電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」を聴く

2007年05月09日 06時16分19秒 | -独奏曲
なんとなく、ベートーヴェンのピアノソナタが聴きたくなり、ブルーノ・レオナルド・ゲルバーのピアノで、ベートーヴェンのピアノソナタ第17番ニ短調、「テンペスト」を聴きました。以前は、コロムビアの廉価盤LP、ダイヤモンド1000シリーズに入っていた、アルフレッド・ブレンデルの演奏(C MS-1053-VX)で聴いていましたが、先日ゲルバーがピアノを弾いたCD(DENON COCO-70751)を見つけ、購入したものです。素晴らしい演奏、見事な録音!これは大ヒットでした。

第1楽章、ラルゴ~アレグロ。やわらかなアルペジオで始まり、せきこむような急速な主題が奏されます。ゲルバーのピアノは、強くて深い低音を響かせながら、すっと力を抜いた柔らかい音を対比させます。レチタティーヴォでは、ペダルを使っているのでしょうか、打鍵のあと減衰するまでの「間」が絶妙です。速いパッセージでの、粒立ちのそろった音が、実にきれい!
第2楽章、アダージョ。みかけ上は穏やかで平和な音楽。主題も変奏も美しいのですが、遠くに聞こえる雷の音のようなフレーズが、終始つきまといます。気になり出すと気になる、憂いの種でしょうか。
第3楽章、アレグレット。不安感と緊迫感が、疾走感を伴って展開される音楽です。でも、その中にも美しい旋律が隠されています。

1801年から1802年にかけて作曲された、30代初頭の作品ですから、かろうじて「若いベートーヴェン」の範疇に入るのでは。今聴いても、じゅうぶんにインパクトがありますから、当時としてはかなり実験的・野心的な作品であろうと思います。「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた時期の作品ではありますが、どうもこれで音楽を説明できるとは思えません。それよりも、形式の中にありながら、形式に収まり切れない感情や音楽的な内容を盛りこむことを恐れなくなった、たんに若々しくフレッシュなだけではない、作曲家ベートーヴェンの自立と円熟の始まりを感じます。

ブレンデル盤は、アメリカVOX原盤で、1960年頃の録音でしょうか。最初のベートーヴェンのピアノソナタ全集だったそうです。「月光・悲愴・熱情」「ワルトシュタイン・告別・テンペスト」「後期三大ソナタ集」の三枚のLPをダイヤモンド1000シリーズで集めることができ、ずっと親しむことができたことを、幸せに思います。
ゲルバー盤は、1992年9月、DENONによるスイスのヴヴェイでのたいへんに鮮明なデジタル録音。堂々としたテンポの、こういう演奏・録音であればこそ、長く親しんだブレンデルの旧盤にとって代わることができます。

■ブルーノ=レオナルド・ゲルバー盤
I=8'01" II=8'02" III=6'49" total=22'52"
■アルフレッド・ブレンデル盤
I=7'40" II=7'40" III=5'45" total=21'05"
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