デスクワーク、畑仕事、山仕事と目の回るような忙しさの季節。椎茸のホダ木の灌水のついでに山の除草と山蕗の採取へ。最高気温が28.8度になったこの日は、長坂峠に出ると冠着山(姨捨山)方面に積乱雲が出来始めていました。これは今年初の雷雨になるだろうと思いました。この間まで、朝は炬燵が必要だったのに、夏の景色です。信州の季節の移ろいは、本当にドラスティック。体がついて行きません。それでも夏と違うのは湿度。25%しかないので、暑さの割には快適です。盛んに鳴くハルゼミも、夏のミンミンゼミやアブラゼミに比べると喧騒感はありません。ただ、まとわりつくクロメマトイやアブやハエが煩い。
ナルコユリ。前記事の菅平のアマドコロと比べると、ずいぶんと華奢です。斜めに高く立ち上がる感じではなく、横に這うような感じです。本来葉の下にぶら下がっているはずの花が葉の上にあるのは、風で煽られたからでしょう。周りは野生の三つ葉の群生です。お浸しにして食べますが、味は濃い味のセリという感じです。
シダ類も旺盛に伸びてきました。左はリョウメンシダ。表裏が同じような感じです。右はイノデ(猪の手)でしょう。出始めの芽が茶色で猪の手のように見えるからの命名だそうです。妻女山のニホンカモシカは、リョウメンシダとヤブソテツは食べますが、イノデを食べた所や食痕は見たことがありません。しかし、このイノデを食べる虫がいるのです。イカリモンガという蛾の幼虫の食草なのです。数ある蝶や蛾の仲間でも、シダ類を食草とするのは極めて珍しいといえます。
イカリソウ(碇草)は、淫羊霍(インヨウカク)という強壮剤で、前述のアマドコロと共に小林一茶が酒に漬けて愛飲したというもの。体を温め、冷えからくる腰痛にも効くそうです。全草が薬効があるそうですが、薬酒に入れるため、今回は根っ子だけを使います。
日当たりの良い所に生えるヒレアザミ(鰭薊)。図鑑には草丈1mとありますが、これは1.5mもありました。葉だけでなく茎にまで刺のある板状のヒレがあるのですぐ分かります。精神安定、利尿、解毒作用がある薬草です。中国では、嫩葉(どんよう)、つまり若葉を食用としたそうですが、中華炒めでしょうか。塩と油で茹でて牡蠣ソースでしょうか。『倭名類聚抄』にも布保々天久佐(フホホテグサ)と出てくるので、帰化したのは相当古い時代です。モリアザミの根っ子がヤマゴボウ。帰化植物のヨウシュヤマゴボウの根は有毒です。妻女山山系では、このヨウシュヤマゴボウ、オオブタクサ、セイタカアワダチソウ、カモガヤ、アレチウリなどが、主な除草の対象になります。除草作業の人にお願いですが、蝶の食草になるイボタノキやクララは、形を覚えて切らないでください。産み付けられた卵が全滅します。効果のない松枯れ病の農薬空中散布は、シジミチョウ類に壊滅的な被害を出しています。
妙に高いタンポポ(蒲公英)を見つけました。今までのシナノタンポポの最高が80センチだったのでメジャーで測ってみると、なんと81センチ。記録更新です。しかし、よく見ると、これはセイヨウタンポポとの交雑種でした。シナノタンポポは、カントウタンポポの亜種で、共に2倍体。偶数倍数体は大きく育つ傾向があるのですが、シナノタンポポは、いつできたのでしょう。まさか、世界中で核実験が盛んだった頃ではないでしょうね・・。古代の窒素飢餓が有性生殖、2倍体を産んだという説があるようです。
貝母(編笠百合)は、果(さくか)をつけ、枯れ始めました。梅雨入り前には種を飛ばし始めます。風車のような水車のような形をしているので、種はウバユリの様に薄いのかと思って開いてみると、2ミリほどの楕円形でした。今度は果が弾けるところを撮影してみたいものです。
ミヤマウグイスカグラ(深山鶯神楽)の赤い実がなり始めました。実をついばむウグイスが神楽を舞っているようにみえることからの命名だそうですが、残念ながらそのシーンは、まだ目撃したことがありません。実はナツグミのような渋みはなく酸味もなく甘いのです。子供の頃、これをたくさん口に含んで潰して飲んで、種をブブブッと飛ばした記憶が蘇ります。
トンボエダシャクでいいのでしょうか。幼虫はお馴染みの尺取り虫。地面にはアオオサムシと昆虫の死骸を食べる森の掃除人ヒラタシデムシが盛んに這いまわっていました。
アワフキムシ(泡吹虫)。この泡は、中にいる幼虫の排泄物、つまりおしっこで、界面活性剤のアンモニア石鹸で泡立っているのです。いわば、自分で作ったシャボン玉の中に住む虫なんです。アリなどは、中に入ったら即窒息と、非常に高い防御性があるのですが、この泡を難なく破る天敵がゴミムシ(塵芥虫)です。
昼にKさんのログハウスに行ってみました。時間がないのですぐに戻りましたが、見える景色はもう夏のそれでした。古墳の上も除草されていましたが、そうです。この上には亡きKさんが植えたヤマシャクヤク(山芍薬)があるのですが、息子さんご存知でしょうか。切ってしまったかな。毎年梅雨頃咲いたけれど、咲くのが3、4日と短く、見頃に出会えるのが難しい花なんです。
ところで、今頃里山に入ると必ず虫に刺されるのです。それもズボンの中に入って柔らかい膝の裏や腿の内側など。マダニではないようですが、野生動物についたノミでしょうか。以前、岩合光昭さんの事務所にライオンの写真を借りに行き、数千カットをチェックしていた時に、王者ライオンのオスの顔や首に、2センチはあるダニがびっしり食いついていて仰け反ったことがありました。妻女山では、大きなオオスズメバチの女王蜂が徘徊を始めました。
例年に比べるとハルジオン(春紫苑)の咲くのが遅めです。それでも結構咲き始めたのでウスバシロチョウが盛んに吸蜜していました。暑く燦々と太陽が照りつけるので、活性が高く凄い速さで頭を振りながら吸蜜して、すぐ別の花に移るので、撮影が難しいのです。ハルジオンは、帰化植物ワースト100に入っているので、本当は除草の対象なんですが、ウスバシロチョウのことを思うと、なかなか除草に踏み切れないのも事実です。蝶の研究家のTさんも言っていましたが、ハルジオンが入ってくる前は、この花の少ない季節に、一体なんの花で吸蜜していたのだろうと思わずにはいられません。
最後のカットの左は、その日の午前5時の畑。スナックエンドウとニラと二十日大根を採りに行きました。ヒナゲシ(雛芥子)はまだ閉じています。ヒナゲシは、コクリコ(雛罌粟)といわれたり、グビジンソウ(虞美人草)、ポピー、アマポーラなどともいわれ、世界中で愛されています。庭には一般的な赤いケシの花も植えてあるのですが、この太陽色の花が気に入って種を蒔きました。 花言葉は、恋の予感・いたわり・思いやり・陽気で優しい・忍耐・妄想・豊饒。
栽培種からはアヘンはもちろんできません。右は山の帰りに撮影したもの。緑と茶色ばかりの畑で、ひときわ輝いています。ヒナゲシは、世界中で歌われてきましたが、ここでは70年代に流行ったギリシャの歌姫、ナナ・ムスクーリの『アマポーラ』を。もう相当のお婆ちゃんですですけど、若かりし彼女の透明な歌声は、本当に素敵でした。アンドレア・ボチェッリのも秀逸。
Nana Mouskouri - Amapola
★ネイチャーフォトのスライドショーは、【Youtube-saijouzan】をご覧ください。粘菌やオオムラサキ、ニホンカモシカのスライドショー、トレッキングのスライドショーがご覧頂けます。文中のリンクは、ほとんど私のこのサイトからのものです。