杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

鑑真和上展

2008-07-12 08:01:40 | 仏教

 今日(12日)から静岡県立美術館で『国宝鑑真和上展』が始ります。私は4月に京都の高麗美術館で偶然お会いした県美学芸員福士雄也さんのご厚意で、昨日(11日)の内覧会に参加させてもらいました。

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 エントランスホールに一歩踏み込むと、壁一面に等身大の千手観音立像、盧舎那仏坐像、薬師如来立像のシルクスクリーンが。県美エントランスの壁面がこれだけ効果的に使われたのを見るのは初めてでした!

 

 

 唐招提寺の松浦俊海長老はじめ、関係者の挨拶やテープカットで開場。展示場で最初に目にするのは国宝の四天王立像です。奈良時代(8世紀)に造られた木造乾漆併用の立像で、ふだんは金堂の須弥壇上の4隅に安置されています。

 四天王立像といえば、同じく鑑真和上ゆかりの東大寺戒壇院の塑像四天王像が有名ですね。とくに世の中を広く見聞し記録する役目を担った広目天像は、ライターの私にとって大事な“MY仏像”のひとつ。眼光鋭い戒壇院の広目天に比べると、こちらはどっぷりとして愛嬌のあるお顔をしています。それでも眉毛をしかめ、口をへの字にグッと閉じて睨む表情は、校門の前で風紀検査をする学校の先生みたい(笑)。

 いずれにしても、金堂須弥壇に置かれた状態とは違い、アートとしての仏像の美しさや仏師・工人の技の推移を、ここ静岡で間近に堪能できるなんて、本当に貴重な機会です。

 

 台座の裏に、当時の工人たちが書き残した落書き、しかも動物の絵などに交じって男根・女陰!のひと筆描きまであることも、初めて知りました。こういうトリビアネタも金堂に置かれた中では封印されていたでしょう。

 

 『朝鮮通信使』制作をきっかけに、絵巻物や古文書への関心も深まりました。これを書き残した人は、ライターの大先輩なんだという見方ができるようになったのです。今回は鑑真和上の伝記をつづった『東征伝絵巻』が見もの。

 また『戒律伝来記』や『四分律行事鈔』など修行僧のためのマニュアル本ともいえる文書には、ルビや注釈やメモ書きのようなものも残っていて、当時、進学塾のように詰め込み学習していた若い僧たちの汗と涙が偲ばれます。

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 最大の目玉である『鑑真和上坐像』の前では、松浦長老らによる法要が執り行われました。法要のあと、坐像間近まで接近して見ることができましたが、4月に東京国立博物館で見た薬師寺展の日光月光菩薩立像と違い、ガラスケースに守られ、背中は両脇から見られるものの、360度グルッと見渡すことができませんでした。さまざまな事情があってのレイアウトだとは思いますが、薬師寺展のダイナミックな展示に比べると、どうも迫力に欠けます。比べても仕方ない話ですが…。

 

 

 それでも鑑真和上の生き仏のようなお顔を、こんなに接近して見られるのはめったにないこと。弟子の忍基が、講堂の梁が砕ける夢を見て和上の死が近いことを察し、そのお姿をとどめようと弟子たちとともに造ったそうです。もし忍基がカメラを持っていたら、和上のドキュメンタリーを撮っていただろうなぁと想像しました。

 

 

 記憶を記録として残し、感動を伝える・・・。天平の仏師や筆人たちの仕事の価値を実感し、静岡でライターとして生かされる自分は、静岡の何を次代に伝え残せるかを改めて考える、そんなきっかけになった展覧会でした。

 

 

 

 鑑真和上展は7月12日から8月31日まで開催。入場料は大人1200円、中学生以下は無料です。子どもたちがこういう展覧会を無料で気軽に見られるなんて、これは県の文化政策としてはヒットですね!ぜひご家族連れでどうぞ。


特選和牛静岡そだち

2008-07-11 10:33:39 | 農業

 9~10日と立て続けに浜松通い。現在制作中のJA静岡経済連情報誌スマイルの『静岡そだち』特集で、こだわりの焼肉専門店や販売店の取材です。

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 『特選和牛静岡そだち』は、JA静岡経済連が開発したブランド牛。経済連が飼育を委託した認定農家が、厳しい管理マニュアルのもと、おおむね327~30ヶ月齢ほど飼育した黒毛和種雌牛で、3等級以上の格付けをされたものです。認定農場は御殿場、富士宮、島田、浜松、湖西、三ケ日にあり、08年6月現在、11農場で1575頭を育てています。

 

 黒毛和種雌牛の特徴は、きめ細かくやわらかい肉質と上品な旨味。和牛の中でも最も肉質がいいそうです。…なんか実感のない無責任な言い方ですが、私、食べたことないんですよね~静岡そだち。もともと限定牧場で限定飼育され、販売先も限定されていて、ロースで100g900円前後、サーロインで100g1300円前後といった価格帯。

 

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  今回、スマイルでは静岡そだちが食べられる店として、島田のステーキハウス『魯菴』(写真左)と、浜松の焼肉専門店『ソニャーレ』(写真右下)を取材しましたが、ふだん、牛肉を買って食べること自体、年に1度か2度あるかないかの下級市民の身からすると、目の前にしたサーロインの塊は、食べ物という実感がわきません。宝石の原石か、さし模様のオブジェのように見えます。

 魯菴の小田切シェフには「原稿を書く前に必ず食べに来ます」と大見得を切ってしまいましたが、映画作りで食費すら切り詰めている身の上、どうやってねん出しよう…。

 

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 魯菴もソニャーレも、郊外の目立たないところにある席数の少ないこじんまりとした店ですが、新幹線や高速道路を使う県外客もやってきて、予約なしでは入れない人気店。ふだん気軽に入れるチェーン焼肉店とは対極にあるのかもしれませんが、静岡そだちというブランド牛で繁盛する店が現実に存在するということは、苦労してブランド牛を育てる価値もあるわけですね。

 ちなみに静岡そだちを最もおいしくするソースは、魯菴の小田切シェフは「わさび」、ソニャーレの小澤シェフは「岩塩」だそうです。

 お二人とも「肉そのものにうまみがあるので、シンプルな調味料にすべし」とのことでした。

 

 私は取材者として、厳しい管理マニュアルを守ってブランド牛で勝負する生産者や、割高なブランド牛の価値を消費者に伝える努力を怠らない流通業者、ブランド牛の美味しさを最大限に引き出して提供する飲食店主らの努力を、川上~川下の縦軸で俯瞰視できる立場にあります。この立場にある者の使命・役割というものを意識し続けることは、静岡吟醸の取材で培った大切な資質だと思っています。

 

 

 

 今回の取材は、川下の消費者と接触する飲食店の取材からスタートし、流通、生産者と川上に取材が進む予定です。飲食店主や販売店主からこれだけ大事に扱われ、いい商売をさせてもらっていると喜ばれる牛肉を育てる生産者って、どんな人だろう・・・。静岡吟醸では川上から川下へと取材してきたので、逆ルートの取材もまた楽しみです。

 

 1本の縦軸でブランドが確立する姿が、この先いくつ取材できるのか。・・・それは静岡県の豊かさのバロメーターといえるかもしれません。

 


天の川を越えて

2008-07-08 10:18:48 | 吟醸王国しずおか

 昨日(7日)夜は全国各地で七夕ライトダウンが行われましたが、私が『吟醸王国しずおか』の撮影をしていた大村屋酒造場(島田市)はラテンリゾートの熱帯夜のごとき熱気と明るさに包まれていました。

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 7月7日夜は、毎年恒例の大村屋酒造場七夕酒蔵コンサート。今年で12回目を数えます。クラシック音楽に造詣が深く、ご自身も合唱団で喉を鍛えておられる松永今朝二社長が、幅広い人脈を駆使して、国内外で活躍する一流アーティストを自費で招くコンサートです。といっても一流ホールで聴く雰囲気とは少々異なり、会場は貯蔵タンクの合間を縫って酒瓶のP箱をひっくりかえしてダンボール紙を敷いただけの酒蔵らしい即席イスを並べ、ステージは社員総出で作った七夕飾りでデコレーションされていました。

 

 大村屋酒造場は島田駅に近い市街中心地にあり、酒蔵といっても敷地に余裕があるわけではなく、コンサート会場の貯蔵倉も決して広くはありません。そこに、ゆうべは400人近い市民が詰め掛けたのです。

 

 

 

 お目当てのアーティストは、藤原歌劇団で活躍中のテノール歌手・中鉢聡さん。NHKの音楽番組や国際サッカー試合で国歌独唱されているのをご覧になった方も多いと思います。

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 雨が降りそうで降らない湿気ムンムンの梅雨空のもと、空調がない古い蔵の中、400人がぎゅう詰め。中鉢さんは「すっごい人!」「すっごい暑~い!」を連発しながらも、さらに空気を熱くするようなイタリア歌劇の名曲を高らかに歌い上げます。その圧倒的な歌唱力に、暑さを忘れて陶酔してしまいました。舞台映えするイケメンなのに、出身の秋田弁をまじえてユーモラスに語る中鉢さんの親しみやすいキャラに、お客さんはすっかり魅了されたよう。客席から「タオル貸そうか?」とか「水飲みなよ」なんて合いの手を入れる人もいたり、全員で旧島田市歌を合唱するなど、一流テノール歌手のリサイタルらしからぬ?アットホームなコンサートになりました。

 会場に入りきれない人も、美声と談笑に包まれるステージに惹き付けられ、外からさかんに拍手を送っていました。

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 休憩時間には、松永社長が、酒蔵がこういう事業を行うことの意義をしみじみと語り、日本名門酒会でお馴染み酒類問屋・岡永の社長、三河の酒類問屋・川清商店社長一家、原田よしつぐ代議士らがエールを送り、リッチモンド市からやってきた交換留学の高校生たちが浴衣姿を披露するなど、和やかなステージが続きます。私も松永社長のご厚意で、『朝鮮通信使』大井川川越遺跡ロケでの島田市民の方々のご協力への感謝と、『吟醸王国しずおか』映画製作の紹介をさせていただきました。

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 コンサートはアンコールが続いて、最後の吉幾三の「雪国」イタリア語バージョンで大盛り上がり。熱気冷めやらぬまま、冷えた樽酒、新発売の純米吟醸『竹の風(誉富士バージョン)』、冷やし甘酒などがふるまわれました。カメラマンの成岡さんは、400人の酒飲み集団に飲み込まれるように右往左往しながらも、地元に酒蔵がある幸せを満喫する住民の表情を収めていました。

 

 

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  先月の志太平野美酒物語にしてもそうですが、日本酒しか飲めない宴会に400人も詰め掛けるという光景を見ると、世間一般で言われる日本酒離れとか、静岡=日本酒のイメージなし、という図式が、まったくピンと来ません。ところが、先週、JAの仕事で一緒になったデザイン会社のスタッフは、地元で広告の仕事をしているにもかかわらず、地元に酒蔵があることすら知りませんでした。

 知らない人と知っている人の間には、天の川よりも深く暗い溝があることは動かしようのない事実です。その溝を少しでも埋める手段として、松永社長はコンサートや酒蔵解放といった住民サービスに力を入れておられるわけです。

 

 

 一方、北海道の洞爺湖サミット会場では、ゆうべの晩餐会で磯自慢純米大吟醸中取り35がふるまわれました。これはこれで、日本酒を知らない層に、その魅力を知らしめる格好の機会だったと思います。

 

 

 私が撮っている蔵元たちが、舞台は違えども、七夕の夜に、天の川を越えるがごとく日本酒との出会いを見事に演出したことを、嬉しく、頼もしく思いました。『吟醸王国しずおか』も深い溝を埋める一助になれば、と願ってやみません。


豊後さんの良心

2008-07-06 16:21:18 | しずおか地酒研究会

 急に暑くなりました。気がつけば7月で、通りには七夕飾りや花火大会のポスター。でもこの夏はポスターを眺めるだけで終わりそうです。1

 

 サマーシーズン到来といっても、まとまった休みも遊びの予定もまったくない中、いつもブログを読んでくださる御前崎総合病院の塚本隆男さんから、ひまわり開花のメールが来ました。静岡県のストップ温暖化アクションキャンペーンで優秀賞に輝いた同病院の屋上緑化活動の一環で、7月19日(土)にひまわり摘み&花畑コンサートを開くそうです。こういうお誘いは万難を排してでも行きたくなりますね。誰でも参加できるようですので、環境問題や医療福祉に関心のある方はもちろん、夏らしいフォト日記やブログのネタをお探しの方も気軽にぜひ!

 

 

 昨日(5日)は、先月の静岡伊勢丹出店のお礼と慰労を兼ね、岡部町の吟醸バー・イーハトーヴォを訪ねました。伊勢丹吟醸バーに同僚多数で来てくれた静岡市役所の豊後知里さんが、吟醸バーをすっかり気に入った同僚たちにせかされ、イーハトーヴォ現地ツアーを企画したのです。県教育次長の藤原さん、市経済局長の熱川さん、市文化政策課長の磯部さん、静岡新聞学芸部長の川村さんほか10名、肩書きはお堅いみなさんですが、ほとんどは、長年、しずおか地酒研究会の活動を応援してくれる地酒ファンの面々。オフィスではなく飲み会で会う人ばかりです。

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 とりわけ豊後さんは、しずおか地酒研究会発足のきっかけになった1995年11月の静岡市立南部図書館食文化講座『静岡の地酒を語る』の企画準備から応援し、その後も市役所の女性職員を集めては地元の酒蔵を知る・味わう自主勉強会を再三開催してくれました。

 

 昨年の『朝鮮通信使』制作時には、豊後さんが所属する市産業政策課の事業だったこともあって、多方面で支えてくれました。完成後の作品に対する市の扱いには不満も多々ありますが、豊後さん個人は「大御所四百年事業の中で、後世まで残る事業はあの作品だけ」と心を打つメッセージを寄せてくれました。市の中に、そういう意識を持つ職員が一人でもいるというのは、作品にとって幸せなことだと実感したものです。

 

 

 豊後さんは偶然にもイーハトーヴォの後藤英和さんと大学の同級生で、イーハトーヴォ開店のとき、「女性に好まれる店にしたいんだけど」と相談を受け、「トイレと化粧室をきれいにすべき」とアドバイスし、いろいろなお店をリサーチしては、トイレの写真を携帯カメラで撮って提供したという間柄。ゆうべも、地区の会合で中座した後藤さんから、店の留守を託されていました。

 

 応援の理由を、いつも豊後さんは「真弓さんのおかげで日本酒が好きになったから」と単純明快に話してくれます。こういう台詞をストレートに聞かされると、この人を失望させるようなことはできない、と痛感します。後藤さんも同じ思いかもしれません。

 

 後藤さんが伊勢丹で吟醸バーを開いたときは、地元岡部の和菓子店主と吟醸バーに客で来る地酒ファン2人がボランティアでヘルプに入っていました。昨日はそのうちの一人が、送迎の車まで出してくれました。

 

 

 私が地酒研を維持できるのも、後藤さんが吟醸バーを営業し続けられるのも、豊後さんはじめ、陰日向になって支えてくれる仲間がいるからです。その人たちにとっては一円の得にもならないはずですが、お金には換えられない何かがあるのかもしれません。その何かを具体的には説明できませんが、少なくとも私たちに、「支える仲間を裏切れない」という確信を持たせる力はある。何かことを興すとき、こういう力はお金と同等かそれ以上のエネルギーになりますね。

 

 何かに一生懸命に打ち込んでいる人を、損得抜きに応援しようという気持ちは、金両基先生もよくおっしゃる「良心」のひとつなんでしょう。

 ゆうべは豊後さんたちの良心を改めて感じて、自分は誰かに良心を示せているのか不安になりました。とくにこの半年、映画制作を始めてからは、自分が無償でこれだけ苦労しているんだという思いが先に立ち、ついつい周囲の人の良心を見過ごしてしまいます。

 

 

 御前崎総合病院の塚本さんたちが、屋上緑化による光熱費の軽減と、患者への心の癒しを目的に、多忙な業務の合間を縫って活動を続ける姿は、良心に基づいた活動の尊さを再認識させてくれるでしょう。私はそれを、個人の情報網の中で周知させるぐらいしか、今のところ良心の示しようがありませんが…。


TENKOMORI

2008-07-05 11:59:02 | 環境問題

 昨日(4日)は天竜の木材加工メーカー・フジイチさんを再訪し、天竜材の伐採作業を見学しました。若き“木Img_3691_2こり”野村洋一さんに「材木屋さんや住宅メーカーの人でも、杉と檜の見分けがつかない人がいるんですよ」と聞いて、ハハハ~とImg_3692同調笑いした私ですが、質問ふられたらど~しよう・・・とヒヤヒヤもの。

 ちなみに檜は幹の表面が荒っぽく垢剥けた感じで(写真左)、葉っぱは手のひらを広げたような形。杉は幹が硬くしまっていて(写真右)、葉っぱは檜より密集して見えるそうです。

 

 伐採された木は、葉がついたまま、その場で3ヶ月ほど寝かされます。これを『葉枯らし』といい、3ヶ月の休眠で水分が3分の1ほど抜ける。含水率の高い杉の場合、重量が3分の2になるのは運搬作業の軽減にもなります。山から運び出されて工場敷地に来たら、さらに乾燥を進め、防虫のため、皮を剥いた状態で半年~1年寝かします。製材を終えたらさらに半年~1年、天然乾燥。木の強さや色合いを引き出し、本性を落ち着かせるのに、実に2年余の歳月をかけるわけです。

 

 杉や檜の見分けもつかない材木屋がいるというのは、この、伐採~葉枯らし~出材の手間を省いた“原木市場からの仕入れ”に頼っているから。見た目は同じ木材でも、フジイチのように、山の立木から生育状況を熟知し、木の特性をしっかりと把握した上で製材や乾燥を施す業者もいるんですね。

 これって、酒造業でいえば、原料米をJAや商社からの仕入れに頼っているのと、自社で栽培もしくは地元農家と契約栽培するなどふだんから米の生育状況をつぶさに見て、米の特性をちゃんと把握して酒を造る、という構図と似ています。

 木を寝かせるという工程も、酒を熟成させるみたいで、同じように生き物を相手にする仕事なんだなぁと実感します。

 

 

 野村さんたちフジイチの山林部社員は、最近、小中学校に呼ばれて環境教育の出前講座をするそうです。チェーンソーで木をバッサバッサと切り倒す映像だけ見ると、自然破壊をしているように感じてしまいますが、野村さんは子どもたちに「人が人工的に植えた木は、ちゃんと切って手入れをしないと、逆に自然を壊すんですよ」「でも木を切るときは、幹をコンコンって叩いて、中に棲んでるかもしれない虫や動物たちに、“ごめんね、今から切るからね”って合図をするんです」とわかりやすく語ります。子どもたちは、砂漠で水を補給するかのごとく、夢中になって話を吸収するようです。

 

 フジイチでは現在、森林環境教育に関心を持つ地域の若者や教育関係者とともに、『TENKOMORI(天竜これからの森を考える会)』を結成して、山仕事の価値を地域に伝道する活動を始めたそうです。TENKOMORIってネーミング、いいなぁ、欲しかったなぁ…!

 

 

  三重県尾鷲、奈良県吉野と並んで日本三大人工美林と称される天竜川流域。この地の林業が再浮上することは、日本の森林環境の行く末を左右します。

 

  この地は、工業立国ニッポンの象徴である自動車産業の創業者や立役者(トヨタ、ホンダ)が生まれた地でもあります。京都議定書で約束したCO2マイナス6%を、この10年で反対にプラス6%にしちゃったのは、自動車メーカートップが牛耳る経団連の意向で、ヨーロッパ先進国のように産業界も巻き込んだ低炭素社会構造に舵を切れない日本政府の無策にあったと聞きます。

 ならば、この地から、環境立国ニッポンの兆しを示すべきではないか。その原動力は、農林業の浮上に他なりません。

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今、フジイチ、早稲田大学工学部、静岡県の産学官協働プロジェクトで、レーザー光線での伐採、ガンダムのような林業機械ロボットの開発など、夢の研究を進めています。私が昨日、現場で見た自走式搬器(ラジキャリー)も、この研究の一環で自動化が進められました。このような、一次産業の二次産業化、二次産業の一次産業への応用を推し進め、環境立国への舵取りをする先進事例が、この地から生まれることを大いに期待します。

 

 合板パネル商品のネーミングに、わざわざ山の伐採作業を見学する必要はなかったかもしれませんが、ネーミングの仕事とは別に、間伐が行き届いた森林を生見学できたのは、洞爺湖サミット直前で環境問題を扱う報道が多い中、本当に勉強になりました。

 

 そして自分自身、現場を見て感じる・考える・伝えるライターでありたい、との思いを再認識しました。