【第2部】
■「マリー・アントワネット」
アニエス・ルテステュ パトリック・ド・バナ
振付: パトリック・ド・バナ
音楽: アントニオ・ヴィヴァルディ
アニエスのためにド・バナが振りつけたこの作品を観てルグリが自分のためのソロを、と依頼したというだけあって、アニエスの持ち味にぴったりの魅力的な作品。
まず衣装にびっくり。
二人とも白いオーガンジーで宮廷衣装をアレンジしたブラウスを着ているが、下半身はショーツのみ。
アニエスはデコルテからウエストにかけてリボンが並びフリルのある7分袖、ぺプラムのついたブラウスと少し襟足を残して結いあげた金髪がとてもお似合い。
ド・バナさんも、襟元にシャボのようなフリルがあしらわれたノースリーブのシャツの上に燕尾のような軽い一重のジャケット風の上着を羽織って登場。
これまたお似合い。
二人とも伸びやかな筋肉の乗った長く美しい脚を持っているので、この衣装は妙に肉感的でちょっとエロティックなのですが、端正な音楽とエレガントなアニエスの存在感で卑俗に陥らないギリギリの線をキープ。
作品は3部に分かれていて、ヴィヴァルディのスタバート・マーテルに合わせて展開します。
最初は無邪気なマリーと従者?次は大人になったマリーが王と心を通わせる親密な場面、そして壁にぶつかり周囲の変化に戸惑い悩む二人。
ド・バナの存在はルイ16世、ということですが、マリーを見守る影のようでもあり、彼女の運命を導く存在とも見えたり複眼的な見方を許す解釈の幅広さを感じました。
最後は。。。断頭台を暗示して。
ド・バナさんの振り付けは精神性を打ち出しながらもいい意味で程よくわかりやすく見せ方も上手い。
キリアンのように圧倒させる世界観、という感じはないのですが、今後も注目していきたい振付家、と思いました。
■「ハロ」
ヘレナ・マーティン
振付: ヘレナ・マーティン
音楽: アラ・マリキアン、ホセ・ルイス・モントン

アントニオ・ガデス、ホアキン・コルテス、といった一流どころと共演してきた本格派フラメンコダンサーです。
パトリック・ド・バナが主催するナファス・ダンス・カンパニーのゲストアーティスト・振付家という縁とルグリの希望で参加。
ワインカラーのシンプルなフラメンコドレスに身を包み、ベージュ地に色とりどりの花の刺繍が施された大判のマントンを身に巻きつけて登場するのですが、フラメンコ・ギターの爪弾きのような抒情的な曲に乗せて、大胆かつ自在にそのマントンを操る彼女。
時として炎のように、命をもったかのように翻るシルクのショールとフリンジの軌跡が金色の光のように浮かび上がり幻想的な雰囲気を醸し出します。
「・・・女性が手に持つショールは懐かしくて愛しいものの輝きを残しているのです・・・」とはプログラムに載せた彼女自身の言葉。
バレエ公演にフラメンコ?という違和感もなく、GALA公演にはこういう趣向も良いものだなぁと堪能しました。
■「ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ」
上野水香 高岸直樹
振付: マニュエル・ルグリ
音楽: ガエターノ・ドニゼッティ
衣装: セシル・クリスティ
2007年、マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールによって初演。
ルグリ・ガラでマチューに初演を見事に務めたことを労ったら輝くような笑顔を返されたことを思い出しました
今は振付には興味がないときっぱりと語るルグリですから、この作品は貴重。
卓越した踊り手によるものらしく、脚技など細部に至るまで超絶技巧が散りばめられた作品。
アルルカンのような、黒地に赤・黄・緑をステンドグラスのように散りばめた独得の衣装も相まって、誰にでも似合う、こなせる作品ではない、という印象ですが、ドロテ以上に長く雄弁な脚を持つ上野さんと、マチューのように明るいキャラクターの黒髪の美形である高岸さんには良く似合っていました。
もともと、これはデヴィッド・ホールバーグが水香ちゃんと踊る予定だったのが、フォーゲルの故障で玉突き的に変更があって、練習パートナーを務めていた高岸さんが急遽ご登場となった次第。
ベテランの域に達した高岸さんはそれでも特に最終日には意地を見せて(?)見事にソロもこなしていらしたし、水香ちゃんも高岸さんだと安心感もあってか連日良いパフォーマンスを見せてくれたと思います。
■「失われた時を求めて」 "モレルとサン・ルー"
ギヨーム・コテ デヴィッド・ホールバーグ
振付: ローラン・プティ
音楽: ガブリエル・フォーレ
これは今回のGALAの白眉というか、嬉しいサプライズでした・・・
ギヨーム・コテ、素晴らしいダンサーです。
チャイコパだけではわからなかった彼の資質、国際的なスターであるというのも納得の存在感が登場時から感じられました。
長編小説、プルーストの「失われた時を求めて」をバレエ大作に仕立てたプティは、第1部を「プルーストの天国のイメージ」第2部を「プルーストの地獄のイメージ」で構成したそうですが、今回演じられたのは第2部の、「モレルとサン・ルーのパ・ド・ドゥ」(または「天使たちの闘い」)
貴族サン・ルーをヴァイオリニストのモレルが誘惑するシーン。
容姿からして美しい悪魔そのもののデヴィッドがモレル役にぴったり。
髪の色は金髪の貴族を黒髪の悪魔が・・・というイメージからすると逆なのですが、パーソナリティ的にはこれはしっくりきている感じ。
肌色のユニタード姿の二人の緊張感あふれるデュエットも素晴らしかったのですが、登場時のサン・ルーのソロ、これだけでコテのロマンチックで繊細な内面表現の巧みさと抑制の効いた踊りから滲む抒情が見てとれて、とても良かったと思います。
■「三人姉妹」
シルヴィ・ギエム マニュエル・ルグリ
振付: ケネス・マクミラン
音楽: P..I. チャイコフスキー

チェーホフの戯曲「三人姉妹」より。
モスクワ行きに憧れる3人姉妹の長女、さえない田舎教師の夫との生活に倦んでいるマーシャと、モスクワから来たヴェルシーニン中佐の明日のない道ならぬ恋と別れのワンシーン。
ヴェルシーニンは原作ですと43歳、という設定ですから、今のルグリは付け髭やメイクなしで素で演じられる年齢。
ギエムも今だ踊りは完璧で容姿も美しいのですが、お顔に表情によっては法令線がうっすら浮かぶなど少し年齢を重ねていらっしゃる部分も見てとれるところがとても物語とシンクロしてなんともいえない感興を呼び起こされました。
中年にさしかかっての燃え上がる恋、ならではの二人の切実さが、ダイナミックな跳躍や切れ味の鋭いルグリの動き、柔らかなパウダーピンクのワンピースをはためかせるギエムの長い脚から伝わってきてひりつくようなドラマ性を感じさせてくれました。
激しい恋心とその絶望、走りこんでギエムの足元に倒れこみ、片足を流して彼女の膝に顔をうずめる男の髪に手をやり天を仰ぐギエム=マーシャの表情が胸に迫ります。
登場時に帽子を飛ばし、マントをサッと舞台袖方向に脱ぎ捨てたルグリ、愛のデュエットののち、下手に走り去りますが残されたギエムはそのマントに臥して肩を震わせます・・・
オネーギンの最終幕もそうですが、ルグリは不実なのか誠実なのか、一途なのに女を幸せにできない男の造型が実に上手いですね!
ギエムも2003年に「3つの物語」シリーズで来日公演を行ったときに、演技もできるのよ!的な舞台を見せてくれたときからグッと深みが増して、実に雄弁な心に残るマーシャを見せてくれました。
会場が熱狂に沸く中、フィナーレ。
上野・高岸ペア、オグデン・コテ、フォーゲル、マーティン、ルテステュ・バナ、デュポン・ホールバーグ、と歓声に迎えられて最後はギエム・ルグリ。
とりわけ楽日はNBSお得意の「SAYONARA」の大きな幕とともに大量のトリコロールカラーのメタリックテープが落ちてきて会場の拍手も鳴りやまず、大変な盛り上がりでした。
それにしても、本当に充実した密度の濃い大人の公演で素晴らしかった。
ルグリ先生は、秋からはウィーンの芸監として忙しくなられるとは思いますが、ダンサーとしてのキャリアを終えるというおつもりはないようですので、是非また日本でプロデューサーとして腕をふるい、そしてその時その時のダンサーとしてのチャレンジも続けていただきたいと思います。
「SAYONARA」の幕に小さく「a bientot」と書かれていたのですよね・・・
期待しています、NBSさん!
■「マリー・アントワネット」
アニエス・ルテステュ パトリック・ド・バナ
振付: パトリック・ド・バナ
音楽: アントニオ・ヴィヴァルディ
アニエスのためにド・バナが振りつけたこの作品を観てルグリが自分のためのソロを、と依頼したというだけあって、アニエスの持ち味にぴったりの魅力的な作品。
まず衣装にびっくり。
二人とも白いオーガンジーで宮廷衣装をアレンジしたブラウスを着ているが、下半身はショーツのみ。
アニエスはデコルテからウエストにかけてリボンが並びフリルのある7分袖、ぺプラムのついたブラウスと少し襟足を残して結いあげた金髪がとてもお似合い。
ド・バナさんも、襟元にシャボのようなフリルがあしらわれたノースリーブのシャツの上に燕尾のような軽い一重のジャケット風の上着を羽織って登場。
これまたお似合い。
二人とも伸びやかな筋肉の乗った長く美しい脚を持っているので、この衣装は妙に肉感的でちょっとエロティックなのですが、端正な音楽とエレガントなアニエスの存在感で卑俗に陥らないギリギリの線をキープ。
作品は3部に分かれていて、ヴィヴァルディのスタバート・マーテルに合わせて展開します。
最初は無邪気なマリーと従者?次は大人になったマリーが王と心を通わせる親密な場面、そして壁にぶつかり周囲の変化に戸惑い悩む二人。
ド・バナの存在はルイ16世、ということですが、マリーを見守る影のようでもあり、彼女の運命を導く存在とも見えたり複眼的な見方を許す解釈の幅広さを感じました。
最後は。。。断頭台を暗示して。
ド・バナさんの振り付けは精神性を打ち出しながらもいい意味で程よくわかりやすく見せ方も上手い。
キリアンのように圧倒させる世界観、という感じはないのですが、今後も注目していきたい振付家、と思いました。
■「ハロ」
ヘレナ・マーティン
振付: ヘレナ・マーティン
音楽: アラ・マリキアン、ホセ・ルイス・モントン

アントニオ・ガデス、ホアキン・コルテス、といった一流どころと共演してきた本格派フラメンコダンサーです。
パトリック・ド・バナが主催するナファス・ダンス・カンパニーのゲストアーティスト・振付家という縁とルグリの希望で参加。
ワインカラーのシンプルなフラメンコドレスに身を包み、ベージュ地に色とりどりの花の刺繍が施された大判のマントンを身に巻きつけて登場するのですが、フラメンコ・ギターの爪弾きのような抒情的な曲に乗せて、大胆かつ自在にそのマントンを操る彼女。
時として炎のように、命をもったかのように翻るシルクのショールとフリンジの軌跡が金色の光のように浮かび上がり幻想的な雰囲気を醸し出します。
「・・・女性が手に持つショールは懐かしくて愛しいものの輝きを残しているのです・・・」とはプログラムに載せた彼女自身の言葉。
バレエ公演にフラメンコ?という違和感もなく、GALA公演にはこういう趣向も良いものだなぁと堪能しました。
■「ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ」
上野水香 高岸直樹
振付: マニュエル・ルグリ
音楽: ガエターノ・ドニゼッティ
衣装: セシル・クリスティ
2007年、マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールによって初演。
ルグリ・ガラでマチューに初演を見事に務めたことを労ったら輝くような笑顔を返されたことを思い出しました

今は振付には興味がないときっぱりと語るルグリですから、この作品は貴重。
卓越した踊り手によるものらしく、脚技など細部に至るまで超絶技巧が散りばめられた作品。
アルルカンのような、黒地に赤・黄・緑をステンドグラスのように散りばめた独得の衣装も相まって、誰にでも似合う、こなせる作品ではない、という印象ですが、ドロテ以上に長く雄弁な脚を持つ上野さんと、マチューのように明るいキャラクターの黒髪の美形である高岸さんには良く似合っていました。
もともと、これはデヴィッド・ホールバーグが水香ちゃんと踊る予定だったのが、フォーゲルの故障で玉突き的に変更があって、練習パートナーを務めていた高岸さんが急遽ご登場となった次第。
ベテランの域に達した高岸さんはそれでも特に最終日には意地を見せて(?)見事にソロもこなしていらしたし、水香ちゃんも高岸さんだと安心感もあってか連日良いパフォーマンスを見せてくれたと思います。
■「失われた時を求めて」 "モレルとサン・ルー"
ギヨーム・コテ デヴィッド・ホールバーグ
振付: ローラン・プティ
音楽: ガブリエル・フォーレ
これは今回のGALAの白眉というか、嬉しいサプライズでした・・・
ギヨーム・コテ、素晴らしいダンサーです。
チャイコパだけではわからなかった彼の資質、国際的なスターであるというのも納得の存在感が登場時から感じられました。
長編小説、プルーストの「失われた時を求めて」をバレエ大作に仕立てたプティは、第1部を「プルーストの天国のイメージ」第2部を「プルーストの地獄のイメージ」で構成したそうですが、今回演じられたのは第2部の、「モレルとサン・ルーのパ・ド・ドゥ」(または「天使たちの闘い」)
貴族サン・ルーをヴァイオリニストのモレルが誘惑するシーン。
容姿からして美しい悪魔そのもののデヴィッドがモレル役にぴったり。
髪の色は金髪の貴族を黒髪の悪魔が・・・というイメージからすると逆なのですが、パーソナリティ的にはこれはしっくりきている感じ。
肌色のユニタード姿の二人の緊張感あふれるデュエットも素晴らしかったのですが、登場時のサン・ルーのソロ、これだけでコテのロマンチックで繊細な内面表現の巧みさと抑制の効いた踊りから滲む抒情が見てとれて、とても良かったと思います。
■「三人姉妹」
シルヴィ・ギエム マニュエル・ルグリ
振付: ケネス・マクミラン
音楽: P..I. チャイコフスキー

チェーホフの戯曲「三人姉妹」より。
モスクワ行きに憧れる3人姉妹の長女、さえない田舎教師の夫との生活に倦んでいるマーシャと、モスクワから来たヴェルシーニン中佐の明日のない道ならぬ恋と別れのワンシーン。
ヴェルシーニンは原作ですと43歳、という設定ですから、今のルグリは付け髭やメイクなしで素で演じられる年齢。
ギエムも今だ踊りは完璧で容姿も美しいのですが、お顔に表情によっては法令線がうっすら浮かぶなど少し年齢を重ねていらっしゃる部分も見てとれるところがとても物語とシンクロしてなんともいえない感興を呼び起こされました。
中年にさしかかっての燃え上がる恋、ならではの二人の切実さが、ダイナミックな跳躍や切れ味の鋭いルグリの動き、柔らかなパウダーピンクのワンピースをはためかせるギエムの長い脚から伝わってきてひりつくようなドラマ性を感じさせてくれました。
激しい恋心とその絶望、走りこんでギエムの足元に倒れこみ、片足を流して彼女の膝に顔をうずめる男の髪に手をやり天を仰ぐギエム=マーシャの表情が胸に迫ります。
登場時に帽子を飛ばし、マントをサッと舞台袖方向に脱ぎ捨てたルグリ、愛のデュエットののち、下手に走り去りますが残されたギエムはそのマントに臥して肩を震わせます・・・
オネーギンの最終幕もそうですが、ルグリは不実なのか誠実なのか、一途なのに女を幸せにできない男の造型が実に上手いですね!
ギエムも2003年に「3つの物語」シリーズで来日公演を行ったときに、演技もできるのよ!的な舞台を見せてくれたときからグッと深みが増して、実に雄弁な心に残るマーシャを見せてくれました。
会場が熱狂に沸く中、フィナーレ。
上野・高岸ペア、オグデン・コテ、フォーゲル、マーティン、ルテステュ・バナ、デュポン・ホールバーグ、と歓声に迎えられて最後はギエム・ルグリ。
とりわけ楽日はNBSお得意の「SAYONARA」の大きな幕とともに大量のトリコロールカラーのメタリックテープが落ちてきて会場の拍手も鳴りやまず、大変な盛り上がりでした。
それにしても、本当に充実した密度の濃い大人の公演で素晴らしかった。
ルグリ先生は、秋からはウィーンの芸監として忙しくなられるとは思いますが、ダンサーとしてのキャリアを終えるというおつもりはないようですので、是非また日本でプロデューサーとして腕をふるい、そしてその時その時のダンサーとしてのチャレンジも続けていただきたいと思います。
「SAYONARA」の幕に小さく「a bientot」と書かれていたのですよね・・・
期待しています、NBSさん!