25日は県広報誌MYしずおかの知事対談取材。ホテルセンチュリー静岡で、石川知事、㈱木村鋳造所の木村博彦社長、協立電機㈱の西雅寛社長、國本工業㈱の國本幸孝社長が、不況の中でのモノづくりの未来について、興味深いお話をしました。経済音痴の私にも楽しめて、1万字近い原稿も数時間で書き上げることができ、こうしてブログで振り返る余裕も持てました。
ホントはすぐにでも全文を紹介したいところですが、未発表の原稿を先方の許可なく勝手にアップするわけにはいかないので、発言者名は伏せ、印象に残ったコメントを私流にアレンジして紹介しますね。
まず、今、マスコミがさかんに取り上げる派遣切りの問題。年末のこの時期、住まいも追われて気の毒な人にマスコミが同情的になり、それを受けて自治体もさまざまな支援策を取っています。
でも、この時期、派遣切りに遭った人だけ優遇するというのはどうなんでしょう? 社長さんたち曰く、派遣労働者の中には、一流大学出で、いい職場を探そうと、あえて派遣という形態を選んだ人もいて、派遣先企業を“一時利用”している。中小零細企業では、こういう景気の中で、残業規制の厳しい正社員を何人も抱えることは不可能で、第一、正社員を雇いたくても来てくれない。足りない部分はどうしたって一時的に派遣を使わざるをえないのです。
派遣というシステムが崩壊したら、日本の中小企業は成り立たなくなる。そういう実情をスルーして、政治家はマスコミ受けするような派遣切り対策を声高に言い、マスコミも派遣切りはけしからんと企業側を責める。もちろん理不尽な扱いを受けた人を救済する対策は必要ですが、どうも今のマスコミ報道は一方的な見方のような気がする…というのが、社長さんたちのホンネのようです。
日本の産業界の大きな課題は、93年から02年までの“失われた10年”の後、03年以降の回復で、“考える”ことを鈍化させてしまったということです。
モノづくりの技術は、20世紀初頭の未熟な時代に誰もが必死にもがき、20世紀前半でベーシックなものをほぼ創り上げた。後は生産性を上げれば豊かになるとわかって、途中から“考えなくなってしまった”んですね。
量的拡大を良しとする社会は国境をなくし、グローバリゼーションの波を引き起こし、激しい競争を生み出し、日本は“失われた10年”に陥った。そのとき、技術者はリストラの嵐に見舞われた。
今、従来の取引先からの受注が減ってしまったとしたら、スペックが異なる客でも、とにかく新規に開拓するしかありません。しかしこれはとても大変なことで、新しいお客さん個々にきめ細かく対応し、他社との差別化を図るには、高い技術と対応能力がどうしたって必要になる。これが、“考える”能力を鍛えるという。
モノづくりというのは、技術者を育て、開発し、生産し、管理し、売っていく面倒な作業です。人材教育にまで手をかけようとすると必然的に重くなる。今のような情報化社会でスピード感が求められる中、身軽になれないというのは苦しいのですが、モノづくりにはそういった堅実さが求められます。
21世紀は、成長の限界を意識せざるを得ない時代です。経済のパイに枠があるとしたら、差別化するしか生き残れません。差別化するには、技術力を担う技術者がリバイバルするしかない。スペックの異なるさまざまな企業と取引すると、必然的に技術者と技術管理者が求められます。技術者を大切にする時代に、確実にリバイバルすると、社長さんたちは言います。
これは、私自身、酒造業の現場を通して実感していることですが、手作業のものは、量産できないので、生産管理が難しい。そこで、タイムカードを1分単位でチェックしてみたら、どこに無駄があるかが分かり、個人の能力にどうしたって差があるということに突き当たった。ベテランや名人と言われる職人ならまだしも、並の人間を、じゃあ、どうやって伸ばすか。
ある会社では、作業ごとに標準時間を設定し、時間オーバーしたら再教育するようにした。自己流でやっている人には、合理的手法として評価されているやり方を試してもらった。しかも個人別のスキル度を、すべて貼り出した。「そんなことをして、社員のモチベーションが下がらないか」と周囲から心配されたが、なにも賃金評価のためではなく、チームプレーを円滑にするための取組みであり、彼のスキル度がどれくらいか、あらかじめ分かっていれば、前後の工程の人もやりやすくなるだろうし、「次はここまでスキル度を上げてみよう」と努力目標を立てやすくなる。
結果として、その会社では130人がかりでやっていた仕事が60人でこなせるようになったそうです。
日本のモノづくりは、生産技術と同様、生産管理技術にも高いものがあります。金融危機で足腰が弱まった海外企業に比べ、こういった強みを持つ日本企業には必ず復活できる力がある・・・原稿を書きながら、そんな、明るい気持ちになりました。
ちなみに、3人の社長さんたちの紹介をカンタンにしておくと、木村さんは、鋳物という2千年の伝統と3K職種といわれるオールドビジネスの分野で、発泡スチロールで成型するという画期的な手法を取り入れ、この分野の世界的企業に。でも「木村鋳造所」というクラシックな社名は頑固に変えず、工場も海外には一切持たない主義。
西さんはFAやIT技術で製造業の生産管理を飛躍的に向上させた静岡を代表するベンチャーの雄。会社そのものは創業50年経ちますが、古い体質から脱却し、経営革新を次々と実践して見せた人です。
國本さんは自動車やオートバイに使われる金属パイプメーカーで、独自のプレス加工で軽量・低コスト化を実現し、トヨタの目にとまり、部品サプライヤーを通さず、直接取引が始まり、最高級車レクサスLSに搭載されたシンデレラカンパニー。
モノづくりでしっかりとしたポジションを持ち、技術者を大切にする中小企業の社長さんたちの元気さは、景気の悪さなんてカンケイなく、「小さなメーカーにとって今はむしろ、いい人材発掘や投資ができる絶好のチャンス」と意欲満々でした!