1月24日 編集手帳
「がんばって」とは声をかけない。
背中を叩(たた)いて励ましもしない。
ここが勝負どころと承知していても、
知らん顔で送り出す。
稲畑(いなはた)汀子(ていこ)さんの句がある。
〈受験子(じゅけんし)の旅立つ朝を常(つね)の如(ごと)〉
こちらの期待を負担に感じ、
またコチコチに緊張されては困るからね。
「がんばれ」とは言うまいぞ。
知らん顔、
知らん顔…。
我が家に受験生はいないのだが、
この半月ほどを一句の親心に似た気持ちで過ごしてきた。
いまは、
浪人中の息子に合格通知が届いたような心持ちでいる。
大相撲の初場所で、
大関稀勢の里(30)が初の賜杯を手にした。
あすには、
日本出身の力士として19年ぶりの横綱昇進が決まる運びである。
〈稀勢の里君(きみ)が何とかせにゃいかん〉(東京・後藤克好)。
その時事川柳が本紙に載ったのは8年前である。
「今場所こそは」と期待され、
そのたびに大事な星を落としてはファンをがっかりさせてきた。
本人がいちばん悔しかったはずである。
千秋楽の、
万感の涙が語っていた。
季節には早いが、
南国から寒緋(かんひ)桜(ざくら)の便りが届く頃である。
その言葉を贈ってもいいだろう。
冬に耐えて、
耐えて、
「サクラサク」。