2月15日 読売新聞「編集手帳」
人を励ますのに「花」を用いる箴言(しんげん)は多い。
夏目漱石にもある。
<あなたの生涯は過去にあるんですか、
未来にあるんですか。
君はこれから花が咲く身ですよ>(「野分」)
いつだったか詞を眺めて、
漱石を超えているのではと感動したのを思い出す。
平成時代、
日本で最も売れた歌『世界に一つだけの花』である。
<そうさ僕らは
世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい>
じつはボブ・ディランが歌詞でノーベル文学賞に選ばれたときも、
先の一節を書いた人の顔を思い浮かべた。
ディランにも負けていないのではないかと。
箴言の名手でもなく“詩人”でもなく、
いかめしい呼称を付けざるをえないのが残念である。
槇原敬之容疑者(50)が覚醒剤の所持容疑で逮捕された。
かつて本紙に歌作りをこう語っている。
僕が確固たる意志を持って作りつづけたのはライフソングだと。
生き方や心からいいと思ったことを伝えていきたい…
『世界に一つ――』はこの先どうなるのだろう。
世界に一つのライフソングとして、
励まされた人はあまりに多い。