新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

佐々木麟太郎君がアメリカの大学に留学を決意した

2023-10-12 08:18:06 | コラム
佐々木君の心得違いでなければ良いが:

花巻東高校の佐々木麟太郎君は在学中に140本ものホームランを記録したそうだが、NPBには行かずにアメリカの大学留学を決意したと報じられた。この事について、昨日の毎月定例となっている某大学のST教授との懇談会でも取り上げた。教授と一致した見解は「彼は何を目指してアメリカの大学に進学しようとしたのか。その点が明確ではないと失敗に終わる危険性があるのでは、またそこ何らかの心得違いがなければ良いが」だった。

即ち、アメリカの大学に何を目指して留学するかという問題である。教授はある有名な州立大学でフェローとして研鑽を積んでこられた実績があるので「アメリカの大学とは」を十二分に認識しておられるから言われるのだ。問題は彼がその目的を「何かを専攻する為なのか」、「(高次元の)野球を学びたいのか」、「異文化を学びたいのか」を鮮明にしておくべきだろうという事。

アメリカにも体育会推薦のような形はあるようだ。中には全て一般受験での入学しか認めていない大学もある。だが、運動部員にとって大学生であれば当たり前の事で「授業はならず出る事」、「単位は間違いなく取得する事」は必須として求められるし、「成績が悪くなればレギュラーメンバーから外されるのが普通である」と聞いている。

その上に、今や我が国でもかなり広く知られるようになって「我が国とは学習の方式が違う」という、言わば難関もある。その一例が「来週までに非常に分厚い本を読んで概要を纏めるか、感想文にして提出する」と言うような膨大な時間と労力を必要とする宿題が毎週のように与えられる」がある。

しかも、アメリカの方式は教えられた事だけを勉強していれば事足りるのではなく、自分で積極的に研究課題を見出して学習の範囲を自力で広げていく事も求められているのだ。これらの点が我が国の方式との大いなる相違点であり、これに慣れるのは容易ではないのだ。

また、知る限りでは運動部の練習方式もかなり違っている。部員たちはトレーニングのコーチからそれぞれがどのようにして身体能力を高めるかを指導されるのだが、その方法はメニューにして示されるだけであり、各自がそれに従って自分でトレーニングを積んで体幹を鍛え身体能力を高めてから、全体練習に参加するようになっているのだ。コーチは部員から求められない限り細かい指導はしないのだ。

因みに、即戦力としてアメリカの大手メーカーに採用された私は、与えられた業務を遂行するに当たって、上司はもとより誰からも「この課題はこのように進めよ」とか「君のその方式は我が社の理念とは異なるから改正せよ」といったような指導は一切された事がなかった。全て個人の主体性に委ねられている国なのだ。

回顧すれば、この世界に入った当初は「自分が上司から与えられた課題に向かって間違いなく進んでいるのか、自分のやり方が適切なのか」等々は、結果が見えてくるまでは非常に不安だった。

このような方式は、アメリカのフットボールの強豪校であるオクラホマ州立大学に留学して、言うなれば「アメリカ式、科学的コーチ学」を習得してきた元日本大学フェニックスの監督だった橋詰功氏が、フェニックスにその方式を導入して、3年目に甲子園ボウル出場を果たすまでに成長させた実績が、その効率の高さを示していると思う。

教授と一致して点はここなのだ。要するに「個人の主体性を重んじるアメリカの練習方式は、指導者が教えるだけではなく、各自が主体性を持ってティーム全体の中に入っていけるように自分でトレーニングを積んでおく事が求められているのだ。であるから、全体練習などは非常に短時間でアッサリと終わってしまうようになっている」のである。

こういう方式の中に監督やコーチたちが言わば手取り足取り指導していく我が国の運動部で育った者が入って行ってついていくのは容易ではない事は、想像に難くない。佐々木麟太郎君はそういう世界だと承知した上で、勉強も怠ってはならない事に対する準備も整えておく必要があるのだ。「そういう世界だと承知の上で入っていくのなら良いが」なのだ。

ここまでで一切英語の事には触れてこなかった。一言で片付ければ「わが国の学校教育の英語で育った者が、アメリカ人たちの中に入って充分に意思を疎通させる事は容易ではない。授業では言わばnative speakerたちの為に教授たちが講義をされるのだから、それを理解し、リポートを提出し、試験を受ける難しさは想像できると思う。それについていけるようになる為には、事前に現地での何ヶ月かあるいは年単位の英語の勉強が必要かも知れないのだ。

教授とも語り合った事は「野球の能力と実力を高めたいのであれば、大学ではなく最初からMLBの下部組織辺りから入っていく方が適切ではないか」だったし、私は錦織圭が育ったIMGアカデミーに入学する方が早道ではないかと考えている。何れにせよ、アメリカの大学事情と野球界の裏表に精通された方の意見を訊くか、助言を貰ってあるかも知れないが、難関に挑戦する意気込みは壮との評価はしたい。