電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

内橋克人『新版・匠の時代(3)』を読む

2012年02月26日 06時09分26秒 | -ノンフィクション
技術の恩恵を感じるものの一つに、「かな漢字変換」があります。昔、梅棹忠夫著『知的生産の技術』を読んだときに、合理的な割り切り方に感心すると同時に、例の「カナモジ論」のほうは、やや違和感を持ちました。かな漢字変換の技術が開発され、FEP が多彩に普及していったとき、「カナモジ論」もカタカナ・タイプライタも、技術の進歩によって葬られたのだな、と感じました。

ところで、その「かな漢字変換」の技術開発については、同時代を生きていながら、意外に知らないことに気づき、たまたま手にした岩波現代文庫の中から、内橋克人著『新版・匠の時代(3)』を読みました。

本書の内容は、

(1)ワープロ誕生の日ー東芝・総合研究所を母としてー
(2)ベルギーの冬ー本田技研
(3)ホンダの発想ー超常識の「4輪操舵」

というものです。
とくに、「ワープロ誕生の日ー東芝・総合研究所を母としてー」が興味深いものがありました。日本語の言語学的研究に踏み込まなくてはならなかった事情も、よくわかります。「○○する」という表現が可能な「サ変名詞」なんて、本来の日本語文法にはないのに、現実のコンピュータ日本語処理では、必須の概念です。こういう概念がなかったこと自体が、言語学上の不備だ、などと不遜なことを言いたくなるほどです。

16ビットのパソコンの時代になって、ATOK,VJE,WXP,DFJ,OAK,MKK,EGBridge,Katana など多様なFEPを使うようになりました。config.sys の記述の仕方や、日本語の変換能率を比較検討する記事が、雑誌の定番でもありました。今、思えば隔世の感があります。

「4輪操舵」の開発史についても、興味深かったのは、最終的にクランク一本で問題を解決したあたりでしょうか。最近でも、トランスミッションの改良で大幅な燃費改善に成功した話もあります。ハイブリッド方式や電気自動車による根本的な改革もありましょうが、こうした地道な努力にも光が当たってほしいものです。

技術開発の現場を取材したノンフィクションで、なかなか面白い本です。
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