
高遠には何百年も前から食べられてきたご当地そばがあります。しかし、そこに商品価値を見出したのは17世紀半ば(江戸時代初期)の会津の人々。高遠で育ち藩主でもあった保科正之が会津藩に移封された際に持ち込み、それが人気を博したのだとか。高遠の人々には長らく~平成の世になるまで!~農山村の家庭料理という認識しかなく、店で売ろうとか観光資源にしようとかいう発想はまったくなかったそうです。二十年ほど前にようやく、会津で「高遠そば」という名で定着しているのを知り、ネーミングを逆輸入する形で店で供するようになったという、嘘のような史実なのでした。
さて本家高遠にある、高遠そばの名店のひとつが「ますや」。焼き味噌を薄口甘めのつゆに溶き、おろした辛味大根をたっぷり入れていただく冷たいそばです(他店ではつゆは使わず、辛味大根の絞り汁で溶く場合が多いらしい)。ますやではそばが伸びないように半量ずつ分けて出してくれるのも嬉しい。
お味の方は、これが予想外にGOOD。もっと味の濃い田舎臭い料理かと思いきや、ぜんぜんそんなことはありません。大根の爽やかな辛味、焼き味噌のほどよいコクと香り、そして地元産の実をちょい粗挽きして二八で打ったそばが、不思議だけれど美しいハーモニーを奏でています。これはクセになりそう。1200円~。