杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

茶の品評会と酒の鑑評会

2012-05-15 09:37:34 | 地酒

 13日(日)は川根本町おろくぼ地区の茶農家へ茶摘みに取材に行きました。静岡を代表する日本茶インストラクターとして活躍中の土屋裕子さんのご実家・つちや農園で、全国茶品評会へ出品する茶を町民60人余で摘み取る姿をカメラに収めました。

 

 

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 川根本町では、全国へ出品する茶農家が10軒割り当てられていて(・・・茶の世界では、オリンピックみたいに過去の実績によって出品数が地区別に割り当てられるそう)、この10軒は町の顔であり誇りである、という思いで、町産業課が音頭を取り、町民が率先して茶摘みにはせ参じるそうです。出品茶はすべて手摘みなので、とにかく人手が要るんですね。・・・出品茶農家にとってはプレッシャーになるだろうし、選抜10軒だけ優遇するのかと反対意見も出てきそうだけど、こういう応援のしくみ、素晴らしいと思いました。

 

 実際、つちや農園は平成20年と23年に大臣賞を見事受賞。単独農家が数年のうちに複数回大臣賞を獲るというのは、この世界ではとてつもない偉業だそうで、その土屋さんに加え、2位・3位には、川根本町選抜10軒の高田さん・丹野さんが入り、いわば“表彰台独占”に。この町の茶の生産技術が日本随一であることを証明してみせました。

 

 

 

 

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 川根本町(旧中川根&旧本川根)地区は、山間部の斜面を切り開いて茶畑が点在しています。土屋さんの農園は標高600メートルにある、“天空の茶産地”。平地より寒いし、霜の被害も多いし、鹿児島あたりに比べて新茶の時期も遅い。川勝知事は八十八夜新茶をブランド化しようとさかんに呼び掛けていますが、ここは八十八夜(5月1~2日あたり)にギリギリ間に合うといった環境。鹿児島茶が数量で台頭してくると、新茶の時期にはどうしても不利になります。

 

 

 

 

 

 量では難しいのであれば、品質で勝負するしかないし、数値で判断できない“品質”を、誰もがわかるように証明するには品評会で上位入賞するしかない。町としても、他に基幹産業がなく、農産物の中でもお茶しかないということであれば、お茶を集中して支援しやすいだろうし、その中でも出品茶を作る意思と技術のある10軒に特化して支援Dsc00370_2
する・・・。おそろいのTシャツを身にまとい、10軒の出品農家の茶摘みには産業課スタッフ全員ではせ参じ、摘んだ茶は町で手配した保冷車で町農林業センターにある製茶研修工場へ運び、町、県、JA、機械メーカーの技術者が特命チームをつくって朝から深夜までつきっきりで製茶加工するのです。この体制はすごい・・・!と実感しました。

 

 

 

 

 今、酒の世界でも全国新酒鑑評会の審査真っ只中で、まもなく結果が発表されます。今年は全国鑑評会が100回目という節目の年。先月、松崎晴雄さんがしずおか地酒サロンで講演してくださったように(こちらを参照)、世界のアルコール業界の中でも、(人気コンテストではない)極めて専門性の高い技術審査会として100年という歴史を持つのは日本酒だけ。来週、東広島で開かれる一般公開には久しぶりに足を運ぼうと思っていますが、お茶の品評会のしくみと出品者のモチベーションには改めて違いがあるんだなあと実感しました。

 

 

 

 

 酒の世界では、もはや、鑑評会で受賞することが、絶対的な品質証明ではなくなった感があります。こうして今、改めて、茶農家の品評会に対する真摯な取り組みやそれをバックアップする地域の姿を目の当たりにして、20数年前、私が酒の取材を始めた頃の、県内各蔵の出品酒に対する“熱”を思い起こし、ちょっぴりほろ苦い気持ちになりました。

 

 どっちがいい悪いの話ではありません。茶は、静岡では「顔」になる産業であり、上位入賞がいわば義務付けられている。酒という産業が「顔」になっている県では、今でも同じように入賞必須の思いで取り組んでいるのでしょう。

 

 100年目の全国新酒鑑評会、どんな結果になるでしょうか・・・。