2013年11月14日(木)19:00~
東京文化会館にて
「カルメン」「エチュード」/東京文化会館
◆主な配役◆
「エチュード」
エトワール: 上野水香、高岸直樹、梅澤紘貴、松野乃知
白の舞踊手(ソリスト): 吉川留衣、岸本夏未
ほか、東京バレエ団
「カルメン」
カルメン: シルヴィ・ギエム
ホセ: マッシモ・ムッル
エスカミリオ: 柄本弾
M: 高木綾
オフィサー: 木村和夫
ジプシー: 岡崎隼也
女性たち: 奈良春夏、
矢島まい、川島麻実子、河谷まりあ、伝田陽美、三雲友里加
兵士たち: 氷室友、松野乃知、岸本秀雄、入戸野伊織、岩村暁斗
◆上演時間◆
第1幕 19:00 - 19:50 (休憩20分) 第2幕 20:10 - 21:00
まずは「エチュード」
ツェル二―のピアノ曲に合わせての有名なバ―レッスンのシルエットから始まるこのネオクラシックな味わいのある作品は東バの女性ダンサーのレベルの高さをアピールするのにピッタリですね。
・・・と同時に、男性ダンサーの層の薄さが対比的に目立ってしまうのもまた事実。
ちょっと前まで実力のある若手・中堅が揃っていたのに・・・。
そんな中で、上がってきたな、と嬉しくなったのが松野乃知さん。
このところの東バ公演で、シルエットがきれいで指先まで繊細なニュアンスで踊る若い子がいるな、と注目していましたので・・・。
群舞では抜きんでていると思っていましたが、センターを取る3人の一角となるとまだちょっと不安定?
これからの東バを支える人材として成長を見守りたいと思います。
この日、高岸さんが直前のお稽古での故障で、前半のみの登場、後半はセカンドキャストの梅澤さんが入られるというイレギュラーな布陣に。
そして、メインの「カルメン」ですが。
マッツ・エックの全幕を観るのは初めてですが、素晴らしい。
赤い衣装に髪飾り、というカルメンの符号を身につけてはいますが、およそ女らしい媚態を見せることなく、本能の赴くままに自由にふるまうギエムのカルメン。多分ノ―メイクで、舞台に置かれた黒い球体のオブジェに膝を大きく開いて腰掛け、太い葉巻を吹かす。主人公、ではあるのですが、物語のヒロイン、というよりは、作品世界の通奏低音のように野太く、欲望の赴くままに吹き荒れる風のように存在する、という感じ。
ムッルのホセは 長身細身で 手先足の爪先に至る末端の繊細なラインに至るまで、抜きんでた優雅さを持ち、ある意味カルメンとは対照的。
カルメンを愛し、彼なりの男女の役割イメージの中の幸福を求めるも、カルメンの世界観とは所詮相入れずに悲劇に至る・・・という印象。彼こそが、運命にあやつられている美しきヒロイン、であったかと。
ギエムがインタビューで
「私自身が上演を提案しました。東京バレエ団がこの作品を踊ることは、私にとっても嬉しいこと! 存命する偉大な振付家の一人と仕事ができるということは、とても大きなことです」
「エック版のカルメンはとても動物的。まさに、メリメの原作に描かれた、"本物"のカルメンです」
と語っていたように、ベジャール亡き後、精神的支柱を欠いていた感のある東バソリストの、クラシック的な舞踊言語とは異なるマッツ・エックの世界観をいともたやすくものにしているように見える、今回の完成度の高さは特筆すべきレベル。
振り覚えで、映像をもとに再現しての上演が一般的に行われている現状で、直接、振付家から、その精神も含めての指導を受けての舞台の濃密さ、そして、エック作品との相性の良さに感じ入りました。
主要なキャストのハマり具合が素晴らしく・・・。
なんと言っても、登場から息を飲むほど存在感が際立っていたのがオフィサー役のベテランプリンシパル木村さん。
彼の持つ、踊りの端正さと存在のケレン味が、口髭・詰襟の軍服姿に凝縮されて、シャープな動きと相まって素晴らしかったです。
ちょっと、べジャ―ルの「中国の不思議な役人」を思わせる、死んでも何度でも蘇りそうな生命力も感じられて。
木村さんは映画で旧日本軍の軍人を演じたらピッタリかも・・・などと妄想が広がる存在感の強さ、でした。
Mの高木さんについては、驚きの一言。
正統派のロシアバレエのメソッドを身につけたたおやかなクラシックダンサー、とのイメージがあった彼女が、完璧にエック作品独特のムーブメントを細部に至るまで再現し、かつ、母(mere),婚約者のミカエラ(Michaela)、死(mort)を示唆するMとして、抽象的な動きの中に、それぞれの演じ分けも。
エスカミリオの柄本さん。
アイドル的な容姿で、東バのシクシャローフくん、と密かに名付けていたのですが、彼も、パリ公演での「ザ・カブキ」の由良之介役など、大役を続けて担ってきただけあって、エネルギッシュなパワーを発散するエック版エスカミリオを好演。
ここしばらくの彼センターでの東バ公演を観ていませんでしたので、ギエム相手にがっぷり四つに組んで踊る彼の姿はなんとも新鮮で・・・。若い荒削りなところが、役に合っていて効果的だったと思います。
演出は・・・。
背景のベージュに黒の水玉のオブジェのセンターにひび割れて出来たような穴から出入りする様が、チーズとネズミみたいでユーモラス。
女性陣の衣装が、上の画像のカルメン衣装からパタ・デ・コ―ラの裾を取り除いた感じのボリュームフリルスカート&シンプルな上半身の基本フラメンコ衣装シルエットながら、銀紙のような強烈なメタリック感が新鮮。
色は銀・緑・黄・黄緑・ターコイズ。
Mの紫、カルメンの赤と好対照。
ホセは黒、オフィサーは濃紺、エスカミリオは金茶、男性陣はグレー。
カルメンが、ホセやエスカミリオを捉えたときに、身体の一部(胸や腰)から細長いスカーフを抜き出す演出が面白い。
群舞で一斉に10数名のダンサーが葉巻を吹かし、その甘い香りが客席にまで届き、そして残り香が続く。
物語の進行で深まりクライマックスに至る酩酊感を5感で感じられて、とても良かった。
嫌いな方はつらいかも、ですが^^;
見ている途中、ところどころで、ハッと胸を突かれ、震えがくる瞬間がありました。
醜い、といっても良い動きや表情、叫び声、悪趣味寸前の演出などが、全て美と感動に結びついてくるエック作品の精華をこのキャストで観られて幸せです。
初日、ということもあってカーテンコールでマッツ・エック御大とその片腕の方たちが舞台に上られましたが、長身の学者肌風の方。満足されているご様子でした。
東京文化会館にて
「カルメン」「エチュード」/東京文化会館
◆主な配役◆
「エチュード」
エトワール: 上野水香、高岸直樹、梅澤紘貴、松野乃知
白の舞踊手(ソリスト): 吉川留衣、岸本夏未
ほか、東京バレエ団
「カルメン」
カルメン: シルヴィ・ギエム
ホセ: マッシモ・ムッル
エスカミリオ: 柄本弾
M: 高木綾
オフィサー: 木村和夫
ジプシー: 岡崎隼也
女性たち: 奈良春夏、
矢島まい、川島麻実子、河谷まりあ、伝田陽美、三雲友里加
兵士たち: 氷室友、松野乃知、岸本秀雄、入戸野伊織、岩村暁斗
◆上演時間◆
第1幕 19:00 - 19:50 (休憩20分) 第2幕 20:10 - 21:00
まずは「エチュード」
ツェル二―のピアノ曲に合わせての有名なバ―レッスンのシルエットから始まるこのネオクラシックな味わいのある作品は東バの女性ダンサーのレベルの高さをアピールするのにピッタリですね。
・・・と同時に、男性ダンサーの層の薄さが対比的に目立ってしまうのもまた事実。
ちょっと前まで実力のある若手・中堅が揃っていたのに・・・。
そんな中で、上がってきたな、と嬉しくなったのが松野乃知さん。
このところの東バ公演で、シルエットがきれいで指先まで繊細なニュアンスで踊る若い子がいるな、と注目していましたので・・・。
群舞では抜きんでていると思っていましたが、センターを取る3人の一角となるとまだちょっと不安定?
これからの東バを支える人材として成長を見守りたいと思います。
この日、高岸さんが直前のお稽古での故障で、前半のみの登場、後半はセカンドキャストの梅澤さんが入られるというイレギュラーな布陣に。
そして、メインの「カルメン」ですが。
マッツ・エックの全幕を観るのは初めてですが、素晴らしい。
赤い衣装に髪飾り、というカルメンの符号を身につけてはいますが、およそ女らしい媚態を見せることなく、本能の赴くままに自由にふるまうギエムのカルメン。多分ノ―メイクで、舞台に置かれた黒い球体のオブジェに膝を大きく開いて腰掛け、太い葉巻を吹かす。主人公、ではあるのですが、物語のヒロイン、というよりは、作品世界の通奏低音のように野太く、欲望の赴くままに吹き荒れる風のように存在する、という感じ。
ムッルのホセは 長身細身で 手先足の爪先に至る末端の繊細なラインに至るまで、抜きんでた優雅さを持ち、ある意味カルメンとは対照的。
カルメンを愛し、彼なりの男女の役割イメージの中の幸福を求めるも、カルメンの世界観とは所詮相入れずに悲劇に至る・・・という印象。彼こそが、運命にあやつられている美しきヒロイン、であったかと。
ギエムがインタビューで
「私自身が上演を提案しました。東京バレエ団がこの作品を踊ることは、私にとっても嬉しいこと! 存命する偉大な振付家の一人と仕事ができるということは、とても大きなことです」
「エック版のカルメンはとても動物的。まさに、メリメの原作に描かれた、"本物"のカルメンです」
と語っていたように、ベジャール亡き後、精神的支柱を欠いていた感のある東バソリストの、クラシック的な舞踊言語とは異なるマッツ・エックの世界観をいともたやすくものにしているように見える、今回の完成度の高さは特筆すべきレベル。
振り覚えで、映像をもとに再現しての上演が一般的に行われている現状で、直接、振付家から、その精神も含めての指導を受けての舞台の濃密さ、そして、エック作品との相性の良さに感じ入りました。
主要なキャストのハマり具合が素晴らしく・・・。
なんと言っても、登場から息を飲むほど存在感が際立っていたのがオフィサー役のベテランプリンシパル木村さん。
彼の持つ、踊りの端正さと存在のケレン味が、口髭・詰襟の軍服姿に凝縮されて、シャープな動きと相まって素晴らしかったです。
ちょっと、べジャ―ルの「中国の不思議な役人」を思わせる、死んでも何度でも蘇りそうな生命力も感じられて。
木村さんは映画で旧日本軍の軍人を演じたらピッタリかも・・・などと妄想が広がる存在感の強さ、でした。
Mの高木さんについては、驚きの一言。
正統派のロシアバレエのメソッドを身につけたたおやかなクラシックダンサー、とのイメージがあった彼女が、完璧にエック作品独特のムーブメントを細部に至るまで再現し、かつ、母(mere),婚約者のミカエラ(Michaela)、死(mort)を示唆するMとして、抽象的な動きの中に、それぞれの演じ分けも。
エスカミリオの柄本さん。
アイドル的な容姿で、東バのシクシャローフくん、と密かに名付けていたのですが、彼も、パリ公演での「ザ・カブキ」の由良之介役など、大役を続けて担ってきただけあって、エネルギッシュなパワーを発散するエック版エスカミリオを好演。
ここしばらくの彼センターでの東バ公演を観ていませんでしたので、ギエム相手にがっぷり四つに組んで踊る彼の姿はなんとも新鮮で・・・。若い荒削りなところが、役に合っていて効果的だったと思います。
演出は・・・。
背景のベージュに黒の水玉のオブジェのセンターにひび割れて出来たような穴から出入りする様が、チーズとネズミみたいでユーモラス。
女性陣の衣装が、上の画像のカルメン衣装からパタ・デ・コ―ラの裾を取り除いた感じのボリュームフリルスカート&シンプルな上半身の基本フラメンコ衣装シルエットながら、銀紙のような強烈なメタリック感が新鮮。
色は銀・緑・黄・黄緑・ターコイズ。
Mの紫、カルメンの赤と好対照。
ホセは黒、オフィサーは濃紺、エスカミリオは金茶、男性陣はグレー。
カルメンが、ホセやエスカミリオを捉えたときに、身体の一部(胸や腰)から細長いスカーフを抜き出す演出が面白い。
群舞で一斉に10数名のダンサーが葉巻を吹かし、その甘い香りが客席にまで届き、そして残り香が続く。
物語の進行で深まりクライマックスに至る酩酊感を5感で感じられて、とても良かった。
嫌いな方はつらいかも、ですが^^;
見ている途中、ところどころで、ハッと胸を突かれ、震えがくる瞬間がありました。
醜い、といっても良い動きや表情、叫び声、悪趣味寸前の演出などが、全て美と感動に結びついてくるエック作品の精華をこのキャストで観られて幸せです。
初日、ということもあってカーテンコールでマッツ・エック御大とその片腕の方たちが舞台に上られましたが、長身の学者肌風の方。満足されているご様子でした。
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