山刀峠を越えた芭蕉一行は尾花沢の大金持ち鈴木清風宅(本名鈴木道祐)へと向かいます。
尾花沢市は鉄道の駅がないのでどの辺か迷いますが奥羽本線大石田駅からバスで尾花沢ターミナル行きで行くのが便利なようです。
昔鉄道の敷設に反対したのでしょうか陸の孤島のようです。
現在は芭蕉清風歴史資料館となっています。
館内には芭蕉と清風がやり取りした書状などが展示されているそうですが・・・・・・
改修工事のため臨時休館中でした。残念。
もちろん芭蕉翁の像は青空をバックにして輝いています。
念通寺 鈴木清風の菩提寺です。
少し寂れていましたが庭の手入れなどは整っています。
この本堂は元禄10年、清風の独力寄進による建立といわれています。
清風の墓を探しましたが見当たりませんでした。
後で解説書を読んだら「境内にある骨堂は念通寺檀家すべての共同墓地で、ために清風のための墓というものはない」とのことです。
養泉寺。
芭蕉が訪れた時はベニバナの開花で忙しい時期で清風の自宅ではなく新築になったばかりの養泉寺に案内しました。
仁王門の中を覗いてみました。
本堂です。秩父札所を思い出しました。最上三十三か所のひとつです。
お寺の向こうは一段下がって田圃が続きます。段丘のの端に位置して涼しい風が吹き抜けていたことでしょう。
また北西には鳥海山、西には月山が眺められる絶景の場所です。
札所ということで御朱印をいただいてきました。
さて尾花沢で10日ものんびりした後一行は山寺、更には道を引き返して大石田、新庄そして最上川下りに向かいます。
当ブログでは最上川下りは2015年9月に掲載してありますのでさかのぼってごらんください。
新庄市内も芭蕉の足跡はあるのですが石碑とか標柱だけとかが多くなっています。
これは市民プラザ前にある「風の香も南に近し最上川」の句碑です。
そして6月3日には(陽暦7月20日)には本合海から快晴の中、舟下りに出かけます。
現代ではご隠居は電車で行ったので陸羽西線の古口駅より最上峡芭蕉ライン乗船場(戸沢藩舟番所)から乗りました。
芭蕉一行は本合海(もとあいかい)から乗船したそうなので寄ってみました。
立派な案内がありました。
古い案内でしょうか。
もちろん芭蕉、曾良さんもいましたよ。
最上川の流れです。
なんだか東北、みちのくだなあと思いました。
尾花沢
尾花沢にて清風といふ者を尋ぬ。
かれは富める者なれども
志卑しからず。
都にもおりおり通いて、さすがに旅の情けをも知りたれば、日ごろとどめて、長途のいたわり、さまざまにもてなしはべる。
(都にもたびたび往来しているだけあって、旅の心もよくくわきまえているので幾日も自分たちを引留めて、長旅の労をねぎらい、あれこれともてなしてくれた)
涼しさを わが宿にして ねまるなり
(清閑の涼を楽しんでいるあるじ清風の心根が偲ばれるこの座敷の涼しさを我物顔にのうのうとくつろいでいます)
這い出でよ 飼屋(かいや)がしたの 蟾(ひき)の声
(蚕を飼っている床下で(万葉の歌)そのままにヒキガエルが鳴いている。そんな暗い所で鳴いていないで這い出しておいで)
眉掃きを 俤(おもかげ)にして 紅粉(べに)の花
(女性の唇を彩る原料となる紅粉花。花の形は女性が化粧に使う小さな刷毛を思い出させます。なまめかしくも優しい感じをただよわせています)
蚕飼(こが)ひする 人は古代の 姿かな 曾良
(蚕を飼うことは古代に始まる習慣だがこの土地の人が袴にも似たフグミをつけて蚕を飼っているのは神代の姿さながらのようだ)
「ようやく翁が楽しみにしていた清風さん宅につきましたね」
「ちょうどベニバナの開花期で忙しいのに悪かったかな」
「しかし毎回トリバコであっちこっち旅籠を探すんじゃ疲れちゃいますよ。宿泊先が決まっていると楽ですね」
「トリバコってなんだい?」
「旅籠の宿泊代金の安い所を探す閻魔帳です」
「しかしさすがに清風さん。多忙と言ってもこんな新築のお寺を世話してくれるなんてにくいじゃないの。
極楽、極楽。 涼しさを わが宿にして ねまる也 てっか」
「翁も清風さんのこと、さらりと褒めて嫌味が感じられないですね」
「人を褒めるのにああだこうだとネチネチ書くと感じが悪くなります」
「清風さんはベニバナの不買同盟にあいましたが品川海岸で焼き捨てて相場が高値になり3万両もの利益をあげたそうです」
「この国の未来に平成などと言う時代がくるがその時生れていたらジョージ・ソロス氏やウオーレン・バフェット氏と肩を並べる投資家になっていたかもしれません」
「儲けた金をバフェットさんならボランテァ活動に寄付でもしますが、清風さんは儲けた金で3日3晩吉原の大門を閉じて遊女たちに休養を与えました。日本的でいいですね」
「しかし養泉寺には甘えて7日も逗留してしまった。その間僧侶や庄屋さんなども会いに来てくれるし俳句の会もやったしよかったね。実際に世話してくれた素英さんにも感謝です。」
「サービスして本文にも涼しげな俳句を4本も載せましたね。それにあたしの句も載せていただいたおかげで帰ってから講演会でもやった時にはギャラがあがります。」
「同じサービスでもサービス残業じゃないから誰にも迷惑かけていないよ。それにしても江戸を立つときは決死の覚悟だったけれどなんだかこの辺まで来るとホッとして先が楽しみになって来ました」
「この先清風さんの勧めてくれた立石寺に行ってみましょう。歌枕にはなかった場所ですが二人で新しい名所を創りましょう」
「二人とは大きく出たね。この旅と紀行文は私が主催しているのです」
「分かっていますよ。翁との一線は超えません。ワイドショーにでてくるような男女の仲でもありませんから」
「なに言ってるんだかね」
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