ついつい「コインの裏側」を見てしまう悪い癖:
岸田総理が懸命に推進された「物価上昇を上回る賃上げ」が軌道に乗りつつあるのは、何はさておき慶賀すべきことだろう。大きなホワイトボード一面に「満額」の二文字が並んでいるのは結構なことだと思う。「そのまま、そのまま」という所だ。
残された課題は「この賃上げが我が国には経産省の工業統計が示す421万もある会社の87%を占めている小規模な企業に、何処までこの賃上げの流れが行き渡っていくかであろう。当方が見た限りの22年の経産省の工業統計資料では、従業員数が10人未満の企業は75%というのもあった。デイヴィッド・アトキンソン氏はこの中小企業を整理統合しないと、我が国の経済は強化できないと言っていた。
私が新卒で入社2~3年頃だったか、直属の上司に「我が国の産業界に見受けられる二重や三重構造を調べて見ろ」と示唆されたことがあった。そこで、直接/間接に取引している印刷業界に当たってみた。そこに発見したのは元請けである大手印刷を支えていたのが、都内の方々で見かける家内工業的な「中小の小」の部類に入る印刷業者乃至は協力工場の存在だった。
彼等小規模印刷業者が大手の大規模な設備では経済的ではない小口の注文や、技術的に難しい作業を中小ならではの熟練した技で消化しているという実態があった。敢えて付記しておくと「企業側が大量だと思って発注しても、受注する方では間尺に合わないことが多々ある」ということ。この受注ロットの問題は段ボール業界にも紙器業界においても同様に存在し、下請け/協力工場への依存は避けられないのが現実だった。即ち、多重構造だった。
何も、印刷・段ボール箱・一般紙器の業界だけの現象ではないと思うが、元請けである大手企業間での競争は激しいので、下請けや協力工場の犠牲の上に成り立っていた実態がある。多額の投資を伴う技術革新も必要だ。世界を見渡せば、常に斬新どころではない新製品が市場に現れて、大袈裟に言えば3日も経てばその新製品を古物化させてしまう新製品が出てくる時代だ。AIで驚いているとチャットGPTが出てきたではないか。
この度日産自動車・内田社長が陳謝した下請けに30億円負担を強いていた件にも、彼等の犠牲の上に立った新製品を世に送り込んできた大手企業の在り方を示しているのではないか。私には上記の二重/三重構造を調べた経験があったので、流通業界から製造業界に転じて結果で見えてきたこともあった。
それは「何時の日か、我が国の下請け乃至は協力工場がその製品の提供/販売価格にあらゆる原料価格の上昇分を転嫁し、従業員を満足させられるような賃上げが可能になる販売価格にした場合に、元請け乃至は親会社が需要家や最終消費者向け価格に転嫁する用意があるのだろうか。非常に難しいだろうし、現実的ではないかも知れない。ではあっても、もし、新価格を受け入れれば、我が国の産業界の存続の危機になるのでは」ということ。
私は「現実的には、このような理想的な状態にはほど遠い所に長く止まっているので、景気が一向に回復してこない大きな一因になっている」と受け止めている。ではあっても、今年の春闘というのか何か知らないが、賃金上昇の波が仮令中小企業に及ばすとも、可処分所得が増えて大手の社員とその家族が消費すれば、内需は復調の方向に進むかもしれない。「コインの裏側」は75%の小規模企業が何時になれば十分な賃上げに踏み切れるかであろう。
その時期にあって、何時までも政倫審に執着していて良いのかであるし、解散風などを言っている場合でもないように思えるし、多様性の追求でもないような気がしてならない。岸田総理の眼力が一刻も早く「コインの裏側」にも及んで、下請け乃至は協力工場中小企業が栄えて欲しいものだ。
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