杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

私的地産地消ツアー

2008-12-11 11:32:56 | 農業

 引き続き、県商工連フルーツゼリー事業のお菓子屋さんめぐりです。

 9日は牧之原市の扇子家さんの後、袋井市の『どんどこあさば』を訪ねました。厨房チーフ戸塚都さんが、袋井産マスクメロンを使ったゼリーを開発したのです。

 

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 マスクメロンのゼリーって、すごーく難しいんですね。過去ブログでも書いたとおり、生で食べておいしいフルーツに、熱を加え、固めて、生の時とおんなじ香りや味をキープしようと思っても無理。熱を加えた瞬間、香味はどんどん変わってしまう。…仕方ありません。

 

 「地元の感覚だと、生食以上においしい食べ方はないというのが常識で、メロンに手を加えるという発想がないんですよ」と戸塚さん。

Imgp0189  旧浅羽町でご近所に愛された仕出しスーパー「戸塚屋」を切り盛りし、ショッピングセンター・パディの開店時にお惣菜のテナントショップとしてリニューアルし、町の有志と手造り豆腐工房を立ち上げ、やがて、農産物直売所と農家風健康バイキングレストランを併設した『どんどこあさば』へと発展。一貫して“地のものを新鮮な状態で味わっていただく”ことをモットーにしていただけに、メロンゼリーの企画が持ち上がったときは、正直、不安もあったそうです。

 

 というのも、既存のメロンゼリーは、香料や着色剤を加え、なんとか“らしさ”を再現したものが多いのです。でも、どんどこあさばが作るものは、それではいけない、というジレンマがある。メロン産地の誇りにかけて、最初から添加物に頼るものなんか作れないという思いがあって当然で、またそこが、戸塚さんの、菓子専門職人の感覚とは少し違う、“らしさ”かもしれません。

 今回の企画の5種類のフルーツゼリーの中では、メロンゼリーが試作にもっとも時間がかかりました。。戸塚さんは、生メロンの良さを最大限に生かしつつ、ゼリー菓子として恥ずかしくないものを作ろうと、専門家のアドバイスを柔軟に取り入れ、委員会メンバーが太鼓判を押す味に到達しました。「今回の挑戦で会得できたノウハウをお店で生かし、店頭では、これぞ生メロンゼリーといえる自信作を出していきたいですね」と実直に語ります。

 

 

Imgp0212  昨日(10日)は、伊豆市月ヶ瀬(旧天城湯ヶ島町)の『小戸橋製菓』を訪問しました。

 中伊豆の代表銘菓「猪最中」でおなじみ、創業96年の老舗です。3代目内田明さんは、東京で和洋菓子の修業を積み、三島の菓子店に勤めていた頃は、夜はバーテンのアルバイトを掛けもちして、接客のノウハウを身に着けた人。今は月ヶ瀬本店のほか、函南、大仁、裾野に直売店を構え、洋風感覚を生かしたバター風味の「バタどら」、チーズ味のスポンジケーキ「うりんぼう」など、猪最中に次ぐヒット商品を生み出しています。

 

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 内田さんが今回挑戦したのは、地元月ヶ瀬特産の梅を使ったゼリー。伊豆月ヶ瀬梅組合が企画開発した無添加「梅シロップ」を使い、梅肉を散らしたもので、委員会の試作では、1回目から「完璧な味」「すぐにでも売れる」とお墨付きを得ています。

Imgp0206  私は、昔からこの「梅シロップ」が好きで、もちろん月ヶ瀬組合に取材に行ったこともあるし、伊豆へ来るたびに必ず買って帰って、お風呂上りにとオンザロックで飲んだり、ヨーグルトやところてんのトッピングソースに使っています。昨日もしっかりゲット。

 

  どんどこあさばでは、やはり過去に取材した、袋井市の地鶏農家鈴木民子さんの「手作りクッキー」、JA遠州中央浅羽支店オリジナル・静岡県産小麦100%の「玄米入りあっちゃんラーメン」、掛川市旧大須賀町の栄醤油の「たまごかけ飯用栄醤油」を購入しました。車の後部座席は、取材だか買い物ツアーだかわからない状態です(苦笑)。

 

 鈴木さんのクッキーは、生みたて鶏卵を、その場でクッキーに焼いています。卵とバターと小麦粉だけのシンプルなクッキーですが、自分にもし子どImgp0195もがいたら、初めて食べさせるおやつにしたいと恋願うような味…といえばいいかな。子どもの味覚形成にお手本となるような、実に素朴で手作り感あふれる味です。

 実際、鈴木さんにクッキーの焼き方や卵焼きの作り方を教えてもらい、家でも実践したんですが、鈴木さんの卵じゃなきゃ駄目だなぁと実感したものです。

 

 今回の行脚で出会った菓子職人すべてが、「素材選びがすべて」と口にしていましたが、鈴木さんのクッキーを久しぶりに味わって、その言葉の重みを改めて感じました。

 

 それにしても、昔は、各町に行かないとその存在に気付かず、もちろん買うこともできなかった味が、こうして一ヶ所で買えるようになったなんて、いい時代になりました。

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 ただ、気軽に買えない、わざわざその地域まで行かないと買えない、その面倒くささが、作り手の本当のこだわりを守っている部分もあるでしょう。

 

 

 

 メロンゼリーを例にとれば、本当のマスクメロンの美味しさをゼリーで味わうには、添加物を一切使わない生メロン100%で作って、すぐに食べるしかない。つまり、消費者は、どんどこあさばまで行かなければ食べられないけど、おそらく、世の中に、こんな美味しいフルーツゼリーがあったのか!と感動できることは間違いなし。

 

 かといって、流通にのせるため香味に多少の調整を加えたとしても、一般に出回るクリアすぎる色と香料プンプンのゼリーとはあきらかに違います。メロン産地発の手作りゼリーとして最大限にこだわった戸塚さんの努力を、理解できる消費者でありたいと思います。100%無添加生にこだわるなら、産地に出向くのが当然、と言えるような消費者で。

 

 各作り手がフルーツ産地の誇りをかけて創り上げたフルーツゼリー。初お披露目は2月初旬、東京で開催のギフトショーの予定です。その後、県内でも試食お披露目の場が設けられると思いますので、楽しみにお待ちください!