電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ヒルトン『失われた地平線』を読む

2014年12月09日 06時03分50秒 | -外国文学
ヒルトンと言えば、『心の旅路』の作者であり、大戦間期の不安な時代を舞台に、教養ある知識人や中産階級以上の人たちの姿を描く作家、という印象を持っています。2011年の河出文庫で、ヒルトン著・池央耿訳『失われた地平線』(原題:LOST HORIZON)は、第一次世界大戦の悲惨を経験し、次の戦争の到来を予感しながら、地球最後の楽園を夢見て構想されたであろう、文明論的な広がりを持つ冒険小説です。

プロローグは、パブリック・スクールの同窓生で独り身のイギリス人が三人、ベルリンで再会したところで、共通の知人の話題が出ます。バスクルの革命に際し、避難する民間人の輸送に当たっていた飛行機が乗っ取られ、カシミールの山岳地帯に消えた事件があり、行方不明者の中に友人コンウェイの名前があった、という一件です。「グローリー」コンウェイとあだ名された英国領事ヒュウ・コンウェイとはどんな人物か。

ケンブリッジの競艇では代表選手で、雄弁会では指折りの論客、あれやこれやで賞を獲り、ピアノは玄人はだし、多芸多才で将来の首相候補と目されている。戦争ではフランスの塹壕戦で負傷して殊勲賞を受け、オックスフォードに戻ってしばらく指導教官をつとめ、1921年には東洋に行って語学に達者になった。イギリス領事。新人にも親切で強い印象を残す。学校時代、校長は「グローリアス、燦然たる」と評し、卒業式にはギリシア語で答辞を述べ、学園祭の芝居では一級品の役を演じ、水際立った男ぶりで精神と肉体が拮抗して漲る活力など、エリザベス朝の文人を思わせる (筆者要約)

というのですから、これはすごい! まさしくスーパーマンというべきでしょう(^o^)/

第1章は、まさにこのハイジャック後の機内の様子です。第2章では、インドだかパキスタンだかから北へ向かった飛行機が、カラコルムを越えて孤絶の山岳地帯に着陸しますが、操縦士は死亡してしまいます。第3章では、コンウェイを含む乗客4人が、シャングリ・ラの僧院に救出され滞在することとなります。四人の滞在者は、それぞれに事情があり、歓迎する者も不満を持つ者もいますが、第4章では謎の僧院でのゆったりした生活が描かれます。第5章以降では、シャングリ・ラの僧院の文化的水準の高さが描かれ、図書室が充実し、羅珍という少女?の演奏するピアノの曲がモーツァルトやショパンであるように、名だたる作曲家のすべての曲を取り揃えているそうな。しかも、洗練された陶磁器や蒔絵細工などの古美術に囲まれ、静謐と精緻と細美の中に生活するのです。(ふーむ、このあたりは、いかにも階級社会・英国の知識人らしく、楽園におけるゴミ処理やし尿処理の方法等については言及しないのですね。)

第7章と第8章では、シャングリ・ラのラマ僧院の歴史と秘密が明かされます。そして、次の大戦で世界の強者が相戦い、滅ぼし合った後に、柔和な者が地を受け継ぐというイメージが語られます。なんだか、どこかのカルトに利用されそうな(^o^;)>poripori
第9章からは、コンウェイが1人でどう判断し、行動するのかが焦点になって来ますが、せっかくの物語を楽しむことができるように、あらすじはここまでといたしましょう。



本書を読み、おぼろげながら遠い記憶がよみがえります。中学生の頃に子ども向けに訳された本を読んだのだったか、それとも映画か何かの記憶が残っているのか、はっきりしませんが、たしかコンウェイが羅珍にひそかに思いを寄せており、羅珍は実はコンウェイとマリンソンと二股をかけていて、コンウェイとマリンソンが協力して岸壁を乗り越えるが、羅珍はマリンソンのほうを選んで行ってしまう、というふうに単純化されていたと思いますが、はて?
私も、後に発見されたコンウェイと同様、記憶喪失症にかかっているのかもしれません。原因は熱病ではありませんが(^o^;)>poripori


コメント    この記事についてブログを書く
« ペンを握る角度と筆記具適性... | トップ | 紙面を細かく配慮することと... »

コメントを投稿

-外国文学」カテゴリの最新記事