杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

新酒初搾り第1便の出発

2008-12-19 09:53:37 | 吟醸王国しずおか

 16日のSBS学苑イーラde沼津校の日本酒講座で試飲した4銘柄(磯自慢、英君、初亀、喜久醉)のうち、今年の新酒が3銘柄。喜久醉だけが間に合いませんでした。

Dsc_0030  その喜久醉・青島酒造のしぼりたて普通酒無ろ過生原酒が、本日19日発売。私とカメラマンの成岡正之さんは、ゆうべ18日、あわただしく出荷作業を行う様子を撮影しました。

 

 青島さんクラスの規模の蔵では、通常、米が収穫されたあとの11月中旬から翌3月中旬ぐらいまでが酒造期で、約5ヶ月間で1年分の酒を仕込むわけです。出荷は、基本的に取引先から注文があるたびに行います。このところの喜久醉人気で、品薄アイテムが続出するようになり、酒造期が少しずつ早まっているようですが、基本的には1年分の酒を瓶詰め貯蔵し、低温管理します。

 

Dsc_0020  ところが、唯一、この初搾りだけは、“初もの・生もの”だけに、造って搾って瓶詰めして、一気に出荷します。この間も、通常どおり仕込み作業があるわけで、注文ファックスが次から次に入ってくる中で、仕込み・瓶詰・ラベル貼り・梱包作業に追われます。杜氏の青島孝さん以下蔵人たちも、仕込みの合間を縫って出荷作業を手伝います。

 こんなときに、面倒な撮影を無理強いして申し訳ないと思いつつ、新しい酒造年度の最初の新酒の出荷第一便はどうしても撮りたいという私の希望を、快く受け入れてくれました。

 

Dsc_0004  「初搾りの発売日のお知らせを昨日お出ししたばかりなので、たぶん初日はそんな量は出ないと思います。出荷準備もすぐに終わると思うので、いつも17時ごろ来る配送トラックには、ちょっと早めに、16時ぐらいに来てもらうつもり」と聞いていたので、余裕を見て15時に訪ねたところ、社長夫人の青島久子さんと、農閑期は青島酒造で働く「松下米」の松下明弘さんほか作業スタッフが、必死の形相でラベル貼りをしています。

 

 「想定外の注文量で、準備が間に合わず、トラックには結局いつもどおり17時過ぎに来てもらうことになった」とのこと。トラックが来るまで待ちますか?と聞かれ、いやいや、それなら、せっかくだから、みなさんが必死にラベル貼りしているところも撮らせてくれ、とカメラを回し始めました。積み荷ができた先からトラックに詰め込むピストン作業になり、トラックは結局17時と17時30分の2回に分けて運ぶことになりました。

 

Dsc_0013  久子さんと松下さんが、向かい合って、1本1本ラベルラベル貼り。「瓶と自分の体をまっすぐに合わせないときれいに貼れないのよ」という久子さんは、青島家に嫁いで以来、続けている作業だけに、手元も正確で、ホント、年季が入っています。松下さんも、冬期に青島酒造で働くようになって13年目。今では瓶詰や出荷など大事な最終工程で、なくてはならないスタッフになっているようです。

 

 私が、「この時期、こんなに忙しくて猫の手も借りたいという会社があるのに、派遣社員が解雇されて住む家まで追い出されるところもあるんだよねぇ」とつぶやくと、「派遣という働き方を選んだ人は、どんなにきつくても、ひとつの仕事を一から覚えてとことん究めるという生き方を選択しなかったんだろう?仕方ないんじゃないか?」と松下さん。職業観は人それぞれですが、彼ならそう言いたくなるのも無理ないかも…。

Dsc_0007_2   酒米の生産者の中でも、彼のように冬場、実際に酒造りの現場に入って、どんな下働きでも率先して汗を流し、自分の米がどんな酒になるのか、きちんと見極めようという人はほとんどいません。それだけ、自分の仕事に誇りと責任を持っているのです。

 

 

 松下さんにカメラを向ける成岡さんのそばには、新人アシスタントがついて、カメラ操作を凝視していました。成岡さんはアシスタントの鈴木くんに、あれこれ撮り方を指南しています。

 

Dsc_0018  聞けば、2人とも早朝3時からロケだったとか。眠気が襲うこの時間、暖房どころか扇風機が回っている寒い倉庫の中で、被写体に気を遣いながらの撮影は、正直、しんどかったと思いますが、「映像の仕事を志す若者に夢を持たせたい」という思いでこの作品に取り組んでいる成岡さんの、職人の親方さんらしい顔が垣間見れたような感じ。

 

 私はちょっと離れた場所から、一眼レフで撮影風景を撮り続けました。見た目は何の変哲もない、倉庫の中の地味~な出荷作業ですが、ひとつの仕事に誇りを持ち、緊張感を持って働く人々がひとつのフレームにおさまっている光景は、限りなく清々しかった。

 

 「吟醸王国しずおか」も、2造り目の撮影が始まっています。今期は職人たちのどんな表情に出遭えるのか、ホントにワクワクさせられる初搾り一番便出荷でした。