1月11日 編集手帳
ドイツの数学者ガウスに逸話がある。
ある問題に熱中しているとき、
医者がそばに来て、
2階で奥さんが危篤だと告げた。
ガウスは目をそらさず、
つぶやいたという。
「待つように言ってくれ。
もう少しで解答が出る」
作家のアイザック・アシモフが『アシモフの雑学コレクション』(新潮文庫)に書き留めている。
これは少々度が過ぎた例だが、
研究以外は目に入らない没頭ぶりは古今の学者に共通する習性であり、
魅力でもあろう。
熱中することの美しさを米国の作家ジョン・スタインベックは別の表現で語っている。
〈天才とは、
蝶(ちょう)を追っていつのまにか山頂に登った少年である〉と。
第一生命保険が『大人になったらなりたい職業』を保育園児と小学生に聞いたところ、
男の子では、
「サッカー選手」に次いで「学者・博士」が2位を占めた。
前年8位からの急浮上という。
無心に蝶を追いつつ、いつか山頂に立つ子もいるだろう。
そういえば、
「末は博士か大臣か」という言い回しを最近は聞かない。
いつぞやの「よみうり時事川柳」を思い出す。
〈勉強をせぬとああいう大臣に〉。
聞かないわけである。