ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

法政大学発ベンチャー企業のDMP代表取締役の山本達夫さんの話の続きです

2013年07月23日 | 汗をかく実務者
 監査法人などが主催したセミナー「産学連携ベンチャーサミット」を拝聴した話のまだ続きです。

 メーン講演者の一人だった法政大学発ベンチャー企業のデジタルメディアプロフェッショナル(DMP、東京都中野区)の代表取締役・COE(最高経営責任者)の山本達夫さんの話の続きです。



 ディジタルメディアプロフェッショナルは、2002年7月に法政大学教授の池戸恒雄さんが、自分の研究成果であるグラフィックス(画像処理)技術の特許や半導体回路、ソフトウエアなどの知的財産(IP)を基に創業したベンチャー企業です。

 グラフィックス技術は当時のパソコンなどの画面の表示技術として重要なものでした。例えば、パソコンで3次元画像を表示したり、映画のようなCG(コンピューターグラフィックス)を表示するなどの画像技術が求められていました。その典型が、CAD(コンピューターによる設計支援)やゲームなどの用途です。

 さらに、次第に増え始めたゲーム機器や携帯電話機の表示画像としても重要な役目を果たすに違いないと考えて創業されました。ゲーム機では、リアルな画像品質や動きが求められ始めていました。このグラフィックス技術は結果的にスマートフォンなどのインターラクティブな画面表示で必須の要素技術になります。

 2000年当時は、パソコンとゲーム機を併せて約2億台の市場でしたが、「2015年には全体で23億台の巨大市場に成長する見通しだ」と、山本さんは説明します。この内訳は、約半分がスマートフォン・ゲーム機です。パソコンとタブレット型携帯機器は合計して20%程度で、広義のパソコン製品数は横ばいです。

 2004年3月に代表取締役社長に就任した山本さんは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金2.6億円を獲得してグラフィックス系LSIを試作し、基盤技術を確保します。そして、この優れたグラフィックス技術を持つLSIの技術をさまざまな企業に売り込みに行きます。すると、訪問した各社の担当者は「採用実績の無いグラフィックス系LSIは採用できない」と答えます。最新のグラフィックス技術を持つLSIは世の中に出ようとしている段階で、採用実績があるはずがないのですが、各社は“初物”の採用リスクをとりたくないと、実績重視の態度を示します。

 さまざまな業種に売り込みに行った結果、パチンコ業界の担当者だけは「他社が採用していないならば、採用する」と答えます。パチンコの装置の表示に、液晶画面が採用され、パソコンのゲーム機のようなリアルな表現が求められ始めていました。2008年に、パチンコ機にやっとグラフィックス系LSIが採用され、採用実績ができます。山本さんは「2006年以降はパチンコ機向けなどのアミューズメント分野に研究開発リソースを集中する」との事業戦略を打ち出した成果が、2008年に出ます。

 さらに、2010年6月には任天堂が携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」にディジタルメディアプロフェッショナルのグラフィックス系LSIを採用したことを発表します。グラフィックス系LSIが巨大な市場を獲得したことを意味します。

 山本さんは、ゲーム機などにグラフィックス系LSIが採用されるためには、消費電力が極端に小さいことが必要条件になると読み、ライバル社の製品に対して、50~100倍も低消費電力を実現しました。これが、現在のスマートフォンなどの採用される必要条件を満たすことになったようです。

 さらに、山本さんはグラフィックス系LSIという“ハード”を売る事業を進めるには、半導体生産ラインなどの事業投資額が巨額になるため、そのIP(電子回路図とソフトウエア)という“ソフト”をライセンスする事業モデルに切り替えました。これが、ユーザーとなるゲーム機やスマートフォン、デジタルカメラを生産するユーザー企業に受け入れられ、ビジネスモデルが成立します。

 この知的財産のIPライセンスを売るというビジネスモデルを確立した点が、山本さんの経営手腕の高さを物語ります。ユーザーが何を求めているかを分析し、それに答える“もの”=IP(知的財産)を販売したからです。

 山本さんによると、こうしたビジネスモデルを確立できた背景には、優れた能力を持つ若手人材を海外から採用し、「高度な専門知識を持つ“精鋭頭脳集団”を研究開発・事業化の人材として確保できたこと」と説明します。