杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

記憶に残る忘年会

2008-12-24 11:09:23 | アート・文化

 21日夜の天晴れ門前塾第2回ゼミ&吟醸王国しずおか映像製作委員会忘年会で、地酒のおかげで人生が豊かになった記憶をまた一つ増やしたところで、翌22~23日と京都・奈良へ。このところ、毎年のように年末は、やっぱり日本の記憶の魂みたいな場所で、日本人たる我が身を自覚して一年を終える作業をしています。紅葉シーズンやお正月は人が多くてたまりませんが、この時期は穴場なんですよね。

 

 22日昼は、奈良に嫁いだ高校の同級生&愛娘母子と、祇園おくむらでランチ忘年会。産まれた頃から知っている愛娘(14歳)は、モデルばりの美少女に成長し、しかも小学校からイギリスの全寮制校へ単身留学中。「向こうの学校って、ハリー・ポッターの魔法学校みたいなところ?」とおばさんトーン(苦笑)で訊くと、ホントにあのまんまらしくて、寮の競争意識もすごいらしい! ちなみに、その学校にはハリー・ポッターの代わりにミスター・ビーンがいるそうです(ミスター・ビーンを演じる俳優ローワン・アトキンソンの娘と同級生で、保護者会によく来るそうな)。

 

 イギリス話や故郷静岡の話で盛り上がったところで帰り支度をしていたら、若い料理人が「静岡からお越しですか?僕、沼津出身です」と声をかけてきました。聞けば東京農大出身で、サラリーマンから転身して料理の世界へ飛び込み、京都で修業し、いずれは故郷で独立したいとか。名前を聞くのを忘れてしまいましたが、農大OBなら静岡の蔵元もたくさんいるので、独立の暁にはぜひ静岡の酒を扱ってほしいなぁ!

  

 ちなみに、おくむらの料理はセンスの良いフレンチ懐石で、量もほどよく、白ワインも料理によく合い、疲れた胃や肝臓にはありがたかったです。

 

 

 夜は、奈良町の割烹恵方で、雑誌「あかい奈良」の忘年会。今年は映画づくりに注力したので、あかい奈良の制作に関わることができず、申し訳なかったのですが、なぜか忘年会にはしっかり参加(笑)。

 

Imgp0278  しかも、中央公論社刊『東大寺』や講談社刊『やまとのかたち』『やまとのこころ』で知られる名写真家・井上博道さんのお隣に座らせていただき、師・入江泰吉氏の思い出話や、黒沢映画の解説などを間近にうかがうことができ、大感激!

 また、東映太秦村で数多くの名優のスチールを撮り続けてきた朝倉善彦さんと帰路をご一緒し、「最近は、画になる女優が少なくなった」なんてお話を聞けて、まさに記憶に残る忘年会となりました。

 

 「ヨーロッパの美術館や博物館で撮る石像彫刻と、日本の仏像とは、やっぱり違うし、相手を“仏像”ではなく、“ほとけさん”なんやと思えるときの写真も違う。奈良で生まれ育ったモンとしては、やっぱり“ほとけさん”と話しかけるような撮り方をせんならんし、観た人に“ほとけさんや”と感じてもらわんと」。

 

 井上さんのグラビア写真は、「あかい奈良」の目玉コーナーでもあります。このコーナーをパッと眼にして、一度でファンになり、定期購読者となり、ライターとしてボランティア参加するようになったぐらい。そのご本人と直接お会いでき、杯を交わせただけで、本当に幸せでした。

 

 奈良に嫁いだ同級生の夫(自営業)のもとには、銀行の高額預金者やゴルフ会員向けのセレブ御用達雑誌の取材が相次いで来るそうで、「インタビュアーに有名タレントが来るんだよ、それで掲載費をウン十万も要求される。同業者会の役員をしているから、仕方なく応じると、一度載ったら最後、似たような雑誌や広告メディアから次から次へと取材依頼が来て、断るのがタイヘン」と彼女。

 

 そんな雑誌がある一方で、あかい奈良のように、一流のカメラマンや新聞記者が、無償で記事や写真を提供し、心ある印刷会社がスポンサーなしで発行するような文化情報誌もあります。雑誌の作り方として、どちらに未来があるのか、わかりませんが、少なくともライターや写真家が「自分が関わった」と誇りに出来る雑誌に生き残ってほしいと切に願います。

 

 

 この夜もかなり酒量は進んだのに、翌23日朝、京都のビジネスホテルで目覚めたときは、気分爽快! 午前中は適当に飛び乗ったバスで、大原三千院まで小一時間、のんびり路線バスの旅を楽しみました。

 

 外の気温は3℃。冬の京都らしい底冷えがする中、バスの車窓からは三千院の修行僧が托鉢に歩いている姿が見えました。

 

Imgp0265  藤枝の石彫家・杉村孝さんのわらべ地蔵が、苔に包まれて静かに合掌する庭園・有清園は、人も少なく、往生極楽院の阿弥陀三尊を見上げるうちに、目がしらが熱くなってきました。とくに左右の観世音菩薩、勢至菩薩の慈悲深いお顔には、一年たまった心の垢がぬぐわれる思い…。絵葉書やパンフレットに載っている写真は、井上さんが言われるところの「仏像」ですが、眼の前の菩薩さまは、まさに、「ほとけさん」でした。

 

 

 つかのまの休日は、あっという間に終わり、年末年始、ほとんど休みなくお仕事モードに再突入です。今の時期、仕事があるだけでありがたいと思わないといけませんね。