講談社刊の単行本で、砂原浩太朗著『高瀬庄左衛門御留書』を読みました。2021年1月に第1刷が刊行され、4月には第5刷が出ているという具合にたいへん注目された作品で、直木賞候補にもなったはず。私もメモはしていたのですが、このたびようやく手にしたものです。
主人公は高瀬庄左衛門。神山藩の郡方として働いてきましたが、息子の啓一郎に跡目を譲り、妻を亡くして息子と嫁の志穂と小者の余吾平と暮らしています。ところが、郷村周りのお役目で新木村に向かったはずの息子が死んだと報せを受けます。崖下に転落したらしく、嫁の志穂との間にはまだ子もないため、嫁は実家に戻らせ、余吾平には暇を取らせます。庄左衛門は郡方に復帰したった一人の暮らしを始めますが、義父と共に暮らすことを願った志穂は、次弟の俊二郎とともに絵を習いたいと通うようになります。
実家を継ぐ弟が、たびたび酒の匂いをさせることに不審を抱いた志穂は、思い余って庄左衛門に相談しますが、それは藩の政争に巻き込まれていく始まりで、息子の死にも実は思いがけない背景があったのでした。
高瀬家に婿入りする前の若かりし頃、腕に覚えのある次男坊・三男坊たちには道場主の娘をめぐる競争がありました。運が良かったのか悪かったのか、古い因縁が回り回って現在の政争の中に再び顔を出す展開は、リアルな緊迫感があります。ストイックな主人公だけでなく、藩校で息子の啓一郎が競ったライバルで、今は助教として江戸から戻った立花弦之助や、新木村の名主の次郎衛門など、脇役として登場する様々な人物像も魅力的です。あらすじをあまり詳しく書くと読む時の面白さが半減してしまいますので、ぼかしたままにしておきますが、一読後すぐに再読を始めたほどで、久々に文章が格調高く、また筋書きもおもしろい小説を読んだという気がしています。おすすめです。
◯
ちょっとだけ茶々を入れるならば、親子ほど年の離れた嫁が義父を思慕する感覚がわかりません。それって、国際ロマンス詐欺に遭いそうな危ない中高年の妄想じゃないのか(^o^)/ そういえば、どこかにもそんなドンファンがいたなあ、などと思ってしまいます。女性作家でも年の差をものともしない作品がありますが、私の感覚ではむしろ疑問視してしまうほう(*1)です。そうそう、ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』も、かけ離れた年の差愛の問題を感じさせる面(*2)があります。まあ、70歳のゲーテが16歳の少女に恋をしたなんていう話を聞くと、たぶんゲーテもボケはじめていたんだろう、などと考えてしまう理系石頭ですので、どうにも仕方がありません(^o^)/
(*1): 川上弘美『センセイの鞄』を読む〜「電網郊外散歩道」2007年12月
(*2): ベルンハルト・シュリンク『朗読者』を読む〜「電網郊外散歩道」2019年7月
主人公は高瀬庄左衛門。神山藩の郡方として働いてきましたが、息子の啓一郎に跡目を譲り、妻を亡くして息子と嫁の志穂と小者の余吾平と暮らしています。ところが、郷村周りのお役目で新木村に向かったはずの息子が死んだと報せを受けます。崖下に転落したらしく、嫁の志穂との間にはまだ子もないため、嫁は実家に戻らせ、余吾平には暇を取らせます。庄左衛門は郡方に復帰したった一人の暮らしを始めますが、義父と共に暮らすことを願った志穂は、次弟の俊二郎とともに絵を習いたいと通うようになります。
実家を継ぐ弟が、たびたび酒の匂いをさせることに不審を抱いた志穂は、思い余って庄左衛門に相談しますが、それは藩の政争に巻き込まれていく始まりで、息子の死にも実は思いがけない背景があったのでした。
高瀬家に婿入りする前の若かりし頃、腕に覚えのある次男坊・三男坊たちには道場主の娘をめぐる競争がありました。運が良かったのか悪かったのか、古い因縁が回り回って現在の政争の中に再び顔を出す展開は、リアルな緊迫感があります。ストイックな主人公だけでなく、藩校で息子の啓一郎が競ったライバルで、今は助教として江戸から戻った立花弦之助や、新木村の名主の次郎衛門など、脇役として登場する様々な人物像も魅力的です。あらすじをあまり詳しく書くと読む時の面白さが半減してしまいますので、ぼかしたままにしておきますが、一読後すぐに再読を始めたほどで、久々に文章が格調高く、また筋書きもおもしろい小説を読んだという気がしています。おすすめです。
◯
ちょっとだけ茶々を入れるならば、親子ほど年の離れた嫁が義父を思慕する感覚がわかりません。それって、国際ロマンス詐欺に遭いそうな危ない中高年の妄想じゃないのか(^o^)/ そういえば、どこかにもそんなドンファンがいたなあ、などと思ってしまいます。女性作家でも年の差をものともしない作品がありますが、私の感覚ではむしろ疑問視してしまうほう(*1)です。そうそう、ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』も、かけ離れた年の差愛の問題を感じさせる面(*2)があります。まあ、70歳のゲーテが16歳の少女に恋をしたなんていう話を聞くと、たぶんゲーテもボケはじめていたんだろう、などと考えてしまう理系石頭ですので、どうにも仕方がありません(^o^)/
(*1): 川上弘美『センセイの鞄』を読む〜「電網郊外散歩道」2007年12月
(*2): ベルンハルト・シュリンク『朗読者』を読む〜「電網郊外散歩道」2019年7月