杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

御前崎総合病院のひまわりコンサート

2008-07-20 12:15:31 | 環境問題

 Img_3747

 昨日(19日)は、静岡新聞論説委員の川村美智さんをお誘いし、市立御前崎総合病院で開催されたひまわり摘み&花畑コンサートに行ってきました。出演は御前崎市少年少女合唱団の子どもたち。おそろいのセーラー服で、ひまわり畑の中に並んで唱歌を合唱する少女たちに、美智さんも「まるで映画のシーンみたいね!」と魅せられた様子。私は合唱のレベルの高さにもびっくり感動しました。でも、ほんと、映画のシーンみたいにすべてが絵になるシチュエーションでした。

 

 

 

 Img_3745

 公立学校のほとんどが夏休みに突入した連休初日、タイミングよく梅雨明け宣言もされ、榛南~御前崎地区には県外ナンバーのレジャー車が目につきます。御前崎総合病院は海岸から少し離れた小高い丘にあり、旧浜岡市街~浜岡原発~遠州灘海岸が一望できる5階建て・南向きの建物。見晴らしや日当たりのよさ(このエリアは日照時間日本一!)には定評があっても、夏場の照り返しは病院施設としてはかなりのダメージ。ということで、1階外来棟の屋上300坪のスペースに土を入れ、ツタを植えたところ、ツタや草が繁殖しすぎてあまりにも見苦しくなった。そこで病院職員の有志が、この場所に花を植え、見た目に美しく、患者さんにも喜んでもらえる空間にしようと、2000年から整備を始めました。

Img_3764

 

 植えたのは春は菜の花、夏はひまわり、秋にはコスモス。子どもからお年寄りまでどんな人にも馴染みがあって、ストレートに季節感を伝えてくれる花々です。当初は職員自ら花を摘みとって入院患者さんの部屋へ配ってまわり、そのうちに患者さん自ら花摘みに参加するようになり、誰もが参加できる花摘み日を決めて、今では地元住民や市外・県外の一般客も参加するようになりました。

 

 患者さんからのアンケートを見ると、この活動が病院という施設にいかに貢献しているかが伝わってきます。

 「毎年美しいお花をありがとうございます。心が和み、来るたびに楽しみにしています」「命が延びるみたい。爽やかな気持ちでいっぱい」「母の見舞いにきて思いがけず花摘みができて最高の日でした。いつかこうしてコスモスを花瓶いっぱい飾るのが夢だったので」「入院家族でも気持ちが少しふさぎそうになったとき、花畑を見て心がホッとし、暖かい気持ちになった」「お花を育てている方の苦労に感謝します」「手入れも大変だと思いますが頑張ってください」etc・・・。

 

 昨日も、コンサートが始まったのはお昼前の炎天下。体力が弱った患者さんには1分じっとしているだけでもキツかったはずですが、車椅子に乗った多くの患者さんがひっきりなしにやってきて、職員からひまわりの花束を渡されると満面の笑顔。付き添いの家族の方々も、花摘みを心から楽しんでいる様子でした。美声を聴かせてくれた合唱団の子どもたちも、コンサート終了後には花摘みで大はしゃぎ。学校の花壇とはスケールが違うものね。

 

 過去ブログでも紹介したとおり、この活動は、昨年、県のSTOP地球温暖化防止キャンペーンの取材で知りました。花畑のある階と別の階の天井内温度が、夏場は花畑のある階は低く、冬場は高くなっていることに気づいた活動リーダーの塚本隆男さんが、2005年7月から定点測定を始め、冷暖房温度を1度節約設定して前年より使用電気量を2%カットすることに成功。これら客観的データは、病院職員のエコ意識を高めることにつながり、エレベーターを使わない、敷地内の緑化を進めるなど等の運動に広がり、これら一連の活動が、06年度の県STOP温暖化キャンペーンでは準グランプリ、07年度はエコオフィス部門優秀賞受賞につながりました。塚本さんは、病院関係者の学術大会や環境研究会全国大会等でも発表を行い、専門誌の表紙を飾るなど、業界内の注目の的にもなっているそうです。

Img_3762

 

 塚本さんたちの活動は、「ウチはエコ活動に取り組む、進歩的な病院です!」みたいなノリで始めたわけではないんですね。日当たりがきつい建物だから草を植え、それが景観を悪くしているから何とかしようと立ち上がり、花を育てることが患者さんの癒しになった。患者さんに喜ばれるから励みになって継続できる・・・。どれも必要必然で始めたことで、それが結果的にエコにつながったわけです。CO2削減数値は地球全体を考えたら、ホントに微々たるものかもしれませんが、患者本位で行動するという医療施設としてのまっとうな考えから始まった活動である以上、垣根なしに多くの人が賛同できます。しかも、花という癒しのプラス効果まで与えてくれるのです。無理なく長く継続できるでしょう。

 美智さんも、そのあたりに価値を感じられたのだと思います。熱心に取材メモを取っていました。

Img_3750_2  

 

 帰りに近くのレストランで食事を取ったとき、店のオーナーが「あの病院は花摘みができるいい病院ですよね」と褒めていたのが印象的でした。塚本さんたちの行動が、地域に親しまれ、愛される病院づくりにもつながっているのなら、これは全国の医療関係者に、誇りを持って伝えることのできる活動だと思います。

 

 

 

 病院が舞台になったドラマが、今クールでも放送されていますが、医療ドラマというと、とかく不正とか内部対立とか事故とか、暗くて深刻なシナリオが多いようです。病院は人間が元気と活力を取り戻す、本来は明るくエネルギーに満ちあふれた場所であっていいはず。側面しか見ていない私に何がわかるのかとお叱りを受けるかもしれませんが、3年前、妹が勤務していたアラスカの総合病院を訪ねたときは、看護師のユニフォームが花柄で、病室の壁もカラフルで、ネイティブの方々の美術品や工芸品を展示即売するギャラリーもあったりして、明るくて清潔で、こういう場所なら病気じゃなくても行きたくなる!・・・なんて思ったりしました。

 日本では、ドラマ同様、医療に関する現実のニュースも暗い話題ばかりですが、昨日のような、明るく清々しい病院の姿を、メディアはもっと積極的に伝えるべきだと思います。

 

 ひまわり畑の少女たちの合唱、ホントに心洗われる歌声でした。わたし的には、実に幸先の良い梅雨明け初日でした!


浜名湖競艇初体験!

2008-07-18 21:59:54 | ニュービジネス協議会

 私、地元静岡で20数年取材活動をしていますが、静岡にある有名スポットで1度も行ったことがないところがまだまだあるんですね、お恥ずかしながら・・・。その一つ・浜名湖競艇に、今日、初めて取材に行きました。

 

 

Img_3731  

 競艇はもちろん、競馬、競輪、株、宝くじetc・・・ギャンブルの類はほとんど縁がなく、飲み仲間の女性から、休日は浜名湖に行く、と聞いた時は、マリンスポーツかシーフードグルメツアーでもするのかと思ったら、「競艇」と聞いて吃驚した経験があります。その時は、彼女が特殊な趣味を持つ人種のように見えてしまいましたが、今日、初めて会場に入って、改めて吃驚! メイン施設はディズニーランドにあるようなお城仕立ての瀟洒な建物で、コンシェルジュみたいなお姉さまがウエルカムしてくれるのです。なんでも、競艇初心者はお一人様もサポートがつき、競艇新聞の読み方とか券の買い方を指南してくれるそうです。

 

 

 

Img_3735

 

 

 

 

 3年前に浜名湖競艇企業団のトップに就いた疋田竹幸企業長は、ディズニー、コンビニ・スーパーを参考に、競艇施設のハード&ソフトを大改革。まず、コンビニの“いつでもやってる、どこでも買える”に倣い、年間で206日のレース開催(開催数日本一)を断行。集客数が増える土日はナイターを含めて1日30レース行うほか、場外売り場を茨城、福島にも設置しました。

 

 

 

  

 ディズニーに倣ったのは、レース以外にも楽しめるメニューを増やし、女性や家族連れでも1日過ごせるよう、施設のリニューアルを定期的に行うこと。サービスに関しては、252人のスタッフの意見やアイディアを積極的に採用しています。彼らが意欲的に取り組めるよう、「日本一の競艇を目指せ」を合言葉に、毎月の営業会議で経営的な数字も公開し、一人ひとりが、どうやったら利益が生み出せるか考えるようになったといいます。

 

 

 

 

 

Img_3724

 

 異業種との連携によるイベントや展示会で、新たな客足を向けさせる仕掛けも、スタッフのアイディアでさかんに行われています。たとえば浜松は浴衣の街としてPRしたいと聞けば、人気選手に浴衣を着てもらったり、地元の静岡文化芸術大学の学生にボートのデザインや施設の壁面アートを担当してもらい、ボルボやハーレーダビットソンに展示会場として無償提供したり、ネイル体験、ダンスショー、お笑い芸人ショー、農産物展示即売会といったイベントも開催。疋田さんは「プロ野球のパリーグでお荷物球団だったロッテや日ハムが、観客サービスをとことん追求し、球場に来る楽しさを演出し、見事な成果を上げた。あれに倣って、レース券を買うだけではない、滞留時間が長くなるような仕掛けをあれこれ考えています」と楽しそうに語ります。

 

 

 

 

 

 

 

 日本には24場の競艇があるそうですが、どこも経営は芳しくないよう。そんな中、浜名湖競艇は4年前は売上704億円で利益7900万円、3年前に売上642億円で利益9000万円、疋田さんがテコ入れした2年前には売上763億円で利益7億円、昨年は692億円で5億円(SGレース開催費用に2億かかったそう)と、他場では例のない高収益体質に転換しました。

「公務員が出向しているような公営ギャンブルで利益を出す知恵が生まれるはずがない。仕事の基本は何といっても<人>です。うちはスタッフ全員がプロパーで専任意識を持っている。それが一番の自慢です」と疋田さん。話を聞きながら、ホントに、いろんな業種や企業のサクセスストーリーを実践したんだ・・・と実感しました。

 

 

 Img_3733

 

 浜名湖競艇は入場料100円。オープンして55年間、まったく変わらない値段だそうです。疋田さん曰く「100円で大人が遊べる元祖100円ショップ」。まあ、でも100円で済むはずはなく、私もせっかくだからと生まれて初めてレース券を買ってみました。競艇新聞の予想を鵜呑みにし、◎を1着、〇を2着の2連単を1000円で買ったところ、△が1着、◎が2着の大外れ・・・。ビギナーズラックとは行きませんでした。1000円は疋田さんの講演料代わりと思うしかありません(涙)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回は、同じく競艇場訪問は初めてという人がほとんどの、静岡県ニュービジネス協議会西部部会18名と一緒の取材でした。私は夕方、初亀醸造さんで『吟醸王国しずおか』の撮影打ち合わせがあったため、1レースだけ参加して失礼しましたが、残った西部部会の皆さんは、やみつきになりそうと言いながら楽しんでいました。新聞の細かなデータを読んだり、頭を働かせるのは、まさに生きた“脳トレ”。現金がかかっているとなると、本気度も違います。ストレス解消にはもってこいかも(私みたいに、小心者のくせにすぐにムキになっちゃう人間には、逆にストレスになるかもしれませんが・・・)。

 

 

 

 

 

 

 

 競艇は日本で生まれた、日本にしかないギャンブルです。しかも公営ギャンブルは売上のいくばくかが社会資本に還元されています。

 ギャンブルである以上、相応のリスクがあるのは当然ですが、リスク面ばかり見て後ろ向きにならず、たとえばカジノや競馬場が大人の社交場として機能する諸外国のように、今、進展中の競艇場の新たな付加価値づくりをもっともっとアピールし、我々地域住民もその動きや可能性を、ギャンブルという色眼鏡だけでなく、多角的に見るべきだと思いました。

 静岡空港開港以降は、国内外から新たな観光客を引っ張ってくる大きな強みになるかもしれませんね。


クライマーズハイを観て

2008-07-17 19:50:45 | 映画

 昨日(16日)は夜、静岡コピーライターズクラブの広告セミナーで、電通のヒットプランナーさんの作品と制作裏話を聞きました。

 コピーライターでもフリーライターでも、職業ライターが食べていけるのは、メディアに広告費を出すスポンサーあってのこと。広告プランナーは、スポンサーが売り込みたい情報を、消費者が知りたい・聞きたい情報に“変換”する機能が求められます。

 テレビCMの場合、1日に3000本も流されていますが、消費者に「パッと思い浮かぶCMは?」と聞いても3~4本しか上がってこないそうです。変換どころか、記憶に留めてもらうだけでも大変なこと。もちろん記憶に残る・残らないは、そのCMの放送回数や放送時間帯にもよりますが、視聴者に好印象を持ってもらわねば意味がありません。

 また、プランナーの変換手法が生かされるのも、スポンサーの理解なくては始まりません。CMづくりは、クリエーターとスポンサーががっぷり四つを組む共同作業なんですね。

 

 

 

 今日(17日)は昼間、時間が空いたので、映画『クライマーズ・ハイ』を観に行きました。すでにご覧になった方も多いと思いますが、1985年の日航機墜落事故を追った地元新聞社の1週間を描いた作品。登場する新聞社は架空のものですが、実話がベースになっているだけに、テンポも迫力もあって、ぐいぐい引き込まれました。

 ところどころ、山登りシーンが挟まって、流れが途切れてしまうのが気になりましたが、新聞社の編集局内の描写や登場する記者たちのたたずまいはホントにリアル! 中村育二、蛍雪次朗、でんでん、田口トモロヲなんかは、ホントに新聞社にいそうな顔だもの(堤真一や堺雅人みたいなイケメンは、さすがになかなかいないなぁ・・・)。地方新聞の記者と中央のエリート記者たちとの“格差”とか、局内の男同士の嫉妬心やライバル心、結束力なども、ふだん見聞きする話そのものです。

 地方新聞が中央には追えないもの・書けないものとは何か、地元読者から何を求められているのかを突き詰めようとするところなどは、地方で執筆活動をする身として、大いに共感!。さすが、原作者が実際の群馬・上毛新聞出身だけあります。

 

 一番印象に残ったのは、編集局と営業局の対立シーンです。

 どんな悲惨な事故を伝える紙面でも、広告がなければ新聞は成り立ちません。「編集局の奴らは、自分らが社を背負ってるみたいな顔をしてるが、俺たちが広告を必死に集めているから発行できるんだ」という趣旨の言葉は、私も直接、新聞社やテレビ局の営業担当から聞いたことがあります。

 映画の中の営業局のポスはヤクザの親分みたいなキャラで描かれていましたが、彼が「真っ白な紙面でも俺たちは売ってやるぜ」と睨みをきかせ、堤真一が「商品(=紙面)がよくなきゃ広告は集まらねえだろう」と言い返すシーンなどは、そうか、新聞もスポンサーに支えられた民間企業の商品なんだ、と改めて思い知らされます。

 

 テレビCMの場合は、動くおカネもパンパじゃないので、スポンサーは、CMの内容はもちろん、CMを提供する番組の内容にも過敏に反応するようです。番組制作サイドからすれば、スポンサーはカネは出してもクチ出すな、と言いたいところですが、民放はやはりスポンサーあっての民間企業。スポンサーの意向と制作サイドの調整役を果たす人もちゃんといます。

 

 

 一方、新聞や雑誌などの活字媒体は、地方の場合、とくに、そういう調整役がうまく機能しているという例をあまり聞きません。調整が必要なほどキワどい内容や物議を醸すようなものをあえて表現するような記者やクリエーターは、地方にはいない、ということかもしれません。

 

 

 

 そんな地方メディアのゆる~い空気の中に、いきなり、メガトン級の飛行機事故が降って起きたのです。記者には記者本来のスキルが問われ、営業には事の大きさが判断できず、従来通りのやり方を押し通そうとする。調整役がいない社内はあちこちで衝突や混乱を起こします。・・・新聞社が舞台ならば、このあたりをもっとていねいに描いてほしかったと個人的には思います。

 

 いずれにしても、表現者が表現活動を続けられるのは、表現する場を与えてくれるスポンサーがあってのこと。スポンサーが自分のネームバリューを高めるにはすぐれた変換者・表現者が必要だということ。この2つの鉄則だけは、テレビも新聞も雑誌も変わりありません。

 

 

 映画作りを始めてから、私は初めて、自分に表現の場を与えてくれる人を、自分で開拓・獲得しなければならない立場に身を置いています。すぐれた表現とは、その場を与える人と生かす人の共同作業の賜物である・・・との思いをかみしめた2日間でした。


中伊豆のサクラマス

2008-07-16 09:20:01 | 環境問題

 昨日(15日)は中伊豆の柿島養鱒さんを訪ね、川魚の養殖現場を取材しました。伊豆の川魚といえば鮎が有名ですが、ここではイワナとサクラマスを育てています。

Img_3714

 サクラマスは、サケ科太平洋サケ属の降海型ヤマメで、ホンマスとも呼ばれる幻の高級魚。サケと同じように海に下って大きく成長し、ふたたび生まれ故郷の川に遡上して産卵します。身は淡白でほのかな甘みがあり、生でも加熱しても美味。富山の有名な鱒寿司は、もともと遡上したサクラマスで作っていたそうですが、幻の高級魚になってしまってからは大部分を輸入鮭鱒に頼っているそうです。そんな高級魚が伊豆の山奥で育てられているなんて、初めて知りました。

 

 養殖池は萬城の滝から続く地蔵堂川の清流を引き込んだ、限りなく天然に近い環境。周辺は最高級のお墨付きを得る中伊豆わさびの主産地で、山間の豊かな自然に囲まれ、水の音が途切れることなく響いています。車を走らせながら、「高級わさびが育つぐらい水がいいから川魚も養殖できるんだなぁ」と実感しました。

Img_3713

 

 イワナもマスも、もともと日本古来の在来種。伊豆は生息分布域ではなかったそうですが、もとはといえば島がぶつかって半島になって富士山ができたとされるだけに、天城山系の水質は石灰質など海のミネラル分を含み、魚を育てる環境に向いています。ミネラル分をエラから吸収する魚は、水質にとても影響されます。ここ天城山系地蔵堂川流域の水質なら、しかも日本の在来種なら環境に十分適応できるわけです。

 

 

 海の幸に恵まれた静岡の人にとって、川魚にこだわって味わうという機会はあまり多くないと思います。伊豆の山奥の温泉旅館などでも、豪快な船盛りとか出てきますものね。

 川魚は塩焼きか甘露煮にすることが多く、生で食べる機会というもの限られます。匂いが気になるという人も多いですよね。

 

Img_3717

 

 そこで柿島養鱒がこだわったのは餌。人が食べても安全な魚粉、小麦、コーンスターチにビタミン類を配合した餌を、すべて自社生産します。一般の餌は、魚を太らせるために脂を添加するそうですが、柿島養鱒の岩本いずみさんは「そんな不健康なことはしない。うちはマグロでいえば赤身の味で勝負したい。トロは要らない」と明言します。良質な素材を使うので、作り置きをして質を落とさないよう、つねに必要量をそのつど作ります。こういう、餌まで自家製する養殖業者はほとんどいないそうです。

 

 天然に近い水環境を保持し、良質の餌を、家族にごはんを作るようにそのつど自家生産し、健康的な純系種を継続出荷できる体制を築いた柿島養鱒の姿勢は、漁業というよりも農業に近い感じがします。在来種が放っておいても生きながらえる自然環境が維持できなくなった今、我々消費者も、「天然」を疑いもなく礼賛するばかりじゃいけないんじゃないか、と思います。

 

 「天然を超えた味を目指しています」と語る岩本さん。折しも、全国で漁業者が一斉休漁した日、伊豆の山の中で魚の未来を考える機会を与えられた私。自分にできることといえば、岩本さんのような業者の存在と、サクラマスという知られざる高級魚の価値を周知させるぐらいですが、世の中景気の悪い話ばかりの中で、誰かに少しでも活力を与えるお手伝いができれば、今日、ここを訪ねた意義も価値も生まれそうです。

 

 

 「和食の料理人さんは、川魚の料理法に固定観念があるせいか、あまり反応はよくないんですが、洋食の人は食材としてストレートに評価してくれて、フレンチ、イタリアン、エスニックの料理人さんから絶賛してもらいました。斬新な感覚で活用してもらいたい」と岩本さん。サクラマスのマリネなんて、冷やした静岡吟醸にも合いそう…。静岡酒を扱う料理人さん、ぜひトライしてもらえませんか?


映画で伝えたいこと

2008-07-13 11:25:32 | 吟醸王国しずおか

 先週末、東京で開催された第2回INTERNATIONAL SAKE CHALLENGE 2008という国際品評会で、清水の臥龍梅が最高金賞、藤枝の杉錦が金賞を獲得しました。昨年の第1回は磯自慢が最高位に輝いてます。審査員を務める松崎晴雄さんから別件でお電話をいただいたとき、「静岡は2年連続です。凄い評判ですよ」と高揚した声で結果をうかがい、改めて静岡県の吟醸王国たる姿が証明がされた!と実感しました。

 

 この品評会は、10年前からJAPAN WINE CHALLENGE(JWC)を開催する団体が、近年国際的な声望が高まりつつあるSAKEの国際的評価を高めようと昨年から始めたコンテストで、JWCの審査で来日したワイン専門家の中から、とくにSAKEへの造詣の深いスティーブン・スペリエ氏(英Decanrer誌編集顧問・JWC実行委員長)、アンディ・ダイナス・ブルー氏(米ボナペティ誌編集長・ワインライター)、ミシェル・ベタン氏(仏・ワインライター)、松崎晴雄さん、ジョン・ゴントナーさんらが審査にあたります。基本的に出品費用のかかるメーカー自主参加型コンテストなので、すべての酒蔵が審査対象になったわけではありませんが、それでも300点ぐらいの出品酒の中から2年連続最高位に静岡の酒が選ばれるというのは大変なことだと思います。

Dsc_0002_2

 

 昨夜、『吟醸王国しずおか』の撮影で、全国10蔵による生酛造り勉強会の研修先となった杉井さんを訪ねたとき、どんな酒を出品したのか訊いたら、「出品したのは静岡酵母のアル添吟醸2年古酒。自分としては極めて静岡らしい(=コンテスト向きではなく市販食中酒向き)タイプだと思っていたので、受賞は意外だった」とのこと。このコンテストは基本的に市販酒が対象なので、静岡の市販酒としての実力が正当に評価されたともいえるでしょう。軽快で呑みやすい静岡酒は、新酒の時期のコンテストでは他の個性的な酒に比べると印象が薄くなってしまうと言われますが、熟成させたことでボディのふくらみが増し、しかも持ち前のバランスのよさや喉越しのさばけのよさがプラスに働く・・・そんなふうに想像します。

 

 

 

 

 

 

 さて、昨日は撮影の前、話題のドキュメンタリー映画『靖国』を観に行きました。上映中止やら何やらで物議をかもした作品だけに、どんなに衝撃的な内容かと構えていきましたが、実感としては、ごく普通のドキュメンタリーで、どこが問題なのかよく分からなかった。若い中国人監督らしく、日本刀の刀匠の姿を視覚効果的に挟んだり、小泉首相の参拝に対する賛否両論を取り上げるなど、バランスも取れていたと思います。

 

 ただ、若い監督だけに、刀匠の人物描写が弱かったり、靖国神社で起こる出来事の描写もテレビの報道番組と大差ないレベル。2時間強という上映時間も、ドキュメンタリーではきつい長さです。監督には監督なりに伝えたいものがあったと思いますが、単調な実写映像だけに、あまり長いと散漫になるなぁ、このシーンは要らないなぁ…等など、途中から映画制作者の眼になって観てしまいました。

 

  映画作り、とりわけドキュメンタリーは、作り手の強靭な思念が必要です。撮った映像はどれも必要があって撮っているわけですから、カッティングするには大変なエネルギーが要ります。どの画を使い、カットするかは、やはり作家がそのテーマとどう向き合うかにかかってくる。その意味では、同じ戦争を扱ったドキュメンタリーでも名作『ゆきゆきて、神軍』とか、昨年清水で上映会のあった『蟻の兵隊』などは、そこそこの長さはあったものの、監督が対象と向き合う覚悟のほどが凄まじく、観る側にも強烈な印象を残します。

 

 ドキュメンタリーの勉強を始めたばかりの身で図々しい言い方かもしれませんが、『靖国』は、テレビの構成番組として3回シリーズぐらいに分けて見たら、よく取材して頑張って作ったと思えるレベルでした。内容的にはテレビで放送しても問題ない、普通の出来だと思います。

 ですから、中国人監督が靖国神社を描いたという表層部分を取り上げて騒ぎの元を作った国会議員とか、国会議員が騒いだというだけで上映拒否という流れが出来てしまうのは、作品の評価とはあまりにも次元の異なる話でよく分かりません。上映拒否がさらに話題を作って、12~13日の静岡の上映会も大変な人出です。こういう注目のされ方が、作品にとって本当に幸せなのかどうか、これもよく分かりません。

 

 

 

  ひとつ怖かったのは、上映前に映像機器のトラブルで10分ほど待たされたとき、隣に座っていたおばさんが「何やってるんだよ~」とか、後ろのおじさんが「カネ返せ」と言い出したこと。イラつく気持はみんな同じはず。それを、いい大人が数分も待てずに声を出して騒ぎ出すなんて、学級崩壊の児童みたいで恐ろしくなりました。この作品を従前から包み込んでいた刺々しさが、上映会場にも伝染していたのかも…。

 作品の中でも、靖国でメッセージ行動を起す外国人に向かって「ヤンキーゴーホーム」とか「中国人が来るところじゃない、帰れ帰れ」と執拗にいきり立つ日本人が描かれています。彼らのイライラ感は別のところから来ているような気もして、日本人中高年の精神状態の危うさと、それが若者や子どもたちに伝染する怖さを感じました。

 

 少なくとも『吟醸王国しずおか』は、観た大人たちが心豊かになり、若者にいい酒の味わい方を伝染させるような作品にしたいなぁと思います。