2月27日 読売新聞「編集手帳」
陰暦では新年を迎える前に、
立春を迎えることがあった。
このズレをおもしろがった平安時代の歌人・在原元方の歌が古今集に残る。
<年の内に春は来にけり一年(ひととせ)をこぞとや言はん今年とや言はん>(年内に春が訪れた。
この1年を去年と呼んだらいいのか今年と呼んだらいいのか)。
現代で言えば、
この戸惑いは年度替わりに通じるものがある。
3月に年度が終わり、
4月に新しいそれがはじまる。
例年であれば、
今時分は次の1年の始まりに目線を移している頃合いだろう。
だがどこを見ていいか定まらず、
落ち着かない年度末を迎えようとしている。
新型肺炎の感染拡大への懸念からコンサート、
スポーツ大会、
絵画展…きのうは続々とイベントの中止が発表された。
プロ野球ファンは日程通りに球春を迎えられるか、
気になるところだろう。
東京都立高では春休みを前倒しする。
学期末及び新学期の境目はどこか、
卒業式や入学式はどうなるのか、
カレンダーを眺めても見えないことばかりである。
視界不良の春が近づく。
<春の嶺々みるみる霞立ちにけり>松村蒼石。
ふだんの年なら、
美しい春霞(はるがすみ)なのだが。