昔、各地の有名な峠では地元の兄ちゃんが「誰が一番早く走れるか」で競走をしていたという。勿論バイクで。
「よそから速い奴が来た」なんて噂が飛ぶと、早速「俺が勝って見せる」と集まって来る(のだそうだ)。いつも空を旋回して(噂を)見張っている鳶のように峠にすぐ集まって来るから彼らのことを「峠トンビ」と言ったんだとか。
上手く言ったもので、確かにトンビってそんな奴らだ。
奴らに比べれば鴉はそんな競走したり、訳もなく乱暴な攻撃をしてきたりはしない。攻撃をしてくる時はそれなりに理由がある。
そして「狡猾」というより「賢い」。「三本足の鴉」や鬼滅の刃の「遣い鴉」を持ち出すまでもなく。
人が近くにいる時は悪さをしない。逆にゴミを出し遅れて屋外に二日も三日も野晒しにしていれば、必ず見つけて食い破る。そうさせないためには玄関内に置くしかない。
しかし、何でこんな天気の時に限って収集が早いのだろう。
・・・・と思ったことは以前にもあったな。そして答えは出ていた。
わざわざ雨の中を捨てに行って網をどかしてゴミ袋を置いて、また網を掛け直して。その間、相当に濡れながらの作業になる。
そんなことをするより二三日後、次の収集日まで家に置いておこうか、となるのが人情だ。家に置いておくのは邪魔になるけれど、ちょっとの辛抱。濡れることはないし。
結果、雨の日は(それも雨や風が強ければ強いほど)ゴミの出される量は減る。
普段でも収集車は電光石火の早業、数十秒でゴミを回収する。ゴミの少ない雨の日はおそらく普段の半分か3分の一の時間で作業を終えてしまう。雨中の仕事が軽減されて作業員も少し楽になる。
そうして雨の日は、例えばいつもなら10時前後に終えるところが、9時過ぎには終わってしまって次の収集場所へ。
まあ、そんなところじゃなかろうか。
「あ~っ、遅かったよ~!」と思いながら帰って玄関にゴミ袋を置き、着ていた雨具を脱いでしばらく迷った挙句、玄関ドアに掛ける。
「やる気なくなったなぁ~」と思いながら、大体今日は何もやることはなかったんだと気づく。
「あ~っ、ますますやる気がなくなった~っ」と意味の通らないことを言いながらコーヒーを淹れ、牛乳をぶち込んで電子レンジで温める。
そして「あ~っ、腹立つぅ~っ」と思いながらミルクコーヒーを飲んでいる「雨の朝」。