電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

村井純『インターネット新時代』を読む

2012年02月17日 06時02分27秒 | -ノンフィクション
岩波新書で、村井純著『インターネット新時代』を読みました。著者の岩波新書は、1995年の『インターネット』、1998年の『インターネットII』に続く三冊めになります。いずれも、情報通信技術の側面から社会を眺めることができる好著で、興味深く読んでいます。今回の『~新時代』のほうは、啓蒙の性格が強かった前二冊からさらに進んで、社会に与える影響というよりも、さらに進んで、グローバル空間の成立という新たな事態を認識させるものです。2010年1月刊の本書の構成は次のとおり。

第1章 メディアが変わる
 1 デジタルでテレビはどう変わるか
 2 マルチメディアとインターネット
 3 広告の変革
 4 社会制度の調整
 5 流通するデジタル情報
第2章 無線とモビリティー携帯電話の将来
 1 持ち歩くスタイル
 2 どこでもつながる情報空間
 3 街と家の中はどうなるか
 4 電波空間をどう使うか
 5 宇宙に広がるインターネット
第3章 地球規模のインフラストラクチャへ
 1 クラウド・コンピューティングの意味
 2 光ファイバー網の発展
 3 IPv6への期待
第4章 地球社会とインターネットの課題
 1 インターネットは危険なのか
 2 人間のための情報社会
 3 高信頼性インターネット社会
第5章 グローバル空間
 1 グローバル空間のルール作り
 2 断片化とのたたかい
 3 世界の中の日本
第6章 未来へ向けて

なかなか興味深い、有意義な本でした。

本書の内容から離れて、しばし勝手な空想に遊びます。
うーむ。しばらく前にさかんに言われていた、電気ポットがインターネットにつながると、遠隔地から独居老人の安否確認ができるという話ですが、今回の東日本大震災を経て、私の考えはだいぶ変わりました。あの大きな災害で、長時間の停電が続くとき、結局いちばん大切だったのは、遠方の親族ではなく、ご近所の人たちのつながりでした。自宅にいた妻も、素早く独居老人宅を訪問して安否確認をしたとのことで、あとでたいへん心強かったと感謝されたそうです。
湯沸かし電気ポットという製品自体が、小回りのきかない原子力発電を前提に、夜間電力を有効利用しようと開発された製品なのではないかと思います。いわば、原子力発電を前提とした電力バブルのあだ花のようなものでしょう。インターネットの意義を説明する例示としては、あまり適切なものではないように感じます。

むしろ、昨今のソーシャル・ネットワークの流行の影に、負の要素が見え隠れすることが気になります。例えば、大学生のネットワーク社会の中に、集団で情報発信や言論を抑え込むグループが発生したとすると、徒党を組んだ人たちを頂点とするヒエラルキーが成立してしまうのではないか。企業活動の中でも、派閥や人脈による暗闘が予想されます。レベルはだいぶ違いますが、サイバーテロなども、根本は共通でしょう。情報通信ネットワークが現出させたグローバル空間では、「多数が少数を支配抑圧することができる」という現象が顕在化するのでは。著者の言う、統治(ガバナンス)というのは、多分そういうことをいかに避けるかという知恵を目指すものと思われますが、ルートサーバーを頂点とするコンピュータ・ネットワークにおいて、果たして少数者は守られるのか?

いささか話が大きくなったかもしれませんが、場合によっては情報通信ネットワークからある程度まで身を隔離しても生活できるようにしておく、という選択肢も意味があると空想してしまいます。多分、そんなことはできない時代になっていくのだろうとは思いますが。

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