電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く

2010年03月22日 06時12分09秒 | -室内楽
若いベートーヴェンがボンからウィーンに出て、ハイドンらに師事し対位法などを習っていた頃に、記念すべき作品1として発表した3曲のうちの最後の曲目が、「ピアノ三重奏曲第3番ハ短調Op.1の3」です。伝記によれば、ハイドンはベートーヴェンの三曲の作品について、Op.1-1とOp.1-2については出来栄えを称賛し、ただしこのOp.1-3については、出版を見合わせたほうが良いのではないか、と評したのだとか。

もしそれが事実なら、後年のベートーヴェンびいきの立場からはハイドンの限界だとか見る目がないなどと批判されるわけですが、いっぽうでハイドン擁護の立場からは、作品の斬新な価値はわかっていたが、家庭用音楽の用途にはいささか時代に先んじすぎるのではと心配した、ということになります。まあ、そのあたりの真相は薮の中で、ほんとのところはわかりませんが、結果的にはずいぶん人気を博した曲のようです。

第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ。今でも少々ぎょっとするような、弦の不可思議な始まりです。たしかに、ハイドンならずとも「をいをい、どうしちゃったの?」と聞きたくなりますが、でもその後の展開は、さすがにベートーヴェン。家庭用の演奏目的から離れ、しっかり弦とピアノとが対比される形で展開される、充実した楽章です。
第2楽章:アンダンテ・カンタービレ・コン・ヴァリアツィオーニ。魅力的なアンダンテ・カンタービレなのですが、それも単に歌う緩徐楽章であるだけではなくて、みっちり変奏曲になっているところに、若いベートーヴェンの覇気と自負が感じられるようです。
第3楽章:メヌエット、クワジ・アレグロ。短いメヌエット楽章ですが、優雅な舞曲というよりは、メヌエットという舞曲のスタイルを借りただけなのでしょう。
第4楽章:フィナーレ、プレスティッシモ。速いテンポで急くように、短調で始まりますが、最後は長調で静かに終わります。なかなか魅力的な楽章です。

後年のベートーヴェンを知る者には、いかにも彼らしい曲だと納得できるのですが、当時の古典的な様式感や、このジャンルが家庭用音楽という目的で作られる曲が多かったことなどを考えると、あまりにも明らさまに感情を表明するのは慎みのないことだと思われていたのかもしれません。それに対して、市民階級の成長により、家庭用音楽の担い手である娘さんたちの技量もかなり向上していたのでしょうし、感情の表明なにが悪い!というのが、当時の急進的な青年たちの姿だったのかもしれません。ヨーロッパの革命前夜の気分は、おそらくそんなところなのかも。そのあたりに、この曲が受け入れられる余地があったということでしょう。

演奏はスーク・トリオ、メンバーは、ヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)の三人です。型番は DENON の COCO-70917 というもので、1984年の春にプラハの芸術家の家で収録されています。制作は Dr. Eduard Herzog、DENON のデジタル録音です。

■スーク・トリオ
I=10'10" II=7'10" III=3'46" IV=8'01" total=29'07"



若いベートーヴェンの春にあたる、出世作である作品1の3曲を一通り聴きました(*1,2)。スーク・トリオの演奏もまた三曲ともフレッシュで、後年の巨大な世界の重々しさはまだないけれど、なかなか魅力的な音楽です。

(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
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