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大人になったら学者か博士

2017-01-21 17:30:00 | 編集手帳

1月11日 編集手帳

 

 ドイツの数学者ガウスに逸話がある。
ある問題に熱中しているとき、
医者がそばに来て、
2階で奥さんが危篤だと告げた。
ガウスは目をそらさず、
つぶやいたという。
「待つように言ってくれ。
 もう少しで解答が出る」

作家のアイザック・アシモフが『アシモフの雑学コレクション』(新潮文庫)に書き留めている。
これは少々度が過ぎた例だが、
研究以外は目に入らない没頭ぶりは古今の学者に共通する習性であり、
魅力でもあろう。
熱中することの美しさを米国の作家ジョン・スタインベックは別の表現で語っている。
〈天才とは、
 蝶(ちょう)を追っていつのまにか山頂に登った少年である〉と。

第一生命保険が『大人になったらなりたい職業』を保育園児と小学生に聞いたところ、
男の子では、
「サッカー選手」に次いで「学者・博士」が2位を占めた。
前年8位からの急浮上という。
無心に蝶を追いつつ、いつか山頂に立つ子もいるだろう。

そういえば、
「末は博士か大臣か」という言い回しを最近は聞かない。
いつぞやの「よみうり時事川柳」を思い出す。
〈勉強をせぬとああいう大臣に〉。
聞かないわけである。



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優しい人になること

2017-01-21 07:15:00 | 編集手帳

1月9日 編集手帳

 

 英国の名門大学オックスフォードには、
新入生に上級生が言葉遣いを仕込む伝統があった。
はっきりものを言い切らない。
モゴモゴしゃべる。
終わりに「でしょう?」をつける。
もちろん低い声で。

オックスフォード・アクセントの流儀らしい。
大声でまくし立てるのは見苦しい。
一人前の人はぼかした言葉を使う。
それが奥ゆかしいと、
英文学者の外山滋比古さんがある随筆に書いている。

思ったままを口にすれば、
時に相手を傷つける。
声高な自己主張ばかりでは議論にならない。
相手を気遣い、
尊重するのが大人の作法ということだろう。

123万人の新成人が、
新たな門出を迎えた。
世界を見渡せば、
人々の分断をあおるポピュリズムが台頭し、
罵詈(ばり)雑言を重ねる人物が大国の指導者になる。
作法も何もない。
生きる指針を見失う若者も多いのではないか。

人生で最も後悔しているのは、
優しさが足りなかったこと――
米国の作家ジョージ・ソーンダーズは大学の卒業生へ向けたスピーチでそう明かし、
「優しい人になること」を人生の目標にと説いた。
新成人に何を伝えるか。日本の大人も改めて考えたい。



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