マアコを病院へ預け、社へ戻ると、
車庫の奥から大きな声が響いていた。
おはようございます。
「デッカ!」
名前を呼ぶと、物陰からこそっと顔を覗かせるが出ては来ない。
マアコが戻るのは翌朝だ。
「デッカ、お母さんは明日戻ってくるからね。」
そう声を掛けて社内へ入った。
デッカは生後4カ月のオスだ。
マアコの避妊の予約をするため行った動物病院の獣医は、
「親子共、手術できますよ。」
と言ったが、私は、
「子猫は、捕まえられたら連れて来ます。」
と答えた。
今回、マアコの避妊を依頼したのは、
我が家の猫らを診てもらっている、メスや針を持つと目が輝くサイコパス先生ではなく、
野良猫の保護やTNRに協力的で猫の扱いにも慣れた獣医だ。
非常に早口で決して人の目を見ない。
こちらが質問すると、一旦挙動不審になる。
かなりコミュ障チックだ。
しかし、どんな事でも親身に考えてくれるし、腕も間違いないと評判だ。
その上、様々なケースのTNRを扱っているから話が早い。
早口だから、本当に早い。
早過ぎる。
なので、この獣医に初めて会った際は、少し悩んだ。
「オペ好きのサイコパスか、猫好きのコミュ障か、どっちがいいんだ?」
そして、こう思った。
「どっちにしてもクセは強い・・・」
ええい、だったら、結論は会社から近い方!
よって、コミュ障先生に依頼した。
マアコの入院中、
デッカは延々、車庫の奥で泣きじゃくっていた。
大きな声で泣くくせに、車庫の奥から全く出て来られない。
私はデッカが不憫で、夜の間も2度、会社に様子を見に行った。
泣きじゃくるデッカを呼びながら、翌朝のシュミレーションを考えてもいた。
「リターンは、マアコがデッカを確認できるまで待ち、出来たと思えたら扉を開けることにしよう。」
捕獲された野良猫は、リターン直後は闇雲に走り去ってしまうことが多い。
そして、戻って来る猫もいれば、戻って来ない猫もいる。
それなりに馴れた野良猫なら、その翌日か翌々日に戻って来ることがほとんどらしいが、
マアコは、そこまで懐っこい猫じゃない。
ご飯の最中でも、私以外の人の足音がすれば、一旦逃げ隠れる。
せめて、我が子の存在を思い出せば、少しは落ち着いてリターン出来るのではと考えた。
それでも、
リターン後、翌々日までにマアコが戻ってこなければ、
どうやってもデッカを捕まえて保護しなければと覚悟した。
「車庫から出られないようじゃ、単独で生きるのは、まだまだ無理だ。」
マアコとの約束よりも、デッカの安全が優先だ。
我が家の猫らにも、相当な負担を強いることになるだろうが、やるしかない。
翌朝、
私は会社にいるデッカのもとへ、我が家のおじさんは動物病院にいるマアコのもとへ向かった。
デッカは相変わらず泣いていたが、流石に腹が減ったようで、
泣きながら車庫の奥から出てきた。
「もうすぐ、マアコが戻って来るからね。」
デッカは、ウップウップと嗚咽を漏らしながらフードを食べた。
私はデッカが食べ終わったら、すかさず猫じゃらしをデッカの前で振って見せた。
「ほら、デッカ、遊ぼう。」
腹が満たされて少し安心したのか、
デッカは泣くのを忘れて遊びに夢中になった。
その時、おじさんの車が到着した。
「来た。デッカ、マアコ来たよ。」
マアコは無事、避妊手術を終えて帰って来た。
ここからだ。
マアコはデッカを認識できるだろうか。
それどころか、扉を開けてしまったら、一生の別れになるかもしれない。
私は体をこわばらせたまま、
車からケージを降ろし、デッカの居る車庫から見える場所に置き、包んでいた布をはいだ。
「デッカ、デッカ!マアコだよ。」
呼ぶと、デッカは大きな声で泣き、物陰から顔を覗かせた。
猫の視力は、それほど良くないはずだが、
それでもデッカは、マアコに気付いたのか、泣きながら物陰から出てきた。
「マアコ、分かるね。デッカの声だよ。」
そう声を掛けたても、マアコはピクリとも動かない。
とはいえ、パニックに陥っている様子はない。
よし、今だ。
今かな?
今なのかな?
結局、マアコがデッカを確認できたのか、全く分からん!
それでも、私は意を決してケージの扉を開けた。
「マアコ、おかえり。」
扉を開けてやっても、すぐには動こうとはしない。
「そうだ、マアコ。チュール持ってくるね。」
そう言って離れた途端、マアコはケージから飛び出して行った。
デッカを車庫に置き去りにして行ってしまった。
マアコは、いつ戻って来るだろうか。
マアコ、戻ってこい。
私は、いつまで待つことになるのだろうと考えたら、目眩がした。
続く
じれったい記事が続いております。
大変、申し訳ありません。
次回4で、完結すると思いますので、
コメントは、お気遣いなく~。
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