
一番厳しい博士課程後期の総合演習IIの授業から戻ってきた。ちょうど世界女子バレーの試合が実況中継中で、テレビの前でロシアと闘う日本代表の試合を見た。中味汁を食べながら、そしてすでに店頭に出たまだ少し酸っぱいクガニーをデザートにしてーー。
三セット目と四セットを見た。2m以上の選手が二人で交互にアタックするロシアである。槍のように日本選手を突き刺す勢い。それでも彼女たちの身長のプラスを攻める隙間はあるようだと、見ていて感じていた。何事にも完璧はない。いや、ありえる。しかしチームプレイは完璧なハーモニーが崩れるとそのまま崩れる。アタックの前に耐える技術、スペックが高くないとだめだよね、とそばで途中から見た17歳が言う。スペックが違うんだからね、それに頭脳戦だろうけど、あのサーブやアタックを受け止める技がないとね、と言って一瞥した。それにしても身長差がありすぎる。柔道が体重で競技を区分けするように、バレー競技も身長制限をしたらどうだろう。2m以下とか、190㎝以下とかーー。それに対しては、「スポーツは身体の多様性に柔軟にできている。あんな体重オーバーの人間が輝くスポーツは相撲だけだよね。それにあの身長が輝くのはバスケットとかのスポーツさまさまだよね」と云い捨てる者もいる。
前置きはそれぐらいで、気がつくと、郵便を入れる箱の中になんとあの岡本先生からご本が二冊入った大きな茶封筒が届いていた。中を見ると丁寧にお手紙まで添えられていた。あの方はことばの約束を守る律儀な方である。そして後一冊の封書は、私も「沖縄芝居」の項目(定義)を書かせていただいた『民族小辞典:神事と芸能』だった。手ごろで読みやすい。
岡本祐子先生はごいっしょにお食事した時、「アイデンティティーはもう卒業しました」と、お話されていたが、二冊のご本のアウトラインやイントロを読むとその意味が伝わってくるようだった。『アイデンティティー生涯発達論の射程』と『アイデンティー生涯発達論の展開』の二冊は特に中年期の危機を対象に据えた臨床検証に基づく専門書である。自らに照らしながらじっくり読ませていただきます!
人生の曲がり角を遠に過ぎてもアイデンティティー・クライシスの中にある私自身を見つめてみても、臨床事例の豊富なこの書物は、身近な問題に思える。大学関係者の事例もあるゆえか、彼らの不安や葛藤やまさに出口なしの状況に落ち込む様が共感できそうである。
岡本先生ありがとうございました。中年期の危機とその淵からの展開、身につまされながら読み進めますね。私も自分の著書をお送りしたい所ですが、共著を送らせていただきます。遅れてきた者は先生の26冊に及ばないまでも死に至る日が来る前に10冊ほどの書をこの世に残したいなどと夢のようなことを考えています。
引用「心は一生を通じて発達していく。心の発達・成熟の契機とは何か。心はどこへ向かって発達していくのか。誰もが一度は自分自身に問う実存的問い。長くなった人間の一生、その中で成人期の意味が変化してきている。30にして立たず40にして惑い50にして天命を知らない。そういう時代に生きている我々の実態を克明な調査から明らかにする」
愛の渇望は言葉の渇望でもある。ことばの力【奇跡】を信じたい。