10月6日 編集手帳
まずは<袖振れ合うも多生の縁>と書いてみる。
小社には校閲部といって誤記を見つけるプロがいる。
いま赤鉛筆を持ち上げたところだろう。
正しくは<袖振り合うも…>。
なぜ<振り>なのか。
着物の女性が互いに袖を振り合う様を想像するけれど、
辞書の中には<触(ふ)り合う>と表記するものもある。
ご縁とは何だろう。
袖がすれ違う程度ではなく触(さわ)り合うほどだと考えると、
にわかに人のぬくもりがにじみだす。
これほど親切な人が多く登場する事件を知らない。
大阪府の警察署から脱走した樋田淳也容疑者(30)の逃避行である。
愛媛県庁では「日本一周」のプレートを作ってもらい、
「がんばって下さいね」と励まされた。
野宿をしていたそうだが、
寺に泊めてもらったこともあると出会った人にうれしそうに語っている。
道の駅などでは見ず知らずの人に食事やアイスクリームをごちそうになったとの情報もある。
記事を読んでいるとき、
ふと元スパイダース井上順さんがほがらかに歌う姿が浮かんだ。
♪お世話になりました…。
樋田容疑者は黙秘しているという。
袖振り合った方々へ、
礼くらい言いなさい。