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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

フィレンツェ歌劇場「トスカ」 ②

2011-03-19 17:26:10 | OPERA
2011年3月13日(日)
フィレンツェ歌劇場来日公演「トスカ」

東日本大地震の翌々日。
津波と大きな揺れによる被害が北日本を中心に未曾有の爪痕を残した・・・とはいえ、これから復興に向けて頑張ろう、という空気があったとき。
海外からの支援の申し入れも相次ぎ、大きな喪失感とともに、上を向いて浮上しなくては・・・というかすかな希望が見えていた、そんな日常を取り戻そうとしている関東の日曜日。
寒さに震えながら来ないタクシーを待ち、慣れない道を歩いた金曜の夜の混乱が嘘のように、ごくごく普通に神奈川県民ホールにたどりつき、その窓からは穏やかな青い海と港の風景が一望にでき、シャンパン片手に、いつも通りの休日が過ぎようとしていました

その後、なんですよね。原発の損傷が報じられどんどん事態が悪化していったのは・・・。
よって、14日の「運命の力」は東京文化会館で上演されたものの、15日の段階ではもう中止が決定。
本当に幻のような公演でした。13日は。

原発問題も、まだ解決というには至っていませんが緊急避難の可能性を含む危機的状況はとりあえず脱したのかと。
節電体制は続くものの、焦っても被災地以外の住民は、正しい組織の募金に応じ、不便をかこつことがあったとしても、それは理解して協力する。今は、国の財政支出が増大することを踏まえて、個人、企業ともに税金を納めることのできる体力を維持するべく、社会活動を通常通り行う、というのがコンセンサスかと。
いやいや、もっと長期に渡って活動は控えて喪に服すべきだ、という意見も目にしますが。
それぞれの立場での温度差もあるかと思いますし、実感できる何かをしたいと焦る気持ちもわかりますし。。。

ただ、こんなときだからこそ、むやみな批判に時を過ごすのではなく、前を向く力を積極的に取り込んでいきたい、と思うのでした。というわけで、13日の公演の感想、OUTPUTしてみたいと思います




幕が開く前に、マエストロ、ズ―ビン・メータ氏から異例の挨拶が。
わかりやすい英語で、今回の地震について、その災害を乗り越えてこの舞台が開催されたことについてのお礼と、北日本で被災された方々のことを思って演奏する、という心のこもったものでした。

今回の演出は、ヨーロッパ発には珍しく?、舞台も衣装も非常に正統派のクラシック。
オペラ初心者にも、作品世界を理解しやすく、という配慮だそうですが、カヴァラドッシのマルコ・ベルディ、トスカのアディーナ・ニテスク、スカルピアのルッジェーロ・ライモンディともに容姿と声質に恵まれていて、本当に楽しめる舞台でした。

ベルディ、ニテスクは、ともに初見ですが、ベルディのポイントポイントで良く響く声が心地よい。
ニテスクは東欧系のソフトな容姿のブルネット。触れなば落ちん柔肌の美女・・・で、鉄火なトスカとはまた違った魅力を発していましたが、一番の聴かせどころの「歌に生き恋に生き」のタメがやや不足していたせいか軽く感じられたのが惜しまれます。



スカルピアのライモンディは・・・
いや、今回は彼を目当てに行ったも同然ですので、語りますが(笑)、やはりその存在感は素晴らしい!
前回のフィレンツェ歌劇場来日公演は5年前で、そのときは軽妙に人生の哀歓を表現したファルスタッフで。
相変わらず素敵ですねvとサイン会で思わず申し上げたらこんなお腹なのに?と詰め物を入れたお腹のゼスチャーで笑わせてくださった彼ですが、10年前のボローニャ歌劇場来日公演での同役を彷彿とさせる舞台姿に涙・・・。
あの「TOSCA」ははっきり言って、男前のホセ・ク―ラのカヴァラドッシを凌駕するカッコよさでしたものね・・・。
モノトーンの大階段の真ん中で黒い宮廷服で歌い上げる「テ・デウム」に鳥肌が立ったこと、今でも忘れられません・・・。

で、今回の「行け、トスカ Va Tosca」と「テ・デウム Te Deum」
嫉妬を焚きつけ、思わず彼の別荘へと浮気の現場を押さえに走るトスカを部下に追わせ、自分はカヴァラドッシがかくまう反逆者アンジェロッティの首と、トスカとの2つの獲物が落ちてくるのを待つばかり・・・という、暗い欲望と、そのスカルピアの背後で進む、ローマ教会の赤白金のミサの荘厳な豪奢さがコントラストを見せて見事な2幕の終わり。
ただ、やっぱり・・・というか、声量は落ちましたね;;。
1941年生まれの彼には、オーケストラと合唱を乗り越えて力で押すのはさすがに難しいのかもしれません。

その分 増したのが表現力。スカルピアの独唱って、女を口説く愛の言葉もギターの演奏も知らない自分だが、その場限りの快楽があればいい、という実は不器用な男の独白。一幕、三幕で、カヴァラドッシが甘い言葉で存分にトスカへの愛を語るので、その対比がまた響きます。カヴァラドッシの命と一瞬の慰めを賭けたトスカとの駆け引き。真っ赤な宮廷服で、トスカを口説くスカルピアの紳士的な外見と秘められたエゴイストな欲望・・・が細やかに表現されてドキドキしました。

3幕の初めの羊飼いの歌。
これはクレジットされていませんでしたが、どうやら東京児童合唱団のメンバーが歌ったらしく、最後のカーテンコールに、フィレンツェ側のキャストに引っ張られたのか、にこやかに手を引かれて登場させられていらっしゃいました。
ソプラノが歌うこともある役なので、チャンスを活かして良いパフォーマンスが出来て良かった。最後まで名前が出なかったのはまだ学生さんだからでしょうか。将来、そういえば、という歌手に育ってくださると楽しみなのですけど^^

オケは、メータ氏の音の輪郭を浮き上がらせるような指揮に導かれ、メリハリの利いた華やかな演奏で、プッチーニならではのメロディーの美しさを堪能できました。

短い滞在で地震に遭遇され、スタッフ、楽団員の皆さまのショックも小さくなかったとは思いますが、そのショックを乗り越えて素晴らしくプロフェッショナルな演奏と空間を作り上げたフィレンツェ歌劇場の皆さまには感謝の念が絶えません。
また、次の公演も実現することを祈っています。


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2 コメント

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Unknown (maria)
2011-03-22 04:19:38
marimariさま、おはようございます{ラブ}
レスが遅くなりまして申し訳ありません^^;

勝手な自分目線でしかないレポですが、皆さまの想像力で楽しんでいただけるのであれば、こんなに嬉しいことはありません{ラブラブ}
マリインスキーオペラはゲルギエフの意欲的なプログラム構成で惹かれましたが、今回はわたくしはパスしてしまい・・・でも、あとから ご覧になった方の感想を伺うと、やはり充実した舞台だったみたいですね。
ソプラノが肌で感じられるのって・・・わかりますわ~{キラピンク}
東京文化会館でリゴレットのゼルダのアリアを聴いたときに、声が天井に反響して、降り注ぐように聞こえ・・・まさに天上の音楽{天使}と陶然となったことを思い出しました{ベル}
やはり生のOPERAはいいですよね~{キラリ}

フィレンツェの舞台のトリックアート・・・
・・・天井の絵画を角度をつけて客席から観られるようにしたり・・・という部分でしょうか。
音楽や「トスカ」という演目に対して観客がイメージする世界観から逸脱することなく才気が感じられる美術で好感が持てました{YES}
シンプルな抽象的な舞台で心理描写を際立たせるのが効果的なこともありますが、今回のような具象的で豪華さのある舞台もまた楽しいデス。

本当に、舞台は5感を刺激してくれますね。
またのお越しをお待ちしております{うさぎ}
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Unknown (marimari)
2011-03-20 21:49:17
mariaさま

すばらしいレビューをありがとうございました!
見たこともない舞台なのに、その場にいた感動を一緒に味わえたかのような気分になりました。
このような時に芸術は心に本当に響きますね。
心が潤されました。

それにしても・・・mairaさまって本当にいろいろな分野に詳しくていらっしゃって、レビューも奥深い。とてもとても私は語れません。
初オペラのマイリンスキーオペラも、チケット代にびっくりしつつ、でもどうしても生!とNHKの3階限りなく後ろの方での鑑賞でした。そんな席でもソプラノの声が空気を伝わって、まさに振動となって肌で感じられた感動は忘れられません。

フィレンツェ歌劇団のトスカは舞台美術が楽しみでもありました。トリックアートを取り入れ臨場感あふれる舞台との前評を読んでいましたので。

今回この公演を逃したことを私もその要因背景とともにしっかり記憶し、次の機会を楽しみにがんばります。
また伺いますね。
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