昨年暮れのブログに師走のBGMは勝手にベートーヴェン月間として毎日ベートーヴェンを聴きまくる話題を書いた。月並みだが、その中でも『第九』を聴いていると…・。師走が『第九』であれば明けて新年初めてのBGMはドヴォルザークの交響曲第九番『新世界』と決めている。元日は一日中『新世界』を数種類の盤で聴きまくって仕上げはヨハン・シュトラウス2世のワルツ集で締めくくるのである。どうやら何かと決め事を作るのが好きな性格らしい。
ドヴォルザークと言えば甦るのが少年時代のこと。有名な第2楽章のラルゴは通っていた小学校の下校のテーマだった。哀調を帯びたこのメロディーが放送室から流れてくると遅くまで校庭の隅で遊んでいた居残り組もしぶしぶ引き上げるのである。もっと強烈に印象に残っているのは音楽室での思い出である。戦後すぐに創立されたその小学校は木造のオンボロ校舎で大雨の日は雨漏りがそこら中でおこり、白アリの大発生あり、夕方は塒になっている体育館からアブラコウモリがたくさん飛び立った。音楽室はそのオンボロ校舎のさらに昼なお暗い場所の二階にあり、薄暗い階段の壁には額装された古い音楽家のリアルな肖像画(当然印刷物だが)がかかっていた。モーツアルトやメンデルスゾーンなどはまだ性格が良さそうな西洋人のお兄さんなのだが、子ども心にブラームスとドヴォルザークは怖かった。映画『日本海海戦』に登場するバルチック艦隊のロシア人艦長のように長い髭を蓄えて強面の表情をしていたのである。さらにこの音楽室にはいわゆる「学校の怪談」があった。それは「放課後暗くなった頃、訪れると誰もいないはずの音楽室から悲しげなピアノの音が聴こえてくる…」という王道を行ったお話しだった。恐ろしげなリアル肖像画と怪談話。この二つの恐怖から僕は「音楽」という授業がとても嫌いになった。
話が音楽からかなり脱線してしまった。『新世界』のぼくの愛聴盤はLP時代から聴いてきたもので、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、シカゴ交響楽団による1977年録音による超名盤である。緻密で明瞭な表現が心地よい。現在CDではシューベルトの『未完成』とのカップリングでかなりお得になっている。いろいろ聴いたがもう一枚というと最近お気に入りの巨匠ヴァーツラフ・ノイマン指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団による1993年録音の盤。『新世界』交響曲がニューヨークで初演されて成功を収めてから100年、その記念のコンサートとしてプラハで演奏されたもの。堂々としていて迫力があり王道中の王道の『新世界』となっている。
今月も残すところあとわずか。月が変わらないうちに、もう一度この二枚の名盤をじっくりと聴くことにしよう。画像はトップがジュリーニ盤のジャケ、下がノイマン盤のジャケ。