前日に久々の週末農業で働いた骨休めの日曜日、妻と映画を観に出かけました。お目当ては、もちろん山形で先行上映の「花のあと」です。藤沢周平原作の『花のあと』についてはすでに記事としており(*1)、映画の完成を楽しみに待っておりました。なんでも、27日の土曜日には、主演の北川景子さんの舞台挨拶も予定されていた(*2)のだそうで、すでに予約がいっぱいで、やむなく日曜日に延期したという次第。
映画は、前半は実に淡々と、静かに日常が描かれます。海坂藩の組頭・寺井甚左衛門の跡取り娘である以登は、女ながら父に仕込まれた剣術の腕では男にひけをとりません。藩内の道場に試合を挑み、ことごとくしりぞけるほどの技倆です。でも、残念ながら当日は、道場の筆頭である江口孫四郎は不在、なんとか試合をしたいと願っていたその人に、二の丸の花見の折りに話しかけられ、念願の手合せが実現することとなります。
組頭の家で息女と立ち合う試合の日、好漢・江口孫四郎は、以登を女だからと侮ることなく、見事に勝利をおさめます。しかしその立ち居ふるまい、実にすがすがしく、さすがに男勝りの以登さんも、思わずぽーっとなってしまいます。しかし父は、片桐才助という男を以登の婿に選び、以後、娘が孫四郎と会うことを禁じます。また、孫四郎のほうにも縁談が起こっていたのでした。
孫四郎のほうの縁談とは、とかく男の噂の絶えない奏者番の娘・加世との縁組でした。噂の男とは、17歳も年上の藤井勘解由で、策略を用いて孫四郎を切腹に追い込みます。あのステキな孫四郎さんが切腹したには裏があるに違いないと信じる以登さんは、江戸から戻った婚約者の片桐才助に頼んで、真相を探らせます。それはなんとも卑劣な、色と賄賂にまみれたものでした。上役に訴えても、執政たちが賄賂にからめ取られている現状では、握りつぶされるのが落ちです。以登は、自力で仇を討つことを決意します。
ということで対決場面になるわけですが、これは観てのお楽しみ。原作との違いで興味深かったのは、父・甚左衛門の碁敵の老医師の飄飄とした味でしょう。護衛の三名を倒し、藤井勘解由をもただ一突きで仕留めた腕前に感心しながら、誰だろうと不思議がりますが、突然「あ!」と思い当たるのです。たぶん、負傷した以登さんの腕の傷を治療しているからでしょう。父親の少しく誇らしげな表情も含めて、あの場面は映画ならではの秀逸さでした。
原作の剽軽な味わいを醸し出している、祖母さまの語り口ですが、映画では藤村志保さんが担当しておりました。芸能スポーツ領域にはとんと疎い当方も、さすがにこの方は存じております。「この祖母(ばば)に、あろうことか七人の子を生ませ」などのユーモラスな味わいを、見事に語っておりました。また、片桐才助役の甲本雅裕さんの笑顔は、なんとも言えず憎めないものです。それだけではなく、不思議な包容力と人徳もあり、また探索の要領も粘り強さも持ち合わせており、さすがは寺井甚左衛門が見込んだだけのことはあります。と同時に、律義で清廉な江口孫四郎の限界も、甚左衛門は見ていたことになるのでしょうか。
主演の北川景子さん、はじめのほうで木刀を振る場面は、おいおい、もうすこしちゃんと振らなきゃだめでしょ、と思ってしまったのですが、後半の真剣を持った場面などは、かなりまともに振り回していました。映画「武士の一分」の木村拓哉さんの刀さばきは実に見事でしたが、北川さんは剣道の経験はほとんどないはず。役者さんの仕事の一部とはいえ、それっぽく見えるにはかなり道場に通い、練習を積まなければだめだったろうと思います。その努力は、たいしたもんです。
(*1):藤沢周平『花のあと』を読む~「電網郊外散歩道」より
(*2):花のあと 山形キャンペーン~Keiko's Blog 北川景子オフィシャルブログより
映画は、前半は実に淡々と、静かに日常が描かれます。海坂藩の組頭・寺井甚左衛門の跡取り娘である以登は、女ながら父に仕込まれた剣術の腕では男にひけをとりません。藩内の道場に試合を挑み、ことごとくしりぞけるほどの技倆です。でも、残念ながら当日は、道場の筆頭である江口孫四郎は不在、なんとか試合をしたいと願っていたその人に、二の丸の花見の折りに話しかけられ、念願の手合せが実現することとなります。
組頭の家で息女と立ち合う試合の日、好漢・江口孫四郎は、以登を女だからと侮ることなく、見事に勝利をおさめます。しかしその立ち居ふるまい、実にすがすがしく、さすがに男勝りの以登さんも、思わずぽーっとなってしまいます。しかし父は、片桐才助という男を以登の婿に選び、以後、娘が孫四郎と会うことを禁じます。また、孫四郎のほうにも縁談が起こっていたのでした。
孫四郎のほうの縁談とは、とかく男の噂の絶えない奏者番の娘・加世との縁組でした。噂の男とは、17歳も年上の藤井勘解由で、策略を用いて孫四郎を切腹に追い込みます。あのステキな孫四郎さんが切腹したには裏があるに違いないと信じる以登さんは、江戸から戻った婚約者の片桐才助に頼んで、真相を探らせます。それはなんとも卑劣な、色と賄賂にまみれたものでした。上役に訴えても、執政たちが賄賂にからめ取られている現状では、握りつぶされるのが落ちです。以登は、自力で仇を討つことを決意します。
ということで対決場面になるわけですが、これは観てのお楽しみ。原作との違いで興味深かったのは、父・甚左衛門の碁敵の老医師の飄飄とした味でしょう。護衛の三名を倒し、藤井勘解由をもただ一突きで仕留めた腕前に感心しながら、誰だろうと不思議がりますが、突然「あ!」と思い当たるのです。たぶん、負傷した以登さんの腕の傷を治療しているからでしょう。父親の少しく誇らしげな表情も含めて、あの場面は映画ならではの秀逸さでした。
原作の剽軽な味わいを醸し出している、祖母さまの語り口ですが、映画では藤村志保さんが担当しておりました。芸能スポーツ領域にはとんと疎い当方も、さすがにこの方は存じております。「この祖母(ばば)に、あろうことか七人の子を生ませ」などのユーモラスな味わいを、見事に語っておりました。また、片桐才助役の甲本雅裕さんの笑顔は、なんとも言えず憎めないものです。それだけではなく、不思議な包容力と人徳もあり、また探索の要領も粘り強さも持ち合わせており、さすがは寺井甚左衛門が見込んだだけのことはあります。と同時に、律義で清廉な江口孫四郎の限界も、甚左衛門は見ていたことになるのでしょうか。
主演の北川景子さん、はじめのほうで木刀を振る場面は、おいおい、もうすこしちゃんと振らなきゃだめでしょ、と思ってしまったのですが、後半の真剣を持った場面などは、かなりまともに振り回していました。映画「武士の一分」の木村拓哉さんの刀さばきは実に見事でしたが、北川さんは剣道の経験はほとんどないはず。役者さんの仕事の一部とはいえ、それっぽく見えるにはかなり道場に通い、練習を積まなければだめだったろうと思います。その努力は、たいしたもんです。
(*1):藤沢周平『花のあと』を読む~「電網郊外散歩道」より
(*2):花のあと 山形キャンペーン~Keiko's Blog 北川景子オフィシャルブログより