杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

名古屋・広島・京都たび(その3)~平成23酒造年度全国新酒鑑評会

2012-05-30 13:22:05 | 地酒

 5月22日(火)夜は、酒類総合研究所講演会でご一緒した松崎晴雄さんと、JR西条駅近くの居酒屋で、広島の地酒数種と西条名物『美酒鍋』を堪能しました。酒蔵のまかない食として伝わる美酒鍋、シンプルに日本酒と塩コショウだけで味付けするすき焼きみたいなもので、ほんとうにさっぱりした味わいなんですが、ふだん日本酒主体に呑んでいる人の味覚には実によく合います。さすが酒蔵発のグルメですね。

 

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 美酒鍋は「びしょなべ」とも言うそうで、広島を代表する銘醸・賀茂鶴の蔵元が、戦後、安く手に入る鶏の臓物を使って考案したそう。酒造りの仕事は大量に水を扱うので、いつも着物がびしょ濡れだからって命名されたそうな。

 材料は白菜、長ネギ、こんにゃく、人参など、一般的な鍋料理に使う食材のほか、ニンニク、鶏肉、砂肝、豚肉が必ず入ります。これを鉄板鍋に入れ、最初にニンニクと肉を焼いてから野菜を加え、酒、塩コショウだけで炒り煮みたいに煮込みます。

 

 私も自分で酒鍋を作りますが、だし汁を加えたスープ鍋みたいなもので、味が足りなくてポン酢やラー油やらを加えて、結局、ただの寄せ鍋みたいになっちゃうんです。酒だけでじっくり煮込むってのがポイントなんですね!

 

 

 

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 翌23日、東広島運動公園アリーナで開かれた『第100回平成23酒造年度全国新酒鑑評会・製造技術研究会』に参加しました。前日の講演会で、今年度の審査結果についてきめ細かな解説があったので、まずはそこから抜粋を。

 

 

 今年度の出品点数は876点。平成18年度から追ってみると、981→957→920→895→875と減少傾向が続いていましたが、今年度はかろうじて1点増加しました。

 

 

 国税局別の出品点数は、札幌局(北海道)9点、仙台局(青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島)165点、関東信越局(茨城・栃木・群馬・埼玉・新潟・長野)223点、東京局(千葉・東京・神奈川・山梨)、金沢局(富山・石川・福井)43点、名古屋局(岐阜・静岡・愛知・三重)86点、大阪局(滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)111点、広島局(鳥取・島根・岡山・広島・山口)91点、高松局(徳島・香川・愛媛・高知)48点、福岡局(福岡・佐賀・長崎)52点、熊本局(熊本・大分・宮崎)19点でした。出品しない酒蔵もあるので、この数字がイコール日本酒の勢力図、というわけではありませんが、出品点数が100点を超える地域は、やはり“酒どころ”といってよいのでしょう。

 

 

 出品酒に使われた酒米の内訳は、山田錦が83.7%。その他5.7%、越淡麗4.0%、美山錦2.1%、千本錦1.9%、秋田酒こまち1.3%、雄町1.0%、五百万石0.3%と続きます。越淡麗というのは最近伸びている新潟の米で、新潟県の出品酒76点のうち34点を占めていました。

 

 

 出品酒に使われた酵母の内訳は、きょうかい1807が33.9%、その他33.0%、明利17.2%、秋田今野5.4%、きょうかい901が1.7%と続きます。上位3つは香気成分カプロン酸エチルを多く出すタイプですね。全出品876点中、カプロン酸エチルの香りが高かったものが775点(88.5%)を占めたようです。

 

 

 さらに官能検査で「甘みがある」と評価された酒は、876点中641点(73%)あったようです。

 

 

 総じて、「香りが高くて甘い」タイプが出品され、その中で香りのレベルが高く、味の品質も高いという酒が入賞した、というわけです。前提として、マイナス要因=老香(ひねか)、硫化物臭、コゲ臭、カビ臭があるものは論外として、審査員の先生方には「個性的な香味も、即欠点とせず、積極的に評価しよう」という共通認識があったそう。講演会では聴講者から「個性的な酒ってどう評価したのか」と鋭いツッコミ質問もありました。

 

 

 

 そうなってくると、審査の信頼性はどうなのって話になりますね。全国新酒鑑評会の審査は、4月24~25日に予審が行われ、全国の国税局鑑定官室、研究機関、日本酒造組合中央会推薦の酒造メーカー代表等が1班15人・3チームに分かれて審査を行いました。決審は1班16人・2チームが行いました。

 

 

 

 このメンバーが、“専門の訓練を受けたプロの審査員”ばかりだったかどうかは、素人の私にはうかがい知れない話ですが、酒類総合研究所では「清酒専門評価セミナー」というのを実施しており、官能試験合格者の中から「清酒専門評価者」という認定も与えています。平成24年3月末現在で43人が認定されています。

 その43人の中から鑑評会の審査員が選ばれたわけでは、どうやらなさそうで、講演会では「こんな(ひどい)酒を造るメーカーが審査員かと思えるのもいる。どうして清酒専門評価者認定43人から選ばないのか」という厳しい質問も飛び出していました。・・・聴いていてヒリヒリするような思いがしました。どんなコンテストでも、審査員選びからして重要ですよね、ホント。

 

 

 

 

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 会場は10時オープン予定で、9時過ぎに着いたらすでに入場待ちの長蛇の列。オープンが20分繰り上がって9時40分には開場となり、私が入った9時50分過ぎには、「山形・福島」が大行列になってました。あわてて目録をチェックしたら、なるほど山形県は出品41点中、金賞が16点、入賞が8点。福島県は出品38点中、金賞が22点、入賞が5点。・・・素晴らしい受賞率ですね。

 

 

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 そんな大行列を尻目に、私はいつものとおり名古屋局の静岡県コーナーにまっしぐら。幸か不幸か誰も並んでいなくて、もしかしたら一番乗りかしら?と思いながら、出品16点をじっくりきき酒しました。

 すでに発表されている通り、金賞は臥龍梅、磯自慢、志太泉、開運の4蔵。入賞は正雪、花の舞、英君という結果でした。詳しい結果はこちらを参照してください。