1月19日 編集手帳
江戸期の殿様は家臣にかしずかれ、
したい放題に暮らしていたかと、
普通は思う。
〈いや、なるものではありませんよ〉。
広島藩の最後の藩主、
浅野長勲(ながこと)氏はある対談で語っている。
飯にネズミの糞(ふん)が交じっていても、
素知らぬ顔で食べたという。
〈誰かが腹を切らなければならんようになるので〉。
何によらず、
人の上に立つ者には寛容と忍耐が求められるのだろう。
そのどちらも持ち合わせないところが嫌われたのかも知れない。
就任直前の支持率で、
40%は歴史的な低水準という。
米国のドナルド・トランプ次期大統領である。
批判めいた指摘を受けるや、
闘争本能むき出しでツイッター攻撃に走る。
狭量と短慮が招いた数値だろう。
日本で使う「不徳の致すところ」にあたる言い回しは、
向こうにないのかしら。
批判に耳を傾けることの効用を、
シェークスピアは戯曲『十二夜』の登場人物に語らせている。
〈だってさ、
友だちはおれをほめあげてばかにするが、
敵は正直にばかだと言ってくれるんでね〉(小田島雄志訳)。
志村けんさんではないが、
この二文字、
「殿」によく馴染(なじ)むところが不気味である。