきてくれた時は、
大いに楽しくおしゃべりしてくださいね!
案外、時々ってのも、めちゃくちゃ楽しいでしょうしね。
返信する

コメントを投稿