宝塚宙組2番手格男役、朝夏まなと主演、上田久美子作・演出
宝塚宙組公演
「翼ある人々~ブラームスとクララ・シュ―マン」
日本青年館公演、千秋楽前日の日曜日にW観劇した感想です。
先行して2月8日(土)から16日(日)まで、梅田のシアター・ドラマシティで上演されたときにとても評判が良く、
2月26日(水)~3月3日(月)の日本青年館公演も完売と、以前は苦戦する状況が多く見られたTOPスター以外の生徒の主演作品に良作が続いて、チケット入手もむずかしくなってきましたね。
良き傾向ではありますし、チケット取りも苦労するとはいえ色々なルートがありますので、最終的には観られない、ということにはならないのですが・・・嬉しい悲鳴と言ったところでしょうか?
配役は
ヨハネス・ブラームス 朝夏 まなと
ロベルト・シューマン 緒月 遠麻
クララ・シューマン 伶美 うらら
*~*~*
ベルタ【シューマン家の料理女】 鈴奈 沙也
イーダ・フォン・ホーエンタール【音楽界の御意見番。通称「伯爵夫人」】 純矢 ちとせ
ヴェラ【ハンブルクの酒場の女将】 花音 舞
ヘルマン博士 【ロベルトの主治医】 風羽 玲亜
カタリーナ【晩年のブラームスの家政婦】 花里 まな
ヨーゼフ・ヨアヒム【名ヴァイオリニスト。シューマン家の友人】 澄輝 さやと
ルイーゼ・ヤーファ【実在の女性に名を借りた架空の人物。クララのピアノの生徒】 すみれ乃 麗
ベートーヴェン? 【ベートーヴェン?】 凛城 きら
オットー・ヴェーゼンドンク【ジュネーブの銀行家。音楽の有力なパトロン】 松風 輝
フランツ・リスト【ロマン派のピアニスト、作曲家。「ピアノの魔術師」の異名をもつ】 愛月 ひかる
レオノーラ・ゼンフ【ライプツィヒの音楽出版社の社長夫人】 結乃 かなり
マティルデ・ヴェーゼンドンク【ジュネーブの銀行家夫人】 夢涼 りあん
ユリウス・グリム【作曲家志望の青年。シューマン家の友人】 美月 悠
リヒャルト・ワーグナー【ロマン派オペラの頂点に立つ作曲家。「楽劇王」と呼ばれる】 春瀬 央季
カロリーネ・フォン・ヴィトゲンシュタイン【ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人。リストの愛人】 真みや 涼子
エミール・シューマン【シューマン家の長男】 秋音 光
フェリックス・シューマン【シューマン家の次男】 花菱 りず
ユリー・シューマン【シューマン家の長女】 遥羽 らら
若き日のヨハネス・ブラームスを主人公に、彼の才能を見出したシューマン、その妻で有名ピアニストのクララ、三人の出会いから別れまでを描く物語。ある秋の日、デュッセルドルフに住むシューマン夫妻のもとに、一人の貧しい青年が訪ねて来る。酒場のピアノ弾きをしていたというその青年が弾いてみせた自作の交響曲のモチーフ…青年ブラームスの才能は、シューマンとクララを魅了し、彼自身の運命をも変えてゆく。シューマンは青年を自宅に住まわせ教えを授けるが、ブラームスは美しいクララに惹かれてゆき…。背徳の恋と師弟の愛情、音楽への同じ志。三人の矛盾に満ちた関係に、破綻の時は近づいていた。愛憎を越えて音楽に結ばれた三人の絆を通して、やがて芸術家として飛翔してゆく主人公の姿をドラマティックに描き出す。
以上がこの物語の全てです。
過去に映画でもこの題材は取り上げられており、わたくしは未見なのですが、
「クララ・シューマン 愛の協奏曲」GELIEBTE CLARA/CLARA
という2008年の作品がありますね。
ブラームスの末裔にあたるヘルマ・サンダース・ブラームス監督が、クララとブラームスの関係にきりこんだ意欲作とされているようですが、この映画を観た友人によりますと、ほぼストーリーの骨子は同じ、だそう。
脚色込みでの、この芝居の流れは(ネタばれアリです)・・・
貧困の中、孤独に自らの音楽を追求しようとしていた若き天才ブラームスを見出したのはバイオリニスト、ヨアヒム。
彼はブラームスを当時のクラシック音楽界で偉大なるベートーベン後の音楽界の覇権を競う時代の寵児リストと古典をベースに持論を展開する知性派のロベルト・シューマンに紹介し、ブラームスは(選んだ、ということは後でわかる仕組みだが)シューマン家に住み込み、師事することになる。
音楽を真に愛するシューマン夫妻はなんとかこの才能を世に出そうと無私の心で腐心し、音楽界の御意見番ホ―エンタ―ル伯爵夫人の夜会でデビューさせる。ピアノの教え子である令嬢ルイーゼに協力を仰ぎ、シューマン夫妻はブラームスを伴って出席。リストとシューマンのピアノ対決の場で、発作を起こしたロベルトの代わりにクララが演奏を始めると、心ない聴衆の噂話にブラームスは喧嘩沙汰を起こしてしまう。
クララのとりなしで今度はブラームスが自作を演奏。音楽愛好家の耳にその才能が届き、夫妻の思い通りにブラームスは成功への足がかりをつかむ。
一方、すでに病に心身を蝕まれていたロベルトは作曲もままならず、精神のバランスを崩し始める。
美貌と才能を合わせ持つピアニストとしてヨーロッパ中で引く手あまたのクララが演奏旅行で家計を支え、そんなシューマン家を支えるブラームスの心にクララに対する思慕以上の感情が芽生える。
クララのピアノの生徒である令嬢ルイーゼはブラームスに片思い。ブラームスの秘めた思いを察知した彼女は自身の懸念をロベルトに言ってしまう。
デュッセルドルフのカーニバルの夜、クララに告白するブラームス。
その言葉を耳にしたロベルトが川に飛び込み、一命を取り留めるが入院。
高額の治療費をねん出するため、クララは今まで以上に演奏旅行で家を開け、子守と留守番のためひきこもるブラームスを心配する友人たち。
ロベルトが亡くなって、クララは子供たちとベルリンへ、ブラームスは夫妻の力でもらった翼をはばたかせるためにウィーンへ向かうのだった・・・。
物語は、最初と最後に生涯独身を貫き、クララ没後一年でその生涯をとじたブラームスの家の始末をする老年のヨアヒムとルイーゼの思い出語りから始まり、最後もその場面で、入れ子形式で演出されています。
私的見どころを。
■麗しのクララ・シューマン
これは宙組2番手男役朝香まなと氏の主演作品、ではありますが、なんと副題なれどタイトル・ロールのヒロイン、池田銀行イメージガール(=TOP娘役候補)期待の95期伶美うらら嬢、ついにブレイク!
とこぶしを握って突きあげたくなる
完璧なヒロインでした
もともと品のある長身の美少女で輪っかのドレスが似合うことは周知の事実だったのですが、今回の才能あるピアニストにして良妻賢母のクララ・シューマンがぴったりで。
耳隠しの落ち着いたアップヘアと美しいデコルテを出した演奏会のドレスがお似合いで、サテンのライトグレーの上品さ、真っ赤なドレスの艶やかさ、ともにこの品格ある作品にふさわしい華を添えていました。
演技も良く、ちょっとした視線や台詞回しも自然でクララその人。
一つ言えば、歌ですね。自信がないのか今一つ入り込めない、楽譜をなぞったような歌い方で・・。
演技に入り込んだ状態で歌に入ると、時々オッと思わせるのですが、途中から拙くなったり・・・。経験とレッスンでこれから良くなることを期待します。
夫役の緒月さんとも、ブラームスのまぁくんともリストの愛月さんとも 長身宙男との並びはいずれも綺麗でした
■舞台を締める緒月シューマン
病のために自分が自分であることが出来なくなる恐怖と闘いつつも、藝術にその身をささげ、妻を熱愛し、弟子に世に出る機会を与え、懸命に生きる役どころ。
古典をベートーヴェンを尊敬し、理論的に音楽に対峙するも、世はリストやワーグナーの新奇性に眩惑されて厳しい環境・・・。自身の内外にある苦悩を鍵盤にぶつけたような、ブラームスとのベートーベンのソナタの連弾シーンは圧巻。
それでいて、ルイーズのヨハネス(ブラームス)への愛に気付いた時の温かな励ましなど、随所に現れる人間味溢れる味わいが、ラストの、シューマンが亡くなった後のブラームスの独白、「シューマンの翼の下で憩うていたクララとヨハネス」につながるのかと。
■豪華すぎる音楽サロン
当時の金持ち、貴族が主催する音楽サロンでの活動で、スポンサーや世間の評価、楽譜出版、演奏会への道を得る音楽家。
その様子を活写した場面がなんとも豪華。
超絶技巧で貴婦人たちのアイドルとして熱狂的な支持を集めていたフランツ・リスト役の愛月ひかるさんがキザの極みのような曲芸すれすれの演奏スタイルを披露して
センターパーツで流したヘアスタイルもお似合いで、キャーキャー言って彼を追いかける御婦人方のお気持ちよくわかります。日曜日午前の回では噂の後ろ弾きも披露。観られて良かったです^^
それでいて、シューマンが倒れた後、精力的な演奏活動で家計を支えるクララ=昔の想い人との会話では、シューマンのために演奏会で彼の曲を取り入れたり、陰でサポートしていることが知れたり・・・と実は良いヒト?
クララとの会話「赤が似合う」「貸衣装ですわ」など、ツボな台詞が多く、脚本の力を随所で感じました。
もう1人の時代の寵児、ワーグナー役は春瀬央季さん。
ちょっと線が細いけれど美形であると、常に宙組ファンの一定の注目を集めている彼女がカリスマ・ワーグナーを。
登場時の音楽がワグネリアンならそうそうと頷く「ニーベルングの指輪」の”動機”を使っていたり、借金取りエピソードをまじえていたり(ワーグナーと借金取りはクラシックファンには鉄板のネタ)ツボをはずさない設定に拍手
■音楽界の重鎮「伯爵夫人」
クラシック音楽界の動向を見据え、作曲家たちに一目置かれるご意見番、ホ―エンタール伯爵夫人を宙組の歌姫、純矢ちとせ嬢が。常にゴージャスな白いドレスで、演劇的な敢えての時代がかった台詞回しと、この青年館公演主要メンバーただ一人(!)の歌姫としても存在感を発揮。
リストとシューマンの音楽対決を自らの夜会で演出。持病の発作で倒れたシューマンの代わりに演奏するクララへの人々の心ない噂話に怒ったヨハネスが喧嘩沙汰を起こす。その後クララになだめられてワルツを踊るうちに笑顔を取り戻すヨハネス。
その2人をテラスから見下ろしながらのせーこちゃん(純矢)のふくよかな笑みを湛えた台詞「おこりんぼうさんがクララと踊っている・・・」がなんともステキでした。
■ヨアヒムとルイーゼ
宙組新公で唯一愛りく(愛月ひかると蒼羽りく)の牙城を崩した、若手での3番手格にいる、あっきーこと澄輝さやとくん。「クラシコ・イタリア―ノ」新人公演での好演以来注目しているのですが、多分本人のバランス感覚の良い人柄が反映されるのか新聞記者役が続いていて・・・^^;
ちょっと物事を俯瞰で観る客観的な知性が持ち味、ということなのでしょうか?
今回の天才ヴァイオリニスト ヨアヒムも、酒場でブラームスの窮地を救い、シューマンとリストに紹介。最後はルイーゼとともに遺品整理をする・・・と、どこまでも控え目に、でも大事なポイントでサポートしている役どころ。
ルイーゼに惹かれながらも自由を愛するが故にプロポーズはしない、音楽界の新旧2大潮流どちらにも与しない・・と中立を保つ自由人。そこをブラームスに突かれると「だからこそ誰に本当の才能があるかわかるんだ!」と。
そのルイーゼはれーれ(すみれ乃麗)が。クララの才能と比較して自らの限界を感じる音楽愛好家の令嬢。ヨハネスに惹かれるが、クララしか見えていない彼をあきらめ 親の勧める縁談を受け入れる。
自分のことでいっぱいいっぱいになっているときにヨハネスの心がクララに向いていることをシューマンに告げてしまうキーパーソン。
ピアノでしか会話しないぶっきらぼうなヨハネスと、コミュニケーションを取るために隣に座って弾くのがシューマンの「クライスレリア―ナ」で、その演奏を「気が散っていることはわかる・・・Aの音を落としているしミスタッチが多い」と指摘されてしまうのもツボ
可憐な少女役がいつまでもハマる個性は貴重。珍しく遺品整理の場面で老女役に挑戦。花組の桜一花さんポジで長く活躍してもらえると良いなと思います。
■凛きらの「ベートーヴェン?」
役名が「ベートーヴェン?」なのです。
音楽室の肖像画のままのシルバーのライオンヘアで登場。
当時、交響曲で音楽の可能性を全て提示しつくして世を去った楽聖ベートーヴェンは、後に続く音楽家の心に乗り越えることの出来ない高すぎるハードルとして君臨。
ワーグナーが、最初に作った交響曲がベートーヴェンに酷似していたがために、その後交響曲を作らずオペラに専念したのは有名な話。その中で果敢に交響曲を作曲したブラームスは実は古典派のようでいて偉大なるチャレンジャーだったとも言えるでしょう。そういう意味で、本作品で象徴的なモチーフとして取り上げられているフレーズがブラームスの交響曲第3番第3楽章のものである、というのは感慨深いものがあります。
(わたくし自身はこのフレーズを聴くとセルジュ・ゲ―ンズブ―ルの「バビロン」を思い出してしまうのですが・・^^;)
芝居の雪組出身者らしく、知性的な芝居功者である中堅スターの凛城きら氏が この ブラームスⅡであり楽聖の幻でもある抽象的でやたらと迫力のある役どころでその力量を如何なく発揮。
力強い台詞回しでヨハネスを動かし、唐突に出てきてその場を席捲する存在感は素晴らしいものがありました。
■繊細な天才、青年ブラームス
そしてようやく(笑)主役語り・・・なのですが。
まず、このヘアスタイル(画像よりくしゃっとして柔らかそうで数倍ステキでした)がよくお似合い。
長い手足にクラシカルなスーツスタイルも良くお似合い。
ぶっきらぼうで、でも音楽への情熱と才能が周囲を動かして、子供に優しい青年の姿がご本人の持つ若々しい清潔感にピッタリで、次期TOPへの王手をかける大切な時期の主演作品としてよい出会いだったのではないかと
唯一つ、これは、御本人のせい、というよりは、音楽のせいかと思うのですが・・・。
物語の中で使われる演奏シーンやBGMとしてのクラシック音楽が素晴らしいので、(また選曲も良く、本当にハマっていました)、主人公の独白として作曲された新曲でひとりで歌い上げる場面、ちょっと休憩タイムにしてしまいました(←なんてこと!
)
いつもはワクワクなショータイムもテンション上がらず・・・。
ということは逆に、作品世界の世界観を壊さない、統一感のあるお芝居&ショーだったということかと思います^^
お芝居中も思ったのですが、娘役さんの抽象的な群舞のドレスがステキ。アシンメトリーなショルダーラインで裾幅をたっぷりととったドレープの裾から弧を描いて手もとに来る、オ―クル・ベージュやシルバーグレーのロングドレスでギリシャ神話の女神のよう。まさに芸術の女神たち、ミューズの饗宴・・・という風に見えて美しかった。
ステキと言えばクララとヨハネスのフィナーレでのデュエットダンス、決して触れあうことのない2人が、でも信頼しあって心を寄りそわせていることがわかる振付で、とても良かったと思います
タカラヅカ作品のファンの方には、独特のエンターテイメントとしての濃い味付けがないのが物足りなく感じられるようで、それもまた理解できますが、作品としてはテーマもしっかりとしていて、1人1人の登場人物が良く描かれ、しかも配役もピッタリ!という非常に良く出来た佳作でした。
DVDが発売されたら繰り返し観て、あの深い台詞を一つ一つ、また味わいたいものです。