杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

名古屋・広島・京都たび(その2)~酒類総研講演会・日本酒の放射能検査

2012-05-29 09:28:18 | 地酒

 5月22日(火)13時から、東広島市民文化センターで、『第48回独立行政法人酒類総合研究所講演会』が開かれました。全国新酒鑑評会に合わせて開かれる講演会、参加するのは3回目ですが、日本酒の製造から販売、酒文化の醸成に至るまで、包括的なプログラムで第一線の研究者が解説してくれる貴重な講演会です。業界向けの内容ですが、酒を伝える活動をしている人間も必聴だと思います。

 

 会場に着いたら入口で松崎晴雄さんに運よくお会いでき、ご一緒させてもらうことに。松崎さんとは講演会終了後、JR西条駅前の居酒屋で広島の地酒を呑みまくり、美味しく有意義な時間をたっぷり過ごさせていただきました!

 

 さて今年の講演会は「酒類における放射性物質の分析」や「清酒醸造におけるセシウムの挙動」など原発事故の影響について科学的な解析をうかがうことができました。素人なりに理解出来た範囲でご報告します。

 

 

 

 

酒類等における放射性物質の分析(酒類総合研究所 品質・安全性研究部門 橋口知一先生のレジメより)

○日本の食品や飲料は海外へ輸出する際、国によって放射性物質の検査証明が必携となっているため、日本酒についても国税局単位で検査を行い、証明書を発行している。静岡県が属する名古屋国税局では、これまで612件を発行した。

 

○検査の方法は、まず国税局においてサーベイメータにより行い、不検出と判定された場合は即証明書OK。サーベイメータで検出困難と出た場合は、放射性物質が出すガンマ線を検出するゲルマニウム半導体検出器によって精密に検査し、その結果をもとに証明書を発行する。

 

○2012年3月30日までに、輸出用分析402点、安全確認調査用分析1773点(うち醸造用水の分析が322点)、受託分析14点を行い、暫定規制値(放射性ヨウ素300ベクレル/kg、放射性セシウム200ベクレル/kg)を超えたものはすべてゼロ。

*4月1日から新しい基準値が設定され、一般食品(酒類を含む)は放射性セシウム100ベクレル/kgに引き下げられた(=厳しくなった)。

 

 

清酒醸造におけるセシウムの挙動(酒類総合研究所醸造技術基盤研究部門 奥田将生先生のレジメより)

 農産物の放射能汚染が懸念される中、日本酒の場合は原料の米の表面を精米したり洗米するので、たとえ付着したとしても減少するから安全、といわれていた。製造過程でどのように変化するのかこれまで解明されていなかったため、研究所が調査分析を行った。調査は、放射性セシウム137と同じ働きをすると考えられる非放射性セシウム133(自然界に存在するもの)の分析によって行った。

 

 

 治験は精米歩合が10%ごとに異なる白米(山田錦・日本晴・五百万石)で3kg三段仕込み・洗米1分・水きり30秒を繰り返し。30分浸漬後1晩水きり。酵母はk-701、仕込み水は水道水。酒母は中温速醸でもろみ日数20日。小型圧搾装置によって上槽。

 

 

○精米歩合70%まで精米すると、セシウム濃度は玄米の20%にまで減少。精米歩合60%~40%の白米でもほとんど変化なし。米の品種にかかわらず同じ。セシウムは玄米のアリューロン層(赤糠)の部分に蓄積されると考えられるため、精米によって大半が除去できると思われる。ちなみにご飯として食べる精米歩合90%白米のセシウム濃度は、玄米の30~50%程度であるため、食べる白米より酒造用原料白米のほうがセシウム濃度は低いことが明らかになった。

 

 

○3種類(山田錦・日本晴・五百万石)の白米による小仕込み実験によると、非放射性セシウム133は精米・洗米によって玄米濃度の20%にまで減少し、その後、搾った酒では玄米濃度の3~5%、酒粕14~17%となった。仕込み水に含まれるセシウムを掛け合わせてトータルで判断すると、玄米・仕込み水→酒に約6%、酒粕に4%移行し、残り90%は精米・洗米・浸漬の段階で除去されることが判明。

 

 

 

○問題となる放射性セシウム137についても同じ働きをすると仮定し、100ベクレル/kgのセシウム137に汚染された玄米を使ったとしても、精米歩合70%で20ベクレル/kgに、それを使用した酒は5ベクレル/kg程度となり、製品にはほとんど残存しないと考えて問題ない。

 

 

 

 

 ちなみに、原料に含まれるセシウムが他の酒類ではどれくらい移行するかといえば、ビールの場合、原料の大麦に35%、ビールになって11%。ワインはぶどうに30~70%でワインになっても同じ、だそうです。

 

 

 

 市場に出荷される製品は問題はないし、子どもが飲むわけではないから、あんまり神経質になる必要はないと思いますが、日本酒が、精米や洗米や浸漬など丁寧な原料処理をしながら醸されてきたことが、こういう形で安全・安心につながっていると思うと、ファンとして嬉しく、心強くなります。

 とくに静岡県の蔵元は、吟醸造りの本質を目指した時点で徹底した洗米を行う、というのが板についています。県の蔵元は、洗米を含めた原料処理の高い技術を大いに誇ってほしいと思いました。(つづく)