新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

4月6日 その2 また新型コロナウイルスの話題から離れて

2020-04-06 14:55:06 | コラム
アメリカにおける「格差」の一面を考えて見た:

何分にも今日の状況では、不愉快な話題が多過ぎる嫌いがある。特に何処の何方のアホな発案か知らないが「自己申告による一世帯30万円給付案」などは、東国原英夫の言を借りるまでもなく「天下の愚策」だと腐すだけで気分が滅入るのだ。そこで方向を変えて、畏メル友のRSが触れておられた「格差」について、その本家本元であるアメリカの大手企業に22年半も過ごした経験を源にして振り返ってみよう。この話題の方が新型コロナウイルスによる感染の東京都内の急激な拡大よりは、幾らかましだと思うが如何か

RS氏は「 格差の少ない日本人が外国人でも同じであると考えてしまうこと自体が間違いなのです。 」と指摘しておられたが、将にその通りだと思うのだ。

私はその「格差」の代表的な国であるアメリカという国の会社で、22年有余も過ごして来た。2社目だったW社では本社までインタビューに出掛けて採用と決まった後でマネージャーに指示されて、自分で人事部(と言っても我が国のそれとは全く異なる採用等の記録を取っているだけの部署)に行って「採用されました」と報告した。すると、担当者が告げたことは「君の身分(“rank”)は我が社にいる限りずっと変わらず昇進燃せず、東京駐在マネージャーの地位に止まるが、それで良いのか」だった。それは承知で受けた面接だったので覚悟を決めて「異議無し」と答えて正式に採用が記録された。

率直に振り返ってに言えば「外国人で4年制の大学出身者(MBAでもない者という意味だと後で分かったが)が、仮令本社採用ででも入社すれば、こういう扱いになる」という意味なのだ。換言すれば、我が国のように成績や勤続年数によって身分(役職に就くとか管理職になれるという意味)が上昇することはない世界なのだ。更に別な言い方をすれば「私を採用した事業本部長は人事権を含む全ての権限を掌握していて、その配下にいる部員の身分は全て横一線で、入社年次や成績や給与の多寡による偉さ(地位)に差はない」と言えば良いか。

事はこれだけには止まらず、会社内での身分の差などは凄いものだ。内勤で事務を担当している者たちは先ず永久に身分(“rank)が上がらないのだし、昇給も減給も“job description”に従っての事業本部長との年に1度の面談によって決まる。しかも、事務職者は順当な学歴のコースを経て突如着任するMBAか有名私立大学から来た若造に 顎で使われ、尚且ついつ何時「貴方の仕事は今日で終わる。この紙を持って経理で本日までの給与の小切手を貰って帰宅せよ」となるかという「板子一枚下は地獄」のような勤めをしているのだ。私は現実に、ある日突然解雇された者たちを何人も見ていた。

そこで「ある日突然」の事例を挙げておこう。以前に振り返ったこともあったが、本部に親しくしていた管理部門の仕事をしていた州立大学のMBAの若手の切れ者がいた。彼は副社長兼本部長の直轄の部員(“direct report”と言われる、実力を認められている証拠)だった。だが、ある日突然に彼と副社長との間にスタンフォード大学のMBAが入社して、彼は“direct report”の地位を剥奪されてしまった。しかも新任のMBAは彼と学校年齢は同じだった。

彼は怒り狂ったのだった。「俺は親が無能で金がなかったので学費が安い州立大学にしか行けなかった。だが、新任の彼奴は家が裕福だからあの程度の頭でもスタンフォード大学の大学院まで行けた。頭だっ何で俺の方が良いのだ。その俺が何であんな奴の部下にならねばならないのか」と言って。これに似たようなことが随所で起きているのがアメリカのビジネスの世界なのでだ。彼は、その後に別段副社長に逆らった訳ではないが、ある時に副社長に命令された緊急の課題を後回しにしたことで、“You are fired.”になって去って行ったのだった。

念の為に確認しておけば「多くの場合に事業本部長に任じられ、更に40歳前に副社長に昇進していくような連中は、ほぼ間違いなくIvy Leagueか西海岸ではスタンフォード大学等の大学院等でMBAかPh.D.を獲得した若手が順調にスピードトラックと言われている出世街道を歩んでくるものなのだ。そういう私立大学の学費はつい2~3年前までは授業料等を合算して年間5~6百万円と言われていたが、今やIvy League校の中には700万円という大学まであるという。こういう状況を矢張り「格差」と言うか「格差」を生む原因だと思うが、如何か。

私はある機会を捉えて、事務職で副社長よりも勤続年数が長く実務に精通している高齢者に「あんな10歳以上も若い者にこき使われて満足しているのか」と尋ねたことがあった。彼はサラッと「気にしていない。俺はこの程度の仕事と年俸に相応しい能力だから。彼奴は出世欲があって成りたくて、好き好んであの激職を選んだのだ。その為に彼は朝は早くから出勤し夜も深夜まで帰れないし、年中海外をも飛び回っていないことには、あの地位も年収も確保できない。俺は一寸くらい年俸が増えて朝の7時にも出勤せねばならないような生活は望んでいない」と答えてくれた。これも格差社会というのだろうが、これがアメリカの会社の実態の一場面だ。

私はこういう話に持って行けた程、彼等の中に溶け込んで彼らの一員として22年半も勤続できたいたことを誇りに思っている訳ではない。生活の手段としてあの職業を選んだ以上、何としてもあの環境に慣れ親しみ順応していく道を選んだだけだ。その結果として、普通の日本の方々が外から見ておられたアメリカの会社とは全く異なる世界を経験できたのは幸せだったと思うようにしている。その経験から「格差」の実態を語ったことを評価して頂ければ有り難いと思っている。。



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