2月19日 読売新聞「編集手帳」
ウミミドリ、
という希少植物がある。
図鑑によると、
かつては日本の多くの海岸に生え、
初夏から夏にかけ淡紅色の花を咲かせる。
漢字では海緑と書き、
夏の浜を彩る花として親しまれたことがうかがえる。
先頃届いた手芸グループの案内状に教わった。
「うみみどり」。
東日本大震災の津波で家を流された、
福島県新地町の女性で作る手芸団体の名である。
震災の翌年、
故郷の浜でこの植物が見つかったという。
津波に負けず花を咲かせたのである。
私たちも続こう!
そんな思いがウミミドリの花をあしらうポーチなどの作品に表れている。
「暮らしを慈しむ東北マダムたちの手しごと展」
(3月11~17日、東京・新宿高島屋)が開かれる。
うみみどりのほか、
被災者で作る3団体が参加する。
希望を手仕事に込めた手芸展は今年で5回目になる。
そのうちの一つ、
原発事故で大熊町から会津に避難した人たちの「會(あい)空(くう)」は、
去年も当欄で紹介させていただいた。
会津から大熊まで続く空…いつかそこに帰ろうと、
皆で考えた名だという。
被災からもうすぐ9年になる。
故郷の空、
海は今、
どう見えているだろう。